第119話 アーベンギルド
レンとセレナが料理を作り終わり、三人は家をやっと出ることになった。
その弁当はリュークの異空間の中に入れて持っていくことになったが、二人は最後までそれに反対していた。
リュークのために作った弁当を、その本人に持ってもらってはいけないと考えたが、『持つ』のではなく『入れる』ということなので、渋々了承した。
「リュークは性格イケメン。将来良いお婿さんになる、ボクの」
「前半は同意するが、後半は大反対だ。オレの、だ」
「おむこってなんだ?」
ギルドに向かう途中も二人は睨み合い、いがみあっていた。
しばらく歩くと、そのアーベンのギルドが見えた。
ここでも人族の大陸と一番の違いは、やはりその建物の大きさだった。
アンとアナ達がいるヴェルノの街も決して小さいわけではなく、むしろ大きい方だったにも関わらず、こっちのギルドはその三倍はある大きさをしていた。
「でっかいな……こんなに大きい意味あるのか?」
「見栄えを良くしたいんだろ。早速入ろうぜ」
適当に答えて、さっさと入って行ってしまうセレナ。
その後に続いていく。
中は人族の大陸とそんなに変わることはなく、入って正面にカウンターがあり、右の方に依頼が書いてあるだろう紙が壁中に貼られていた。
左には酒場のようなものがあり、昼間っから飲んでいる人が多くいた。
「とりあえずカウンター行くか。あんなに多い依頼の中からオレ達に合っているのを探すのなんてめんどうだ。こういうのは受付嬢に聞いた方が早い」
慣れた足取りでカウンターまで歩いていくセレナ。
後ろからリュークはついて行ってるが、少しレンの様子がおかしいことに気づいた。
「レン、どうした?」
「……ううん、なんでもない」
家から羽織ってきていたマントのフードを被り、顔を見られないように歩く。
リュークはなぜそんなことをしているのか気になったが、聞いて欲しくないようだからそっとしておくことにした。
そして少し広い中を歩いて、カウンターまで行くとセレナが受付嬢に声をかける。
「なあ、オレ達に合う依頼を見繕ってくれ」
声をかけられた受付嬢は笑顔で対応する。
「アーベンカードはありますでしょうか?」
「はいよ」
「確認いたします……はい、Aランクですね。後ろの方々も一緒に依頼をするのでしょうか? それなら、カードを見せてもらってもよろしいでしょうか?」
「だってよ、リュークは持ってないと思うがお前は持ってるだろ?」
「……うん」
レンも懐からカードを出して渡す。
受付嬢は受け取り、カードに目を通す――すると一瞬、少し眉を顰めた。
今まで笑顔だったのがいきなり雰囲気が変わったので三人はすぐに気づいたが、すぐさま受付嬢は笑顔に戻る。
「Cランクですね、確認いたしました。カードをお返しいたします。そちらの方はアーベン登録をしてないということでしょうか?」
「いや、リュークは人族なんだ。あっちのアーベンのカードは持っているだろうがこっちのは持っていない」
「そうだったのですか。人族のアーベン……確か、冒険者と言うんですよね? それでしたらそちらのカードを拝見してもよろしいでしょうか?」
「なんだ、あっちのカードでもいいのか?」
「多少の強さの目安というのがわかると思われます。あちら冒険者のランクは、アーベンのランクに置き換える場合、一個下と考えるといいと言われています。あちらでBランクなら、こちらではCランクほどの実力ということです」
「ほー、それは知らなかったな」
一昔前はそんな簡単に判断できるものではなかったのだが、魔帝フローラの『ランク決め玉』のおかげでそういった判断ができるようになったのだ。
「では、冒険者カードの方を」
「ああ、これで」
リュークも懐からカードを出して渡す。
「黒色……ですか? 人族の冒険者カードにはそのような色はないと認識していましたが……」
「ああ、リュークはそういえばSS級だったな。だから普通のとは色が違うんだろうな」
「SS級ですか? そのようなランクがあったのですね。では、こちらではS級ということに……なるのでしょうか? すいません、少し確認してまいります」
受付嬢はカウンターの奥に行って、何人かと話し合っている。
少し話したらすぐに戻ってきた。
「お待たせしました、とりあえずS級という判断で大丈夫だということなので、依頼を選ばさせてもらいます。どういったものをお探しでしょうか?」
「討伐系だ。今回はリュークがいるからどれだけ強くても大丈夫だと思うが」
「魔物の討伐ですね、わかりました。ではS級の方がいらっしゃるので、これなんてどうでしょうか?」
受付嬢は手を少し振るうと、魔法を行使した。
すると少し離れている壁のところから、一枚の紙が剥がれてこちらに向かってくる。
そして、綺麗にカウンターのところまで飛んできて、セレナの前で止まる。
「んー、なになに……レッドオーガの群れ? おいおい、こんなの簡単すぎるぞ」
レッドオーガはこの国に来るときに、道中でセレナとリュークが倒した魔物だ。
「そうでしょうか? C級の方がいるのであれば適当かと……」
チラッとレンの方を見た受付嬢だが、その視線を遮ってセレナが言う。
「だから、S級のリュークがやるって言ってんだから、そっちに合わせろよ。わかった、要求を変える。ここにある依頼の中で、一番強い魔物の討伐依頼を持ってこい」
「……わかりました。ではこちらですね」
またも壁に貼ってあった紙が剥がれてこちらに向かってくる。
それをセレナは今回はカウンターに着く前に、空中にあるときに受け取る。
「んー……ああ、まあこれくらいだろうな。A級のオレ一人だったら絶対に勝てないぐらいがちょうどいい」
「ではそちらの依頼をお受けいたしますか?」
「ああ、じゃあこれで頼む」
「わかりました、ではそちらの魔物の討伐をお願いいたします」
「ああ、了解だ。じゃあ早速行くか」
セレナは依頼を受けるとさっさとカウンターから離れてギルドを出て行こうとする。
黙って聞いていたリュークとレンも急いで後を追う。
ギルドから出たところでリュークが話しかける。
「なあ、依頼は何を受けたんだ? 俺とレンは全く把握してないんだが」
「あなたは勝手すぎ……悪嫁になりそう」
「すまねえな、あそこの居心地が悪くて早く済ませたかったんだ。あとお前は黙ってろ」
レンが言ったことに反応しながら、依頼の説明をする。
「今回受けたのは、あの森で一番強いと言われている魔物――ブラックライガーの討伐だ」
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