第161話 山頂へ
リュークたちは街を出て、世界樹へ続く森に向かった。
「昨日だったな、ドラセナ山の頂上に向かったのは」
「そうだな」
「なんかあれから色んなことがあったから、昨日のことに思えねえな」
「同感」
本来なら昨日、山頂の禁止領域に入って世界樹に行く予定だった。
しかしリュークが見られているというのを感知し、一度街に戻ったのだ。
それからリュークの父親、ヴァリーがいきなり現れたり、見ていた人物を突き止めたりと、忙しかった。
しかも今日の朝には、リュークとヴァリーが王宮に呼ばれてイサベル陛下と戦ったという前代未聞なことが起こった。
レンもセレスも、陛下が誰かを招いて戦ったなど聞いたこともない。
さらに、その前にプロポーズをされたとも聞いた。
昨日から色んなことが起こりすぎて、世界樹に行こうと思ったのがもっと前のように感じていた。
「本当なら昨日も、世界樹に行くつもりはなかったんだよな」
「そうだったか?」
セレスの言葉に、リュークは首を傾げて思い出そうとする。
「ボクがリュークの腕前を見たいから、この森に来た」
「ああ、そうだったな」
「本当なら一昨日に腕前を見るはずだったんだけど、ブラックライガーをリュークが一人で倒しちゃったから、見れなかった」
「そんなこともあったな」
懐かしい感じで話すが、一昨日や昨日の出来事である。
「それで昨日はちゃんと見るためにこの森に来て、バイコーンと戦った」
「あのリュークはカッコよかったな……」
そのときのことを思い出しているのか、セレスは恍惚とした表情を浮かべている。
「それでバイコーンを手懐けて、背に乗って頂上まで向かった」
「凄かったよな、まさかあのバイコーンが忠誠を誓うなんてな。リュークに向かって跪いて、頭を下げて」
「あんな風にか?」
「おー、そうそう、ちょうどあんな風に……はっ?」
リュークが指差したところを見て、セレスは言葉を詰まらせ固まる。
そこには昨日見た光景と同じように、バイコーン五体が跪いて並んでいた。
「な、なんでまたバイコーンがいるんだ?」
三人はまだドラセナ山の森に入っていない。
入る手前のところに、バイコーンが三人に、いや、リュークに頭を下げて待っている。
「まさか、昨日から別れてからずっと待ってたってことか?」
セレスは今いる場所を見渡すと、昨日バイコーンたちと別れた場所だとわかった。
「バイコーンみたいな強い魔物が、こんな街の近くにずっといたら騒ぎになってる」
「あ、ああ、そうか、さすがにそれはないか」
魔法の扱いが上手い精霊族の者でも、バイコーンは魔法を吸収する角を二本を持っている。
だから相性が悪く、とても強いA級の魔物として知られている。
そんな強い魔物が、街を出て数分のところに昨日からずっといたら、騒ぎになっているに違いない。
「そうだな。さっきまで俺の魔力感知内にいなかったのに、いきなり現れたから、俺が来たことを感じ取って来てくれたのかもしれないな」
「すげえ忠誠心だな……」
バイコーンがそんなに主人に尽くすような魔物だとは、おそらく誰も知らないだろう。
セレスもその様を見て、驚き、そしてちょっと引いていた。
リュークは一体のバイコーンに近づき、頭を撫でる。
「昨日みたいに、頂上まで連れていってくれるか?」
バイコーンは本来人の言葉がわからないはずなのだが、リュークの声を聞いてブルルッと低く唸って返事をする。
「ありがとな」
「連れていってくれるのか?」
「ああ、大丈夫みたいだ」
「こっちの言葉がわかるバイコーンもすごいけど、リュークも言葉を理解してるみたいですごい」
「そうか? なんとなくわかるぞ」
そうして三人は、昨日と同じように頂上までバイコーンに乗って行くことになった。
そして三人が歩いたら何時間も、下手したら一日以上かかる道を、一時間弱で登りきった。
バイコーンたちは、また頂上の禁止領域のところで止まった。
「やっぱりここから先はバイコーンは行けないみたいだな」
リュークは背中から降りながら言った。
レンとセレスもそれに続いて背中から降りる。
「ここからどれくらいすれば世界樹、神の使いとやらに会えるんだろうな」
「わからない。けど、油断しないで行かないと」
レンはダリウスが世界樹から帰ってきたときのことを思い出し、気を引き締める。
「魔力探知内には全く生き物の影はないが、ブラックライガーや父ちゃんみたいに引っかからない例外もいるからな」
三人は山頂にの方を見る。
もうここは雲の中なのか、霧が濃くて前が見えにくい。
さっきまで森だったが、ここから先はずっと岩肌が続いている。
「さて、ここから先は入っちゃいけない禁止領域。入っただけで死刑になるんだったな。レン、セレス、覚悟はいいか?」
リュークは後ろにいる二人に、振り向きながら問いかける。
「もちろん」
「ああ、とっくにできてるぜ」
二人とも力強くそう答え、真っ直ぐと山頂へ続く緩やかな坂の先を見る。
「よし、じゃあ――」
リュークが言葉を続けようとした瞬間、
『五体満足で帰ってくるのだぞ、余の夫となる者よ』
「……っ!」
頭の中に声が響いてきた。
「どうしたリューク?」
「何かあった?」
二人はリュークの様子を見てそう問いかけてくる。
どうやら二人には、今の声が聞こえなかったようだ。
いや、リュークだけに、声が届いたようだ。
リュークは街の方向を見て、ニヤリと笑って言う。
「だから、ならねえよ」
そして、禁止領域に足を踏み入れた。
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