第112話 刀、完成


「クッソ! 難しすぎる……! 今までの素材と訳が違う……!」


 ダリウスは一人、鍛冶場にこもって刀を造り続けていた。


 ダリウスがドラセナ山の頂上、世界樹から素材を取って帰ってきて三ヶ月ほどが経った。


 未だにダリウスは素材の扱いの難しさに悪戦苦闘していた。


「はっは! こんなに難しいのは初めてだ!」


 しかし、ダリウスは笑顔で素材を向き合っている。


 今までにない高揚感でいっぱいのダリウスは、鍛冶場に入ってきたレンに気付かない。


「あの……師匠……」

「次は……これを試すか? いや、こっちの方が良いか……?」

「……師匠!」

「うおっ!? な、なんだレンか……」


 レンは鍛冶場の扉のところから声をかけても全く気付かないので、師匠に近づいていき、耳元の近くで叫ぶように呼んだ。


「夕飯の用意、できた……」

「おっ? もうそんな時間か……」


 ダリウスは昼飯を食べていない。

 この刀を造り始めて、最初の一週間ほどは昼飯も食っていたが、時間がもったいないと言って朝飯と夕飯の時だけ呼んでくれと、レンに頼んでいた。


 なので、ダリウスにとっては今さっき朝飯を食べたはずなのに、もう夕飯の時間になってしまっていると勘違いしてしまうほどに、作業に集中していた。


「よし、食べるか」

「うん……」


 ダリウスは立ち上がって一度の伸びをして、身体をほぐす。

 背中や腰から骨がパキパキと心地いい音が鳴る。


 その後、リビングで二人は一緒に夕飯を食べ、ダリウスは食べ終わるとすぐに鍛冶場にこもる。


 レンは夕飯を片付け、洗濯などをしてから寝る。


 レンは師匠がいつ寝ているのか心配になるくらい、ダリウスはずっと鍛冶場で刀を造り続けている。



 そんな生活が半年ほど続いて――。


 ――そしてついに。


「――完成だ」


 ダリウスは自分の手にある刀を眺め、そう呟く。


「これで……あいつに渡せる最高の刀が出来た……」


 ダリウスは刀を鍛冶場の壁に掛けて、リビングに上がる。


 リビングに上がると、レンはご飯の用意をしていた。


「師匠……!」


 レンは鍛冶場の方の扉から音がして振り返ると、フラフラになっている師匠を見てすぐさま近寄り支える。


「大丈夫、ですか……!?」

「ああ、大丈夫だ……刀が出来た」

「っ!? そう、ですか……」

「俺はちょっと……寝るわ」


 支えられているダリウスは、さらに体重をレンにかけて完全に寝入ってしまう。

 レンは少し重い師匠を支えながら、二階にある師匠の部屋に行き、ベッドに寝かせる。


「おやすみなさい、師匠……」


 安らかな顔で寝る師匠に布団を肩まで掛けて、レンは部屋を出る。


 ダリウスは寝始めたが、今は朝。

 さっきレンは作っていたのは朝飯だった。


 とりあえず師匠の分も作って置いておき、一人で飯を食べる。


 師匠は多分夕飯時まで寝てしまうので、夕飯はしっかり元気が出るものを食べて欲しいので、レンは夕飯の献立を考える。


 しかし――レンはやはり気になってしまう。


 この半年間、寝る間も食べる間も惜しんで造り続けた師匠の最高の作品が。


 鍛冶場に行って見てしまおうか悩んだが、師匠に内緒で見るのはダメだと思い留まる。


 そしてその日は夕飯を豪勢にするために早くに買物に行き、久しぶりにレンは師匠とゆっくり夕飯を食べたのだった。


「レン、俺が造った刀が見たいか?」


 夕食を食べ終わった後、ダリウスがレンにそう問いかけた。


 レンが夕飯の時に、何か言いたそうな雰囲気を出しながらモジモジしていたので、ダリウスの方から察して提案した。


「えっ……いいの?」


 レンは目を少し輝かせながら聞く。


「いいに決まってるだろ。俺の人生で最高の刀だ。お前にもそう簡単に越えられない刀を造った」

「ボクなんて……まだまだ……」

