第118話 勝負?

「これがボクの師匠の話……世界樹に行った理由と、死んだ理由」


 レンは涙ながらに話を終えた。

 話ながらら途中泣いてしまったが、途切れ途切れになりながらも全てを話した。


「そうだったのか……話してくれて、ありがとうな」


 途中で当時のことを悲しそうに話すレンに止めてもいいと言ったが、それでもなお話し続けた。

 師匠との約束を果たすために。


「しかし……すげえ繋がりだな。リュークの父親がそのヴァリーってやつで、ダリウスが最期に打った刀を持って行ったんだもんな」


 一緒に話を聞いていたセレスがそう言った。


「確かに、俺もビックリだ。まさか父ちゃんもこの精霊族の大陸に来ていたなんて」


 リュークは魔の森にいた頃、そんな話を聞いたことがなかった。


 だが、その刀は見覚えがあった。


 ヴァリーがリュークのために木刀を作っていた時だった。


 数日かけて完成したその木刀を、他の木刀と見比べていたのだ。


 そして、一言。


『やっぱり俺とお前の腕じゃ、比べものにならねえか』


 そう呟いて笑っていたのを思い出した。


 その見比べていた木刀こそ、ダリウスが命を懸けて造ったものだったのだろう。


「ダリウスが造った刀を持って行ったヴァリー。二十年後、息子のリュークが今度は弟子のレンに刀を造ってくれと頼み込みに来たのか。そんなの……あー、なんというか」

「ん? なんだ?」


 セレスが言い淀んだのをリュークが気にかける。


 紛れもなくそういうことなんだが、自分で言うのは何か負けのような気がする……そう思って最後まで言わなかったのだが、その続きをレンが告げる。


「そう、ボクとリュークは、運命の赤い糸で繋がっている」

「赤い糸でねえよ!」

「どういう意味だ? どこか繋がってるか?」


 リュークは言葉の意味がわからないので、自分の身体から糸が出てないか調べるように見た。


「どこからも出てないぞ? レンからも出てないみたいだし」

「ぷっ……だとよ」


 二人は全く運命的ではないという風に捉えることができる言い方に、セレスが吹き出すように笑った。


「大丈夫、それだったら赤い糸を買ってくる」

「なに物理的に繋ごうとしてんだ。諦めろ、お前とリュークには赤い糸は繋がってないんだよ」

「むぅ……」


 何か言い返したいレンだが、リューク自身に否定されたからうまく言い返す言葉が出てこない。


「話が逸れたな。それでレンは俺に刀を造ってくれるのか?」


 二人が睨み合ってるのを見て、リュークが間に入って話を戻す。


「うん……そのつもり」

「そうか、ありがとな。金ならあるから」

「いらない。師匠も、あの人からはお金をもらってなかった」

「そうか? レンがいいならかまわないが……」

「その代わり……私が打った刀で、戦ってるところを見せて」


 師匠と同じことを言う。

 真似したわけではない、なぜならレンはダリウスとヴァリーがそんな約束をしてるとは知らなかったからだ。


 ただ、同じ鍛冶師として考えることは同じ。


 ――自分が本気で作った刀を使って、戦うところを見たい。


 ダリウスとレンは同じ気持ちだった。


「もちろんだ。いつから作れるんだ?」

「まず最初に、リュークが戦ってるところを見せて欲しい。そうしないと、リュークに合う刀がわからない」

「そうか、じゃあ森に行って魔物と戦うか」

「それなら、アーベンのギルドに行かないか?」


 二人が早速森に行こうとしていたのを、セレナが止める。


「アーベン……確か、こっちの冒険者って感じなんだよな?」

「そうだ、そこだといろんな魔物の情報とかもわかるし、強い魔物とかを倒せば報酬も出る。リュークの戦いも見れて、金も稼げる。まさに一石二鳥だ」

「さすが、意地汚い」

「うるせえ、頭が良いと言え」


 その提案にレンは感心するが、出てくる言葉は罵倒のようなもの。

 この二人は仲が良いのか悪いのか、近くで見てもよくわからないリュークであった。


「それなら、まずはお弁当でも作る。多分魔物とかを狩ると遅くなるから、昼は過ぎる」

「そうか、じゃあ弁当を作ったら行くか」

「リューク、一緒に作ろ?」


 上目遣いでそう頼み込むレンだったが、リュークは申し訳なさそうにして。


「すまん……俺、料理下手だから一緒には出来そうにない」

「そう……残念」


 レンも見るからに落ち込む。


「じゃあオレが一緒に作ってやるぜ!」


 セレナがそう言って手伝おうとしたが、レンはまた見るからに嫌そうな顔をした。


「……あなたが料理を出来るとは、思えない」

「はぁ? なんだと? オレはもうすでにリュークに料理を食べて美味しいと言ってもらった経験を持つぞ」

「……そうなの? リューク」

「ん? ああ、そういえば船の上で魚を捌いてもらって食ったな。美味かったぞ」


 その話を聞いてレンは「ぷっ……」と吹き出して嘲笑った。


「魚を捌いたくらいで、料理だなんて……そんなの、魚本来の美味しさ。あなたの腕の力ではない」

「てめえ……上等だコラ、ならどっちがリュークに美味いって言ってもらえるか勝負だ」

「望むところ……」


 二人は睨み合う。

 リュークの目には二人の間に火花が散っているように見えた。


「よし、すぐに料理をするぞ! 食材はあるんだろうな!?」

「もちろん、当たり前。冷蔵庫にあるやつなら、勝手に使っていい」

「お前……そこの棚のところはなんだ?」

「……ここは、なにもない」

「嘘だな。オレの勘が言っているぜ、そこにはお前が仕込みをした食材とかがいっぱいあるんだろ」

「……チッ、バレた」

「それもよこせ! なにお前だけ食材有利にしようとしてんだ!?」


 そんな言い合いをしながらも、二人でそれぞれ料理を作っていく。


「……仲が良いのか? うん、良いんだよな?」


 後ろで二人の様子を見ていたリュークがやはり少し違和感を感じながら、そう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る