第166話 届くか


「では、戦いを始める」


 神の使いは二人と戦ったときと同じように、そう宣言した。


 右手を先程と全く変わらない位置に掲げる。


「俺にも三度だけ先の攻撃を許してくれるのか?」

「左様。だがそなたは先程、一度我の攻撃を防いだ。それを一度目と数え、あと二度だ」

「そうか、二度あったら届くかな」


 そう言うとリュークは木刀を腰に差し、柄に右手を添えて構える。


「っ! 居合い……!」


 リュークの構えを見て、レンがそう呟いた。


 腰に差した状態から抜刀し、相手を斬る。

 リュークほどの技術と力を持っていれば、相手に知覚すらさせずに斬ることができるだろう。


 だが……。


「リュークのやつ大丈夫なのか? あの神の使いってやつは、物理攻撃は効かなかっただろ?」


 どれだけ速く斬っても、効かなかったら意味がない。


 先程の二人の戦いでは、神の使いを斬っても意味がなかった。

 雲を斬ったように、手応えがなかったのだ。


 だから相手は物理攻撃は効かない。

 魔法で攻撃しないといけない。


 レンとセレスはそう思っていた。


 しかし、リュークは違う。


 神の使いの正体はもうわかっている。

 物理攻撃が効かない訳ではない、通じにくいだけ。


 それを理解した上で、斬ろうとしているのだ。


「俺の刀が届くか、実験させてもらうぞ」


 幸運にも、相手は動かず、攻撃を仕掛けてこない。

 何も考えないで、集中して刀を振るうことができる。


 身体の力を、抜く。

 柄に添えている右手は、握らずにただ置いているだけ。


 そして――。


「『居合い、一閃イッセン』」


 レンとセレスの目には、リュークが刀を抜いたところは全く見えなかった。


 目を全くそらさなかったのに、気づいたらリュークは刀を抜いて、振り終わっていた。


 そして神の使いの身体には、亀裂が入っていた。


「効いた……?」

「いや、まずなんだあの亀裂は?」


 物理攻撃が効いたことにも驚く二人だったが、神の使いの身体に入った亀裂が気になる。


 右の脇腹から左肩にかけて、真っ白な身体に黒いヒビ割れが入っている。


 おそらくリュークが攻撃した箇所がそこなのだろう。

 だが、血が全く出ていない。


「人間じゃねえとは思っていたが、もはや生物なのかすら怪しいぞ……!」


 首や頭を斬っても通り抜けるような生物がいるとは思えない。


 得体も知れない何か。

 それが神の使い。


「二度目だ」


 自分の身体に亀裂が入っていることを、全く気にしていないかのように、先程と同じようにそう告げる。


「はぁ、ダメだったか」


 リュークはため息をついて、そう呟いた。

 悔しそうに、木刀を見ている。


「父ちゃんと何が違うんだろうなぁ。力は俺の方が上のはずなんだけど、技術が足りないのか?」


 先程の攻撃の反省をしているらしいが、レンとセレスはそんなリュークを見て不安になる。


「おいリューク、大丈夫なのか!? あと一回だぞ!?」

「ん? ああ、そうだな」

「大丈夫……?」

「大丈夫だ、もう終わらせるから」


 リュークは反省を一度やめ、神の使いに対峙してまた構える。


 先程と同じ構え。

 それを見て二人はさらに不安になってしまう。


「おいおい、本当に大丈夫なのか? あと一回あの攻撃をすれば倒せるってことなのか?」

「わからない……」


 心配そうに見ている二人をよそに、リュークは気楽に構えている。


「あの攻撃じゃお前を倒せなかった。だけど、それだけ削れるってことは、これはもう耐えられないだろ?」

「……」


 リュークの問いかけに答えない神の使い。


「じゃあ次は、俺の最大火力で攻撃するぞ」


 そう言った瞬間――リュークの木刀に、魔力が走り、魔法が宿った。


 雷、炎、風。

 最強の攻撃魔法が、リュークの木刀に重ね合っている。


「な、なんてバカでけえ魔力だ……!」

「魔法を、三つ重ねてる……?」


 後ろにいる二人が驚きの声を上げている。

 この攻撃がどれだけの威力になるのか、想像がつかない。


 その一つ一つの魔法が、イサベル陛下の魔法と同等。

 それを三つ重ね、さらにそれを先程の抜刀と一緒に叩き込む。


「耐えてみせろよ、神の使い」


 口角を上げてリュークはそう言って、攻撃を放つ。


「『居合い――魔一閃マイッセン』」


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