第35話 決着


「お前の真似をして魔剣とやらを再現してみた」


 その言葉にルーカスは言葉を失う。


「これ便利だな。いろんな魔物の有効打になるな」

「で、でたらめなことを言うな! 自分の剣に……魔法付与だと!? そんなの上級魔法使いですら出来ないことだぞ!」

「それを……俺の剣撃を避けながら魔法付与を続けるだと!? そんなこと出来るわけない!」


 ルーカスは観客に聞こえるくらいの声で叫ぶ。


 ルーカスの言葉に観衆も騒めき始める。



「あいつ……あの木刀に魔法付与しているのか!?」


 リュークの木刀を遠くから見て判断したアメリアが驚愕する。


「確かに木刀に水が纏わりついてるのが見えるけれど……」

「何がどのくらいすごいの? それって」


 アンとアナはまだ魔法に詳しくない為、その凄さがわからない。


「そうですね……例えば右手で料理を、左手で掃除を、右足で洗濯を、左足で魔法を撃つくらいの難しさですかね」

「わかりやすいようでわかり難いよそれ!?」


 テレシアの説明にアナがツッコむ。


「端的に言えば、もの凄く繊細で緻密な魔法です。魔法を物体に付与するとなると、その物体の形を完璧に把握し魔法を覆わなければいけません」


 ――魔法とはそれほど万能なものではない。


 魔法で出した水は、ただの水。

上から下に流れるように、普通にしていたらただ地面に落ちて水溜りが出来るだけ。

空中に維持し続けるのには魔力を使い維持しないといけない。


 その難しさは、昨日練習したアンとアナには十分にわかっていた。


「しかも今回の木刀の場合、あんなに動く物体に魔法を付与するのは、魔法も木刀の動きに合わせて移動させるしかありません。それをS級冒険者のルーカスとの戦いの最中にやるのは極めて困難です」


 テレシアの説明にアンとアナは、やっとリュークのやってることを理解する。


「リューク君凄いね〜。さすがSS級だね〜」

「ほ、本当にあいつが……」


 エイミーは素直に驚いているが、サラは少し信じられないような面持ちでリュークの木刀を眺めていた。



「いや、実際に出来てるだろ?」

「くっ……」


 ルーカスは周りを見渡すが、観衆の中で魔法を発動している気配は感じられない。

つまり――実際に目の前のリュークが一人で魔法剣を再現してるということになる。


「ふざけるな! ふざけるなぁ!! そんな事があってたまるか!」


 ルーカスは剣に炎を纏わせながら突っ込み──全力で剣を振るう。

 しかし、それをリュークは受け流す。

剣を逸らし、炎も木刀を振るうことにより霧散させる。


「振るい方が大雑把になってきたぞ」

「黙れ!! お前なんかが……俺に勝てるわけないんだ!!」


 横に、縦に、斜めに――炎を出しながら剣を振るう。

S級に相応しいスピードと力で剣を振るうが――相手はSS級。

全てを防ぎ切る。


「クソッ! クソがっ!!」


 頭の上まで振り上げ――炎を纏わせ振り下ろす。

斬った感触は無い。

 しかし、今までで一番大きな炎がリュークを襲う。

ルーカスの前方が全て炎で埋まる。

リュークもその炎は払えずに炎に包まれる。


「俺に勝てるやつなどいないんだ!!」


 勝利を確信したのか、ルーカスはそう叫ぶ。


 そして炎が消えると――そこには誰もいなかった。


「なにっ!?」


 すぐに気配を察して背後を振り向くルーカス。


「――遅い」


 その言葉を言い切ると同時に、ルーカスの首を後ろから斬る。


「がっ……!」


 ルーカスは前のめり倒れるように膝をつく。


「俺が……この俺がこんなガキに……」


ルーカスは意識を失い、その場に倒れる。



「お前が負けた理由は一つ――俺より弱かったからだ」


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