第121話 潔い?
「オラァ!」
セレスがワーウルフへと迫って両手斧を振るう。
力も強いセレスだが、スピードもなかなか速い。
最高速度ではワーウルフには勝てないが、間合いに入る速度ではセレスに軍配が上がる。
一匹のワーウルフを真っ二つにすると、近くにいた一匹がすぐさま襲いかかってくる。
後ろから頭目掛けて跳んできたのを紙一重で躱す。
そしてそのまま空中にいる一匹も下から振り上げて真っ二つにした。
「よっしゃー! 二匹目! どうだお前!」
そう言って振り返るセレス。
レンがどういう戦いをするか気になるし、何体倒したのかを見るためだ。
レンは目を瞑っている。
その周りにはワーウルフが五匹ほどいた。
一匹がレンに向かって駆け、牙を向け噛みつこうとする。
「っ! おい――!」
ギリギリになっても目を瞑っているレンを見て、声をかけた。
今から助けに行っても間に合わない――!
そう思ったが……ワーウルフはレンに攻撃を当てなかった。
「はっ……?」
セレスにはワーウルフが自ら外したようにしか見えなかった。
しかし、リュークにはしっかり見えた。
「上手い……!」
レンはギリギリで身体を傾けるだけで、ワーウルフの攻撃を躱したのだ。
少し遠くから見ていたセレスには、ワーウルフの方から外したように見えた。
本当に最小限の動きで躱したレンは、最短の動きで刀を振るう。
自分を攻撃してきたワーウルフは頭と胴体が分かれた。
「……次」
レンがそう呟くと、その挑発が聞こえたかのようにワーウルフ達が一気に襲いかかる。
四方八方から跳びかかってくるのだが、全部最小限の動きで躱す。
側から見ると、ワーウルフ達がただレンの周りを跳び回っているように見える。
一匹、一匹と斬られて死んでいく。
数秒後にはレンの周りに五匹のワーウルフの死体があった。
「……五匹目」
レンはチラッとセレスの方を見て、周りに転がっているワーウルフを数える。
「……ふっ」
自分が勝っているとわかり、嘲笑じみた声が漏れた。
「っ! お前……!」
その顔を見てセレスが憤慨する。
後ろから迫っていたワーウルフを怒りの力を込めて、振り向きざまに両手斧を振るい真っ二つにする。
「まだ勝負は始まったばっかだろ! 何勝ち誇ったような顔してやがる!」
「あなたなんかに負けるわけない」
そう言いながらも二人は次々とワーウルフを倒していく。
この勝負、圧倒的に有利なのはレンだった。
ワーウルフの群れは一斉に襲いかかってくる。
セレスはそれを避け、ガードしてから両手斧を振って倒していく。
しかしレンは避けると同時に攻撃が出来る技術を持っている。
それは武器の差もあるだろう。とても重い両手斧を避けながら振るうのは難しい。
戦い方も、セレスの場合は自分から攻撃にしに行くような戦いを好む。
レンは逆に、相手の攻撃に合わせてカウンターをする戦いが向いている。
セレスは精霊族とは思えないほどの力とスピードで両手斧を振るう。
レンも精霊族にしては力やスピードがあるが、頭一つ抜けている程度。セレスにはどちらも勝てないだろう。
レンがセレスにずば抜けて勝っているのは、剣技――技術であった。
相手の攻撃を見切りギリギリで躱し、すれ違いざまに斬る。
その技術がリュークほどではないが、とても常人では到達し得ない域まで達している。
そして勝負はそのままレンが勝つ……と思いきや、最後の方でセレスが挽回し始めた。
最初はワーウルフ達も相当数がいたので、向かってくる敵を敵を斬りつけるレンが有利だったが、少なくなってくると攻撃をしに行くセレスが討伐数を稼ぎだした。
「これで、十三匹だぁ!」
目の前にいたワーウルフを殺し、横目で確認していたレンの討伐数とようやく並んだ。
あとどれくらいいるのか見渡すと、最後の一匹が目に入った。
自分から数メートル、レンからは十数メートル離れている。
セレスの方が距離は短く、スピードも速い。
「もらったぁぁぁ!」
勝利の笑みを浮かべながらワーウルフへと迫り両手斧を構える――が、横から風が通り過ぎた。
「ふっ――!」
遠くにいたはずのレンが自分の前の前を駆け、最後の一匹を殺した。
「なっ!?」
「十四匹……ボクの、勝ち」
刀についた血を払って鞘に収める。
振り向いてセレスの呆然とした顔を見て、勝ち誇った顔をわざとらしくする。
「お前……魔法使いやがったな!」
セレスよりスピードがないはずのレンが、後ろから追い抜くことができた理由。セレスの言う通り、魔法を使ったからに他ならなかった。
エルフであるレンは魔法の中でも風魔法が得意である。
だから風を操り、セレスより速くワーウルフへと迫ることができたのだ。
「魔法を使ってはいけないなんてルール、なかった」
「なんとなくそんな感じだったろ! 刀と斧の対決みたいな!」
「勝手にあなたが勘違いしただけ」
勝負が終わっても言い合いをしている二人にリュークが声をかける。
「で、最終的にどっちが勝ったんだ?」
「ボク」
「くっ……そうだな、今回は負けを認めてやる!」
「潔い……言葉だけは」
殺意がこもった目で睨みながら負け宣言をするセレスであった。
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