第58話 湖探索


 リューク達は凍った湖の上を歩く。海のように波がないのでほとんだ真っ平らな氷の地面となっている。


「――わっ!?」


 その真っ平らな氷の上で足を滑らすアメリア――近くを歩いていたリュークが腰を抱いて受け止める。


「本当に転ぶんだなお前……」

「す、すまないリューク……ありがとう」


 すぐに体勢を立て直してリュークから離れるアメリア、目を背けて頬を紅くを染めて礼を言う。


「さすがですアメリア様……そんな自然な転び方などあたしには出来ません」

「わざとじゃな……そうだ、わざとだぞ。意図してやったことだ。サラもこれくらい出来ないとな」

「はい! 頑張ります!」

「転ぶのを頑張るってどういうことだよ……」


 リューク達は足元に気を付けながら――魔力探知を欠かさず油断なく湖を探索する。


 一時間ほど歩くとリュークが最初に凍らせた湖の範囲ギリギリまで到着するも、目当てのバジリスクはリュークの広範囲の魔力探知にすら姿形が見えずにいた。


「ここまで来たが……バジリスクが見えないな。本当にここにいるのか?」

「わからんな……なんせ魔帝様がバジリスクを仕留めたのは一〇年以上も前のことだ。それから住み場所を変えててもおかしくはない」

「ここまで来て徒労に終わるなんてこともあるわけですね……」

「それに湖が大きすぎる。ミスったな……魔法で湖を凍らせたら怒って襲ってくるとかすると思ったんだけど」

「そんなことも考えていたのか……」

「だけど湖の中にも魔力探知を広げているが全くバジリスクの姿が見えない。早く見つけないとないけないのに」

「……手分けして探すのは?」


 リュークが意図して避けていた提案をサラが言う。


「そうしないと今日中に湖を探せないわよ。手分けしても探し終えるかわからないほど大きいんだから」

「……そう、かもな」

「リュークよ、私達のことを心配しているのはわかるが……これは必要なことだ。私達も覚悟を決めてリュークに付いてきたのだから」


 アメリアとサラを見て、リュークは苦渋の決断をするように口を開く。


「わかった。ただし、二人は一緒に行動してくれ。二手に分かれて探してみよう」

「ああ、それでいい。もとより私もサラのそばから離れるつもりはなかった」

「アメリア様……」


 サラはアメリアの発言に複雑な思いを抱く。

 いつものことなら一緒にいることを嬉しがっていたが、今この状況ではサラ一人では心配だという事だった。

 心配してくれるのはもちろん嬉しかったが、一人では危ないと判断される自分の実力に不甲斐無さを覚える。


「じゃあ俺はここから右を探す。お前たちは真っすぐ進んでくれ」


 リュークは左右に分かれるのではなく、真っすぐと右に分かれることによって少しでも遠くならないようにと考えた。


「了解だ。ではここからは別行動だな」

「そうだな、気を付けて進んでくれよ」

「そっちこそ、死ぬんじゃないわよ」


 リュークはもう一度、『絶対零度アブソリュートゼロ』を撃って半径五キロほどの湖の表面を凍らせる。

 そして今いる場所に天高く氷柱を作る。直径三メートル、高さ一〇〇メートルほど。


「三時間ほど経ったらまたここに戻るようにな」

「わかった。ではリュークよ、お互いに健闘を祈る」

「また後で」


 そしてリュークは右に、アメリアとサラは真っすぐと進みだす――。


 一時間ほど進むと、リュークは一度立ち止まり後ろを振り向く。


「……こっから進むとあいつらを見失うな」


 魔力探知の半径二キロの中から二人は外れようとしている。

 リュークは躊躇いながらも、二人を信じて一歩前に足を踏み出す。



 しかし――リュークもアメリアもサラも知らなった。

 バジリスクという魔物の恐ろしさについて――。



 アメリアとサラはゆっくりと進んでいた。

 このラミウムの湖において、魔力探知に自分たち以外で少しでも動くものがいたらそれがバジリスクである。

 アメリアとサラは魔力探知をしているが全く変わることない反応に感覚が狂うような錯覚に囚とらわれてくる。

 まるで自分は歩いておらず、ここにずっと立ちすくんでいるかのようだった。


「……サラ、大丈夫か?」

「はい……アメリア様。だけど……少し、息が苦しいです」

「む、そうだな……リュークより私の方が風で囲っている範囲が狭いからな。新鮮な空気を早く欲するのは当たり前か」

「すいません……」


 アメリアは考える。ここで新鮮な空気を取りに行くには上に『次元跳躍ワープ』しないといけない。

 しかし、ここで数秒ほどではあるがサラを一人にすることになる。


「……サラ、私は上に新鮮な空気を取りにいかないといけない。大丈夫か?」

「はい……だい、じょうぶです。おねがい、します」


 サラは息切れをしながらアメリアに伝える。


「……すぐ戻る。待っていろ」


 アメリアは上へと跳ぶ。アメリアの魔力探知の範囲では一回では毒の空気までは辿り着けない。数回跳んでようやく新鮮な空気のところまで戻ってきた。


 アメリアは風魔法で空気を囲んで空気ごと下まで持っていく。


 空中から地面が見え最後に地面まで跳ぶ。


「サラ、遅くなっ――」


 地面に戻って初めて異変に気付く。


 ――サラが、どこにもいなかった。


「なっ!? サラっ!!」


 アメリアは魔力探知をしているが範囲内には全く生命の反応がなかった。

 しかし、先程いた時とは違うところがあった。


 アメリアは地面を見る――そこには大きな跡があった。

 氷の上を何か巨大なモノが通った跡、それが左方向へと続いていた。

 巨大なモノ……ここにそんなモノがいるとしたらただ一匹しかありえない。


「――サラっ!!」


 アメリアはそう叫んで『次元跳躍ワープ』した。


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