第159話 箱入り


 その後、もう昼時となっていたので全員でまたレンの家に行く。


 家に戻り、昼飯をセレスとレンが作ってくれた。

 いつも通り、リュークにどっちが美味いと言わせるか勝負となった。


「あ、そうだ。二人は宮殿に呼ばれたんだったよな?」

「ん、ああ、そうだな」


 セレスの言葉にリュークが答える。


「結局どういう用件だったんだ?」


 本当ならすぐに聞きたかった内容だが、鍛冶の勝負や料理の勝負をしていたので少し忘れていた。


「んー、どういう用件だったか……一言で言うなら、この国の王に求婚された」

「はぁ!?」

「はっ?」


 リュークの言葉に、レンとセレスが反応した。


 レンに関しては、リュークやヴァリーが一度も聞いたことがないほど低い声が出ていた。


「求婚!? 待てよ、あの陛下にか!?」

「どの陛下かわからんが、この国の陛下だぞ」

「二百年前に自分より強い奴となら結婚するって宣言して、それから一度も結婚しなかったあの陛下に!?」

「そうなのか? まあ、その陛下に」


 リュークとヴァリー以外の全員が、この事実に驚いた。


 グラウスですらイサベル陛下が即位した当時は生まれてなかったが、その話は有名だ。

 今ですら男たちが戦いを挑むのは少なくなったが、まだ挑む者はいる。


「そ、それは断ったのか!?」

「ああ、断ったぞ」

「お、おお、良かった……マジで焦ったぞ」

「セレスが何を焦るんだ?」

「ん? いや、なんだ、まあ色々だ」

「よくわからんが……」


 セレスの気持ちに唯一気づいてないリュークの問いかけに、適当にごまかす。


「求婚だけだったの? それなら断ってすぐに帰ってこれたはずだけど」


 レンがまだ少し疑っているのか、そう問いかける。


 リュークの魔法だったら、ここから王宮まで数秒で着く。

 それなのに、二人が帰ってくるまでに一時間は経っている。


 だからレンは他に何かあったのではと疑った。


「あー、なんだかんだあって、戦うことになった」

「えっ? 陛下と?」

「ああ。何だっけ、お互いを知るためには一緒にいるのが一番、だから監禁するみたいな感じだったかな?」

「その手があったか……じゃなかった、意味わからない」

「ん? 今なんか言って……」

「言ってない、それで?」

「そうか? それで、それから逃げるために戦ったって感じだ」

「そうなんだ」


 何か失言をした気がするレンだったが、適当にごまかす。


「そう思うと、俺ってただ巻き込まれただけじゃないのか?」

「お前にはどういう用件だったのじゃ?」

「あー、まあ俺も求婚されそうだったが、妻がいるって言ったら興味なくした感じだ」

「それは、そうじゃな。巻き込まれただけじゃな」


 そのことに気づくと、あんなにめんどくさかったのに巻き込まれただけと落ち込むヴァリー。

 少し哀れむグラウスだった。


「昔、ワシも一度だけ戦いに行った覚えがあるのう」

「はっ? マジかよ、勇者だなお前」

「まあ酒に酔った勢いで、飲み仲間と行った感じじゃ。戦いに挑んで陛下と相対したところまでは覚えておるのじゃが、それ以降は何も覚えておらん。気づいたら家のベッドで寝転がっていたのう」

「弱いな、お前」

「お前が強すぎるんじゃ」


 精霊族の中でも最強のイサベル陛下に勝てる者は、世界でも片手で数えられる程度だろう。


 その中に、ヴァリーとリュークという規格外がいるだけである。


「な、なぁ、リュークはなんで断ったんだ?」

「ん? 何をだ?」

「陛下からの求婚だ。オレは見たことはねえが、すげえ美人なんだろ? なんでそんな奴の求婚を断ったんだ? もしかして、す、好きなやつでもいるのか?」

「っ! い、いるの?」


 セレスの質問に、レンも緊張気味に答えを待つ。


 数々の男たちを断ってきた美人の求婚を断った。

 リュークが恋人などを顔で決めるとはあまり思えないが、それだけの美人を断るということは、もうすでに心の中に決めている人がいてもおかしくない。


 セレスとレンはお互いにリュークに迫っていたが、そういったことを聞いてなかった。

 もしかして、本当はもうそういう相手がいるのでは……?


「好きな人? 結構いるぞ」

「ふ、複数いるのか!?」

「なっ……!?」


 まさかの複数持ちだった。

 人族の国はわからないが、精霊族のユーコミス王国は一夫多妻、一妻多夫制度はは禁止されていない。


 だからその中に入り込めればといいとは思うが、セレスとレンの心中は複雑だった。


「アン、アナ、メリー、アメリアにサラ、他に――」

「ま、待て! そ、そんなにいるのか!?」

「ん? まあそうだな」

「そ、そんないっぱい……」


 女の名前を次々と上げていくリュークに、驚きを隠せない二人。


 そんな二人の様子を不思議に思いながら、リュークは言葉を続ける。


「それに、お前らも好きだぞ」

「……へっ?」

「えっ……あ、そういうこと」


 その言葉に二人は赤面した。

 レンはすぐに意味に気づいて、安心したような、残念なような気持ちになる。


「ど、どういうことだ……?」

「だから好きな人だろ?」

「あ、ああ……なるほどな、リュークにとってはそういうことなんだな」

「意味わからないが……」


 ようやくセレスも気づき、レンと同じような気持ちになる。


「まあ、リュークはまだそのくらいでいいか」

「うん、いきなり悟られても困る」

「何がだよ?」


 二人が何を納得しているのかわからないリュークだった。



「なあ、お前の息子はなんなんじゃ?」

「すまん、箱入り息子なんだ。恋愛という概念を教えていなかったんだ」

「それにしても限度がある気がするがのう」

「ああ、俺もビックリだ」


 そんな会話を三人の後ろでしているヴァリーとグラウスだった。

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