第90話 初対面
「サラよ……あんなにあっさりした別れでよかったのか?」
アメリアは港町のギルドに向かう途中でサラにそう問いかける。
先程、アメリア達は精霊族の国に行くリュークと最後の別れを済ました。
あっさりとした別れ方をアメリア達はしたが――リュークの今回の旅は大陸を渡るということで、長い間会うことはなくなるだろう。
アメリア達も何回か同じ依頼を共にした仲間と別れて、数ヵ月は会わないということは多くある。
同じ大陸、同じ国にいても数ヵ月も会えなくなるのだ。大陸も違うとなると何年も会えなくなるかもしれないのだ。
「今度はいつ会えるのかわからないぞ?」
「……そうですね」
「そうだよ~サラ、今からでも愛の言葉を伝えてくれば?」
「あ、愛の言葉って……」
エイミーの言葉にサラではなく何故かアメリアが赤面する。
「なんでアメリア様が赤くなるのでしょうか……」
「い、いや、そうだな……」
咳払いをしてアメリアはごまかすが顔はまだ赤いままだった。
「別れる男女……。離れていく男を追いかけて想いを伝える女の子……ふふふ~、なんか恋愛小説みたいだね~」
エイミーは意外とロマンチストな小説を好んでいるらしく、楽しそうにスキップしながら話す。
「あたしはそういうのは大丈夫です……それに、一生会えなくなるわけではありませんから」
「そうだけどさ~。リューク君、世界を旅するって言ってたから獣人族とか魔人族の大陸にも渡るってことでしょ~? もしかしたら……って考えないの?」
今回リュークが向かう精霊族の国はそこまで人族に対して悪感情は持っていないということだった。獣人族も人族とは少し仲が良いのでまだいいのかもしれない。
しかし、人族と仲が悪いとされている魔人族の大陸に渡るのはとても危険を伴う。人族がほどんど渡ったことない大陸なので、未知の大陸である。
サラはそう言われても特に焦ることはなく、エイミーに笑顔を浮かべて言う。
「大丈夫ですよ。あいつに言っておいたんで……勝手に死ぬなって」
「へ~……サラってば本当にリューク君を信じてるんだね~」
エイミーは感心するようにそう言うと、さすがにサラも少し頬を赤らめて恥ずかしがっていた。
「そ、それにあいつがそう簡単に死ぬとは思えないですしね!」
「そうですね……この港町に到着するまでの魔物との戦いを見ても、やはりリューク様が負けるということが想像がつきませんね」
「大袈裟に言うまでもなく、今の人族最強はリュークだろうからな」
黒大鷹ブラックホークとの戦いはアメリア達に記憶には新しく、とても印象付けられている。
しかもアメリアとサラに至ってはバジリスクとの戦いも目の前で見ているのだ。
そのSS級冒険者にふさわしい強さを前に、アメリア達は圧倒されそして――憧れた。
「あたしは……あいつが帰ってくるまでにS級、いや……SS級冒険者になります」
サラの決意の宣言にアメリア達は驚くもそれを馬鹿にしたような様子はなく、むしろ自分達もと意気込む。
「サラも言うね~。なら……うちもSS級冒険者にならないとね~」
「そうですね……妹を守るのが姉の役目ですからね。妹より弱くては面目が立ちません」
「エイミーお姉さま……テレシアお姉さま……」
「それなら私はお前たちより早くSS級冒険者になって待っているとしよう」
アメリア達は互いに顔を見合わせて笑い、楽しそうにギルドに向かう。
アメリア達もここでリュークと別れたが――冒険は終わりではなく、ここから新たな冒険が始まるのだ。
――――
リュークはアメリア達が離れた後、貴族のランスとともに港まで来ていた。
「これが――海か」
リュークの目の前には広大な海が広がっていた。
水平線まで水が広がっていてリュークの鍛えられた目でも何も見えない。
「リューク殿は海は初めてでありましたか?」
リュークの反応を見てランスが問いかける。
「はい、湖とは水の色も違うんですね」
「水の色……? 確かにここの港は澄んだ水ですが」
「俺が見た湖の色は紫でしたから」
「それは……リューク殿が言っているのは『ラミウムの湖』ではありませんか?」
「そうです。やっぱり湖と海じゃ水の色も違うんですね」
「いや、それは違うと思いますが……」
普通の人が辿り着く前に死ぬような湖と、通常の湖が同じものと思っているのはリュークだけだろう。
当たり前だが、通常の湖は紫色の水ではないのだ。
「あとはやっぱり匂いが違いますね……いや、あの時は毒の空気を吸わないように上空の空気を吸っていたから、本当は湖もこんな匂いなのか?」
「これは潮の匂いですね。海独特の匂いで、多分普通の湖ではこの匂いはないと思います……ラミウムの湖はわかりませんが」
二人は話ながら港を歩いていき、ある船の前で歩みを止まった。
その船は港にあるいくつもの船より少し大きいくらいで、他の船は帆ほがあるのが多いのだが二人が止まった船はそういったものはない。
「これですか? 俺が乗る船というのは」
「その通りです。いつもならもっと大きい船を用意するのですが、今回はクラウディア王とリューク様の要望通りにしてこのくらいの船になりました」
リュークとクラウディアが話し合った結果、精霊族のノーザリア大陸に行くのはリューク一人で行くということになった。
理由は何個もあるが、一番の理由は無駄に大きい船だと冒険者をいっぱい雇わないといけなくなることだ。
大きい船だと襲われたときにリュークが一人で守りきれないので冒険者は雇わないといけないが、精霊族の大陸に行く船を護衛するような冒険者はほとんどいない。
それならば、小さい船でリュークが一人で守りきれる大きさと人数で行ったほうがいいとなったのだ。
「すでに食物などは船の中に運んでおります。それと、あちらで刀を購入する際のお金はお受け取りになりましたか?」
「はい、さっき貰って異空間に入れときました」
二人が最後の確認をし終えると、船の中から人が出てきた。
「おっ! ようやく来たか!」
その人はリューク達のほうを見ると、海の上で揺れている船から勢いよく飛んで港の地面に着地する。
リュークの目の前に歩いてきたその人――女性は、笑いながら手を差し伸べて自己紹介をする。
「オレはセレスティーナ――ドワーフだ!」
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