第167話 消えた


「『居合い――魔一閃マイッセン』」


 その雷は、全てを討ち滅ぼす。

 その炎は、全てを焼き尽くす。

 その風は、全てを裂き尽くす。


 炎と風は相性が良く、お互いをさらに高め合って威力を増す。

 雷はその二つの魔法を上から覆い、威力を倍増させる。


 その全ての力が、神の使いを襲った。


 いや、神の使いだけではない。

 これほどの絶大な威力の攻撃は、神の使いを攻撃した余波で辺りを滅ぼしてしまう。


 リュークの背後にはセレスとレンがいる。

 だから余波がそちらには逸れないようにしていたが、神の使いの背後には全く気を使っていない。


 神の使いを滅ぼしたのかはわからないが、その攻撃はドラセナ山の頂上の一部分を、削った――。


 ――はずだった。


「はっ……?」


 それは、リュークが出した疑問の声だった。


 リュークの想定通りだったら、神の使いは今の攻撃で消える。

 さっきまであった神の使いの魔力が無くなっているから、おそらく消えただろう。


 そして攻撃の余波で目の前の光景が一変するはずだった、それなのに。


 リュークの目の前は、何も変わらなかった。


 変わったのはただ一つ、右手を天に掲げていた神の使いがいなくなっただけ。


 目の前に広がる岩肌の光景は、何も変わっていなかった。


「おお! リューク、勝ったのか!?」

「さすがリューク、すごい攻撃だった」


 後ろにいる二人が嬉しそうにそう言いながら、リュークに近づいていく。

 神の使いがいなくなったから、勝ったと思ったのだろう。


「待て二人とも、なんかおかしいぞ」

「んっ? 何がだ?」

「どうしたの……?」


 二人は気づいていない。

 あんなでかい攻撃で目の前の光景が変わらなかったことが、おかしいということを。


 もしかしたら二人は、それはリュークがわざとやったことだと思っているのかもしれない。


 リュークもやろうと思えばできるだろう。

 二人へと届かないように背後を防御したように、神の使いの後ろも防御すればいい。

 そしたらおそらく攻撃の余波は上だけにいって、目の前の光景は変わらずに済む。


 だがしかし、リュークは神の使いの後ろを防御してないのだ。

 しかも今の攻撃は、神の使いがいた場所を過ぎたところで消滅している。


「何が起こったんだ……?」



「貴方の魔法は、私が消した」



 その声は、上から響いてきた。


 またもリュークが感知できなかったその声の主は、三人が見上げた先にいた。


 それは、人の姿をしていた。

 神の使いと違うのは、人の形をした「何か」ではなく、人に見える「何か」であることだった。


 男性か女性かはわからない。

 髪の長さも肩につくかつかないかくらいで、男性でも女性でもやるぐらいの長さだ。

 顔立ちも中性的で、だが綺麗で整った顔をしている。

 服は真っ白なシャツに真っ白なスボンを履いて、肌も真っ白。

 髪は綺麗な漆黒なので、そこだけが強調している感じだ。


 完全に人の姿をしているのだが……その内に秘める何かが、人間とは絶対に違うと断言できる。


 その何かはリュークだけではなく、セレスとレンもわかるぐらいだ。


 三人とも説明はできない。

 だが、わかる。わかってしまう。


 あれは人間ではない。

 神の使いの方が人間とは違う姿をしていたが、まだあちらの方が人間に近かった。


 一目で人間とはかけ離れた何かだと理解できる。


 そしてその何かは、一言で答えられる。


 空にいるその何かが、自己紹介をするために口を開く。


 三人は自己紹介をしなくても、相手が誰だかわかっている。

 しかしそれでも、名を口にした。



「私は神鳥シンチョウ――神である」

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