「まあいい、鍛冶場に行くぞ」


 ダリウスとレンは階段を下って、鍛冶場へと向かった。


 そこでレンが見たものは、確実にこの世で一番綺麗で、至高の刀であった。


 これを超えることが出来るかわからないが、いつかこんな刀を造ってみたいとレンは心の底から思った。



 ――ダリウスが刀を完成させてから、約一週間ほど経った。


 レンは今日も少し早くに起きて、二人分の朝食を作っていた。


 家の玄関のドアからノック音が聞こえた。


 誰か来たようだが、レンはこの時間帯に来るようなお客に覚えがない。


 不審がりながらドアに近づき、ドアを半開きにして外に顔を出して相手を見る。


「あ……グラおじさん……!」


 そこにはレンの師匠のライバルと良く言われている、グラウスが立っていた。


「はぁ……はぁ……ダリウスはどこだ!?」


 グラウスは息が切れていて、とても急いでここまで来た様子だった。

 切羽詰まったようにダリウスは問いかけて、レンは少しビクビクしながら応える。


「えっと……まだ寝ています……」

「寝ている場合じゃねえ! ダリウスを起こしてすぐさま逃げろ!」

「な、なんで……?」


 レンはいきなり来てそんなことを言われてたじろぐが、グラウスの顔や態度を見ると師匠の身に危険が迫っているということがわかる。


「あいつが世界樹に行ったっていう疑いがあると言われて、今こっちに役人共が来てやがる!」

「えっ……!?」

「疑いと言ったが、もうほぼ確定されて死刑が決まっているようなものだ!」


 グラウスが言ったことにレンは驚愕し戸惑うが、すぐさま走り出して二回に駆け上がる。


 今まで世界樹に行った人はいないが、世界樹に行った人は死刑になるという掟は昔からある。

 どうして師匠が世界樹に行ったということがバレたのかわからないが、今は師匠がここから逃げないと死刑になってしまうと思い、二階で寝ている師匠の部屋へ飛び入る。


 部屋に入ると師匠はベッドに入ったまま上体を起していた。


「なんだ騒がしい……」


 ダリウスはレンの階段を駆け上がる音やドアを勢いよく開く音で起きてしまったらしい。


「師匠……! 世界樹に行ったことがバレて、役人の人達が……!」

「っ! そうか……」


 ダリウスはその知らせに目を見開いて驚いたが、特に焦ることなく、逃げようとする様子もない。


「師匠、逃げないと……!」

「はっ、片足ない俺に逃げろと? 無理に決まってるだろ、すぐ捕まる」


 ダリウスは諦めの笑みを見せて、自分の空虚になった右足を見る。


「それに、俺は死ぬこと覚悟で行ったんだ……今更ビビってどうするよ」


 そう笑ってダリウスはレンの頭を撫でる。

 レンは師匠を何とかして逃がしたいが、どうすることも出来ない。

 泣きそうになっているレンを慰めるように、ダリウスは頭を撫で続ける。


「まあ……心残りがあるが、それは仕方ないか。神に逆らった罰か」


 ダリウスはボソッと、一言漏らした。


 すると、家の玄関の方から大きな音がする。

 玄関が爆発したような音だった。


 そしてすぐに家の中をたくさんの足音が響いてきて、その足音が階段を上ってくる。

 その音を聞いてダリウスはレンを離すように、身体を押してレンを退かす。


 またもやドアを破壊するようにして、十人ほどの人が入ってくる。

 ダリウスは一目見て役人共だということがわかった。


「おいおい、土足で人の家入ってきてんじゃねえよ」

「貴様が鍛冶師のダリウスだな」


 ダリウスの言葉に応えずに、一人のエルフの役人がダリウスを見て問いかけてくる。


「ああ、俺が天才鍛冶師のダリウスだ」


 その役人はダリウスの言葉を聞いて、ニヤリと笑った。


「貴様は世界樹に行ったという大罪により――死刑となる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます