第120話 協力戦闘?


「今回受けたのは、あの森で一番強いと言われている魔物――ブラックライガーの討伐だ」


 セレスがそう告げると、レンが目を見開く。


「ブラックライガー……!? あんなバケモノ、なんで受けたの!?」


 ユーコミス王国で一番有名で、強いとされる魔物、ブラックライガー。

 一〇メートルほどの体長で、とても素早く力も強い。


 魔法が得意な精霊族は、素早い相手はとても苦手な傾向がある。

 そういう相手には範囲が広い攻撃魔法を使うのだが、ブラックライガーは魔力を感知できるので避けられてしまう。 


 言うまでもなく、精霊族が肉弾戦などできる相手ではない。


 精霊族にとって、ブラックライガーは天敵なのだ。


「大丈夫だよ、リュークならあんなバケモノ一発だ」

「そんなに危険な魔物じゃなくても、刀の腕は見れる! すぐに変えてもらうべき!」


 レンはその魔物の危険度を知っているかのように、セレスに詰め寄る。


「ここ最近、あの魔物が倒されたなんて話は聞いたことがない。二十年前くらいに、一度死体が森に転がっていたとあったけど、あれが人間の技だとは思えない」


 レンが言った通り、ブラックライガーが死体で見つかったのだが、その死体はバラバラになっていたのだ。

 そんな殺し方など精霊族の大陸には出来るものはおらず、巷ではダリウスを追ってきた神の使いがやったのではと噂されていた。


「その話は覚えているぜ。オレもその時は神の使いってのを信じたが……いや、逆にお前は気づかないのか?」

「……なにが?」

「ブラックライガーを斬ったやつだよ」

「斬った? なんで斬ったって……っ!? まさか……」

「オレはお前の話を聞いてすぐに気づいたぜ、あの時ブラックライガーを斬ったやつは――リュークの父親、ヴァリーってことだ」


 セレスの言葉にレン、そしてリュークも驚いた、


「逆になんでお前は気づかなかったんだよ。時期とか完全に一致してるだろ」


 ダリウスが処刑されて数日後、ブラックライガーのバラバラ死体が見つかったのだ。


「うん……そう考えるのが、妥当かもしれない……けど、普通はあんなバケモノ倒せるとは思えない。しかも、バラバラにして殺すなんて、人間じゃ無理だと思ってた」


 普通はレンの考えの方が合っている。

 いくら師匠が認めた相手だったとしても、その実力をレンはほとんど見ていない。

 役人の人達を一瞬で殺したというのを見たが、ブラックライガーを単独で殺せるほどの実力だとは思っていなかったのだ。


 ヴァリーがブラックライガーを殺したということを、セレスがなぜすぐさまわかったのかというと……リュークの実力を知っているからだ。


 セレスはユーコミス王国に来るまでの旅で、リュークの桁外れの魔法や剣術を見た。

 だからこそ、その剣術を教えたヴァリーがブラックライガーを殺したということがわかったのだ。


「まあリュークの父親……言うならば将来、オレのお義父さんになる人だからな。そのくらいできて当然だろ!」

「むっ……ボクのお義父さんになるに決まってる。あなたは一生独り身」

「はっ、お義父さんの実力を見誤っているようじゃ、お前の方こそ危ないんじゃないか?」

「ちょっと待てお前ら、なんでオレの父ちゃんがお前らの父ちゃんになるんだ?」



 そうこうして、三人は街から出て森へ向かった。


 街から少し歩くと、すぐに森へ入ることが出来る。


「どこにそのブラックライガーっていうのはいるんだ? 俺の魔力探知にはいっぱい魔物がいすぎて、見分けがつかないぞ」


 リュークの魔力探知は半径二キロ。

 この森にはたくさんの魔物がいるので、その中に引っかかるのは当然だろう。


「おそらくその中にはいねえだろうな。とゆうか、ブラックライガーは魔力探知には引っかかりにくい」

「そうなのか?」

「ああ、あいつは魔力をほとんど持ってない。だから本当に魔力探知が熟練じゃないと見逃してしまうが……まあリュークならそれはないか」


 ブラックライガーはその名の通り、体表が真っ黒である。

 夜などに行動していると、ほとんど見えない。暗闇の中では眼が光るが、ブラックライガーは目を閉じて狩りをするため、夜の森で遭遇したら気づかぬうちに死ぬことになる。


「あいつはなんで魔力がほとんどないのに、こっちの魔力を感知できるのかがわからん。まあ、適当にフラフラしてたら会えるだろう」

「そんなんで、会えるわけない」


 討伐依頼を受けたはいいが、作戦が適当すぎることにレンがため息を吐きながら言った。


「ブラックライガーは森の奥の方にいるけど、詳しい住処はわかってない。数も不明。遭遇するのは困難」

「別に大丈夫だろ、一日歩いてたらあっちから襲ってくる」

「楽観的、バカみたい」

「ああ? なんだとお前?」

「聞こえなかった? 耳腐ってる?」

「んなわけねえだろ! ちゃんと聞こえてるからキレてんだよ!」


 二人がそんな言い合いをしていると、リュークから声がかけられる。


「なあ、魔物の大群が近づいてきてるが」

「えっ、まじか?」

「……珍しい、ボクがいるのに」

「ん? どういう意味だ?」


 聞き返したセレスだが、レンが答える前に魔物の大群が三人の前に現れる。


「ガルルルル……!」


 現れたのはワーウルフ。

 体長は一メートルとそこまで大きくないが、とても素早い。

 ブラックライガーほとではないにしても、魔法を使うものからしては十分脅威だ。


「ワーウルフ……B級の魔物だな。リュークとオレがやるから、お前は下がってろ」


 セレスが両手斧を背中から外しながら、レンにそう言った。


 アーベンギルドで確認したが、レンはC級アーベン。

 このワーウルフを相手するには荷が重いと判断しての指示だった。


「……なぜあなたにそんなことを言われないといけないの」


 レンはそう言って、腰に差してあった刀を抜きながらセレスの前に出る。


「おい、何意地はってんだ! お前C級だろ!」

「あなたに舐められるととても不愉快。ボクの実力がC級程度だと思われるのも、不愉快」

「なんだと……?」

「リューク、それにあなたも下がってて。こんなやつら、ボク一人で十分」


 そう言って戦おうとするが、その隣にセレスが立つ。


「おいおい、お前だけ良いところ見せようとしてんじゃねえよ。逆にお前は引っ込んでろよ、オレが一人でやるから」

「邪魔」

「はっ、お前が邪魔だ」


 一瞬睨み合うと、すぐさま目の前のワーウルフへと目線を戻す。


「じゃあどっちが多く殺せるか勝負だ。勝った方は……リュークに『あーん』してもらえる券を獲得できる」

「乗った」


 セレスは両手斧、レンは刀を構えてワーウルフの大群と対峙した。



「……俺は何もやんなくていいっぽいな。ていうか、なんで俺が勝負の賞品みたいになってんだ?」


 後ろから二人の背中を見ながら、リュークはそう呟いた。

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