第160話 いざ世界樹へ

 宮殿に呼ばれた理由を説明し終わり、その説明によって起きた誤解なども解けた。


 そして、リュークが話を切り出す。


「じゃあ、そろそろ世界樹に行くか」


 その言葉を聞いて思い出したかのように、セレスがハッと目を見開く。


「そういえばそうだったな。いろんなことがあって忘れてた」

「ボクは忘れていなかった。あなたがバカなだけ」

「うるせえよ、お前も本当は忘れてただろ」

「あなたと一緒にしないでほしい」


 また二人の言い争いが始まると思いきや、それを止める者が現れる。


「お主ら、本当に世界樹へ行くつもりなのじゃな?」


 重々しい口調で、グラウスがそう言った。


 その言葉に、言い争いをしていた二人は止まった。


「うん、行くよ、グラおじさん」


 その問いかけに答えたのは、レンだった。


 グラウスのライバルだったダリウス、唯一の弟子であるレン。

 そのレンが、師匠と同じように世界樹に行こうとしている。


「そうか……あいつと同じように、世界樹の素材を取りにか?」

「うん。師匠と同じ素材で、師匠と超えるために」


 真っ直ぐとグラウスの目を見て、そう告げるレン。


 グラウスはその目に、ダリウスの面影を見つけたような気がした。


「そうか、ワシは止めんよ。というか、止められるとは思えんからのう」

「うん、グラおじさんが止めても行くよ」

「じゃろうな。気をつけるのじゃよ」


 小さく笑いながら、そう言ったグラウス。


「グラおじさんは、来ないの?」


 レンは少し意外そうにそう問いかける。


 師匠のダリウスと同じ素材で刀、剣を打ちたいという想いは、グラウスにもあると思ったのだ。


「ワシは行かんよ。あいつを超えるために同じ素材を使うってのは、なんか違うような気がするからのう。ワシはワシなりにやっていくよ」

「……そうなんだ。頑張ってね、グラおじさん」

「うむ、レンちゃんも頑張ってな」


 お互いに道は違うけど、目指すところは同じ。


 ヴァリーが持っている木刀、ダリウスの刀を超えるために。


「セレスは行くのか?」

「もちろん行くぜ、オレも世界樹には興味があるからな」


 リュークの問いかけにセレスが威勢良く答える。


 その言葉に少しレンは嫌な顔をして、セレスはそれに気づくも無視をする。


「じゃあ世界樹に行くのは三人だな」

「むっ、ヴァリーは行かないのか?」


 グラウスがそう問いかける。

 ヴァリーは苦笑しながら答える。


「ああ、俺は行ったことあるからな」

「ほー、そうなのか」

「はっ!? 行ったことあるのか!?」


 グラウスは薄い反応だったが、セレスが驚きを隠せずにそう叫んだ。

 レンも目を見開いて驚いている。


「行ったことあるんですか?」

「ああ、この刀をもらった直後にな」

「そうなんですか……!」


 その後、ヴァリーは世界樹に行ったときのことを話した。

 リュークは宮殿に行ったときにも聞いたが、他の三人は初耳だった。


「神の使いってやつがいて、そいつと戦うのか」

「それで、勝てば願いを叶えてくれる。負けたら代償として、四肢の一つを持っていかれる……だから師匠は、足が……」

「そういうことだったのじゃな」


 足を失っていたダリウスのことを思い出して、レンとグラウスが納得している。


「ああ、まあそいつは強いぞ。リュークが勝てるかどうかだな」

「そ、そんなに強いのか!?」


 リュークの強さに一番の信頼を置いているセレスが、声を上げて驚く。


 神の使いとやらに会って勝っているヴァリーが言うのなら、その実力差は確かだろう。

 セレスやレンが勝てる相手ではないということだ。


「複数で行った場合はどうなるんだ?」


 セレスが疑問に思ったことを口にする。


 今から行くのはリューク、レン、そしてセレス。


 その神の使いとやらと、一対一で戦うのか、それとも三対一で戦うのか。


「どうだろうな、それはわからないが」


 一度行ったことはあるヴァリーだが、単独で行ったのでそこまではわからない。


「まあ行ってみたらわかるだろ」

「そうだな、じゃあ、頑張って行ってこいよリューク」

「うん、四肢のどこかが無くならないように頑張るよ」

「軽いな、お主ら」


 四肢が一本無くなるかもしれないというのに、軽い感じで話す親子。


「じゃあ行くか」

「今から行くのか?」

「ああ、美味い昼飯も食べて、体調的にもバッチリだろ」

「そんなリューク、ボクのご飯が世界一だなんて……」

「オレのに決まってんだろ、馬鹿かお前」

「馬鹿なのはあなた」


 いつも通りの言い争いをする二人だった。


 そして三人はすぐに準備を終え、ドラセナ山の頂上、世界樹を目指す。


「じゃあ行ってくる」

「おう、気をつけろよ」

「ワシの店で待っているからのう」


 ヴァリーとグラウスに見送られ、三人は街を出て行った。


「ふむ、行ったようじゃのう」

「ああ、まあ死にはしないだろうから大丈夫だろ」

「軽いのう、お主は」


 見送った二人はそんなことを話しながら、グラウスの店に向かう。


「なあ、聞いてもいいか?」

「ん、なんだ?」

「お主は神の使いに勝ったのじゃろう?」

「おう、勝ったぜ」

「じゃあお主が望んだ願いとは、一体なんなのじゃ?」


 誰も聞いていなかったことを、グラウスが問いかける。


 勝ったら無条件で、負けたら獅子の一本を代償に叶う願い。

 ヴァリーは勝ったから、何も代償なしで願いを叶えられたはず。


 その問いかけに少し苦い顔をして、ヴァリーは答える。


「――神に、会わせてもらった」

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