第165話 四肢を


 二人の魔法の攻撃は、初めて合わせたのにもかかわらず、ほぼ完璧だった。


 これほどの合体魔法は、普通の人なら数年は練習しないといけないほどだ。


 魔法が苦手な二人でも、合わせて精霊族トップの人と同程度の威力となった。


 あのイサベル陛下の魔法と、負けない威力にだ。


 ――神の使いに、手も足も出ずに負けてしまったイサベル陛下と。


「三度目だ」


 魔法が直撃してもなお、さっきと全く体勢が変わらない神の使いがそこにいた。


「マジかよ……!」

「嘘……」


 セレスとレンは目を見開いて、言葉を漏らす。


 両手斧や刀で攻撃したときと違い、完全に当たったはずだ。

 合体魔法が神の使いに激突し、激しい音が鳴り響いたのだから。


 手応えはあった。

 しかし、どう見ても無傷である。


「さて、では攻撃を始めるぞ」


 神の使いがそう言って、次の瞬間――。


 先程から掲げていた右手から、神々しい光が放たれた。


 辺り一面を真っ白に染める光。


 これが攻撃なのかなんなのか何もわからずに、セレスとレンは光を遮ろうと目を腕で覆う。

 しかしそれでも耐えられずに、目を瞑った。


 目を瞑り何も見えないが、絶えず光が放たれていることがわかる。


「くそ! 何も見えねえ!」

「っ……!」


 セレスは苛立ったようにそう叫ぶ。


 レンは目を瞑っているが、どうにか神の使いの気配を探ろうとする。


 しかし、何も感じない。

 最初から神の使いに対して気配察知ができていなかったのだから、見えなくなってからもできなくて当然だ。


 これが攻撃なのかわからないが、このまま攻撃されたら何もできずにやられてしまう。


「くそ! どうしたら……あっ?」

「ん? あれ、なくなった……?」


 何もできずに焦り始めた二人だったが、突如光がおさまった。


 今の光でまだ目が慣れないが、まばたきを何度もしながら目を開けていく。


 ようやく目の前の光景をしっかりと捉えられるほどになると、そこには――。


「……邪魔をしたな、そなた」

「悪いな」


 リュークが神の使いと対峙していた。


「リューク、何かしたのか?」

「ああ、二人への攻撃を防いだ」

「攻撃って、あの光?」

「いや、あれはただの目眩しだ。そのあとに二人の足に攻撃していた」


 リュークの言葉に二人の背筋に冷たいものが走った。


 リュークが助けてくれなかったら、何も感じずに、何もできずに、足を失っていたのだ。


「あ、ありがとうなリューク」

「ありがとう」

「おう。さて、じゃあ選手交代だ」


 リュークはもう一歩踏み出し、神の使いにそう言った。


「ふむ、三人でかかってくるということか?」

「いや、俺一人だ」

「むっ? それはできんな。その二人の望みの代償を受け取っておらん」


 この戦いは神の使いに勝つか、四肢の一本を献上するかでしか終わらないということだ。


「じゃあ、『望みを言う』」


 神の使いの言葉を聞き入れ、リュークは言葉を続ける。


「ふむ、名を聞こう」

「リュークだ」

「覚えておこう。では、そなたは何を望む」

「二人の戦闘を俺が代わりに受け、望みを全て叶えることだ」


 その言葉に後ろで聞いていたレンとセレスが驚く。


「リューク、助けてもらったのは嬉しい。けど、ボクは世界樹の素材を自分で……!」

「レン、世界樹は俺の木刀を作るためのものなんだから、俺にも協力させてくれよ」

「っ! だけど……」

「それに、俺の刀をずっと打ち続けてくれるんだろ?」


 その言葉にレンは少し頰を赤く染め、恥ずかしそうに俯く。


「うん……」

「足が無いと大変だろ。だから俺に任せてくれ」

「わかった……頑張って、リューク」

「おう」


 リュークの言葉に嬉しそうに後ろに下がるレン。


「セレスも、足を失った困るだろ? だから下がっててくれ」

「……なんか、オレにももう少し言葉ないか?」

「ん? どういうことだ?」

「い、いや、なんでもない」


 レンにかけられた言葉より少ないのに、多少の不満を抱きながらも下がるセレス。


「ふふふ……」

「てめぇ、何勝ち誇った顔してんだ!」

「なんでもない……ふふふ」

「オレがお前の足取ってやろうか!」


 そんな会話をしながらも後ろに下がり、リュークと神の使いを見る。


「では、それがそなたの望みで構わないな」

「あ、もう一つ、俺が勝ったら――神に会わせてくれ」

「……ふむ、よかろう」


 その会話に後ろの二人が驚く。


「望みって何個も言っていいのかよ!」

「知らなかった」


 その言葉が聞こえたのか、神の使いが答える。


「そなたの望みは、後ろの二人の願いを引き受けること、代わりに戦うこと、そして主人に会うこと。全てで四つとなった。つまり我と戦い破れた場合――四肢全てを貰い受けることになるが、構わぬな?」

「なっ……!?」

「そんな……!」


 その言葉に後ろの二人が驚く。


 リュークが負けて四肢を献上するとき、その四肢全てを差し出すことになってしまったのだ。


 それなら自分たちが一本ずつ献上したほうがいい。

 すぐにそう考えた二人だったが。


「ああ、それで構わない」


 リュークは何も問題ないかのように、そう言った。


「おいリューク! 本当に大丈夫なのか!?」

「リューク……!」

「大丈夫だ、心配すんな」


 二人は反射的に問いかけたが、リュークは笑いながら答える。


 もうすでに――勝ち筋が見えているかのように。


「では、それがそなたの望みで構わないな」

「ああ」


 二人はまだ心配そうにしているが、それを全く気にも留めないで神の使いは、告げる。


「では、戦いを始める」


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