第168話 神鳥
「私は神鳥シンチョウ――神である」
空中に浮かんでいる神鳥はそう言ってから、地上に降り立った。
身長はそこまで高くない、リュークよりも少し低いぐらいだ。
だが、なぜかそこに立っているだけなのに――大きく、威圧感がある。
神の使いは全くそういうのがなかったが、神鳥は逆だ。
圧倒的な力がその身体から放たれていて、それを把握しきれない。
「見事だったね、人族の子。あいつに勝つとは」
リュークを形としては見上げて言っているが、態度は上からだ。
いや、なぜかリュークは今、神鳥に下から目を合わせられているのだが、上から抑えつけられているような感覚があった。
「……ありがとう」
「久方振りにあいつが倒されるのを見た。なあ使い、どうだった」
「はい、我が主人よ」
「――っ!」
突如、神鳥の隣に神の使いが現れた。
またもやリューク、そして後ろにいる二人も気づかないうちにそこにいた。
リュークはもうすでに正体がわかっているからこそ、気づかないのは悔しい。
そして冷や汗をかき、唾を飲み込む。
自分と、神鳥の実力の差がどれだけ離れているのか。
それがなんとなくわかってしまったからだ。
「レンとセレスティーナという二人は、今まで来て弱い我に敗れた者と大差ありません」
神の使いは、自分より弱い者の力の差異など気づかないし、興味がない。
レンとセレスは、イサベル陛下と比べたら実力はかけ離れているだろう。
しかし神の使いにとって、その三人は等しく神鳥より弱い自分よりも、弱い。
それだけのことだ。
「しかしそこのリュークという者は、我よりも強いようです」
「見てればわかるよ。じゃあ質問を変えよう、私とリュークだと、どちらが強い」
「我が主人です。比べるのも烏滸おこがましい」
神鳥の問いかけに、神の使いは即答した。
それが当然かのように、何も疑わずに。
レンとセレスはそれを後ろで聞いていて一瞬だけ何か言いたそうにした。
自分たちが好きなリュークが、負けるはずがない。
今までもその強さを見てきて、負ける姿が想像できない。
そう思って、いた。
だが今目の前にいる神鳥を見て、それは揺らいでいる。
二人にはリュークと神の使いの実力の差など、わかるはずもない。
どちらも力の桁が自分達と違い過ぎて、測れないのだ。
だけども……リュークが勝てるとは、思えないのだ。
「神鳥様、って呼べばいいか?」
「別に様付けなどいらないよ、リューク。私は別に偉くもないのだから」
「神が、偉くないのか?」
リュークは旅に出るまで神という存在を知らなかったが、どの大陸でも信仰されていた。
なので偉いものだと思っていたが、神鳥自信がそれを否定した。
「別に世界を創造したわけでもない。ただ私は、私達は、世界の行く末を見守っているだけなのだから」
神鳥はリューク、それにセレスとレンを見たあと、遠く眺めるように目を細めた。
「この世界は美しく、汚い。そして汚く、美しい。それを見ているのが、永遠を生きる私にとって楽しい生き方だ」
一瞬、神鳥が微笑んだ。
さっきまでは整った顔立ちだが人間味が全くない感じだったが、ようやく人間のような表情が見えた瞬間だった。
「さて、リュークが望んでた四つの望みは、神の使いに勝ったことで全て叶えることになるね」
「あ、そういえばそうだったな」
神鳥が出てきた驚きなどでそのことを忘れていたリューク。
リュークが望んでいた四つの望み。
レンが望んだ世界樹の素材をもらうこと。
セレスがレンと共に戦うこと。
リュークが二人の代わりに戦うこと。
そして神様に会うということ。
「四つの望みの内、もうすでに三つは叶えられている」
「まあそうだな。神鳥が終わった瞬間に出てくれたし」
「面白い戦いだったよ。だがあのまま貴方の攻撃が放たれていたら、一つ目の望みが叶えられそうになかったからさ」
「……そうか」
神鳥が止めたというのはわかるが、リュークすらどうやって止めたのかがわからなかった。
気づいたらいつの間にか自分の攻撃がかき消されていた。
リュークにとって、初めての経験だった。
「レンだっけ、一つ目の願いは」
「あ、はい……そうです」
神鳥に見られて、ビクッとしながらも返事をするレン。
「世界樹の素材だよね。じゃあちょっとついてきて」
「なあ神鳥様よ、オレも行っていいのか?」
「別に構わないよ」
そう言って神鳥は道無き道を進んでいく。
山なので登り坂になっているので、山頂に近づいているということはわかる。
言われた通り三人は神鳥の後ろをついていき、神の使いは三人の後ろを歩いている。
「なんだよ、神様って言うもんだからどんな奴か予想がつかなかったが、意外と普通なんだな。力が桁違いなのはわかるが」
セレスが小さな声で他の二人に聞こえるようにそう言った。
「もっと尊大な感じだと思ったが、案外違うんだな。神を信仰してる奴に見せてやりてえな。まあできないが」
「ここに来るのは一応禁忌。言ったら即刻死刑になる」
「わかってるよ」
セレスよりも背が低い身長を後ろから見つめる二人。
精霊族の大陸では神鳥はとても信仰され、その姿すらほぼ誰も確認したこともないのに敬われていた。
その信仰などを聞いていたら、神鳥の態度や姿はなんだか拍子抜けだった。
二人がそんな会話をしていたが、リュークは黙って何か考えごとをしながら歩いていた。
「ついたよ、ここら辺だ」
一分ぐらいしか歩いていないが、神鳥が後ろにいる三人の方に振り返ってそう言った。
「はっ? ここ? 何もないぞ?」
セレスが言った通り、見渡してもさっきまでと変わらず岩肌しか見えない。
世界樹の素材をくれると言うのでそこまで連れていってくれると思っていたのだが、世界樹の姿形は見えない。
「別にどこでもよかったんだけど、いつもここら辺で創ってるから」
「はっ? どういう、こと――」
セレスが疑問の声を言い切る前に、それは現れた。
神鳥の後ろ、つまり三人の眼前に――茶褐色のものが見えた。
最初は壁なのかと思うぐらいに大きかったが、その正体がわかってくる。
横を見ると茶褐色のものが大きすぎて、終わりが見えない。
そしていつの間にか三人が踏み締めている地面も、岩肌ではなく茶褐色のものに変わっていた。
そのでか過ぎる茶褐色――大樹を見上げると、空に限りなく広がる緑が見えた。
「これが世界樹と呼ばれてるものだよ。まあ私が、創ったものだけどね」
剣神と魔帝の息子はダテじゃない shiryu @nissyhiro
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