第34話 魔剣


 リュークは練習場へ向かう道を歩く。


 そこの道は地下のようで、所々に松明があり光が入らない道を照らしてくれている。


 そして目の前に階段が見えてきて、上がっていくと地上の光が見えてくる。


 そしてリュークが地上に上がると――広々とした場所があり、そこを中心に観客席が周りを囲むように段々になってあった。


 リュークが入ってくるのを観客が見ると、より一層盛り上がっているのが目に見えてわかる。

観客の数は優に千を超えていた。


 そしてリュークの正面の地下からの階段から、ルーカスが登場した。


 ルーカスが登場すると、女性の観客の黄色い声が響いたのがわかる。

ルーカスもそれに応えるように観客に向かって笑顔で手を振る。


「この場所広いな。アンとアナの鍛錬の場所ここにしようかな? だけど森まで走った方が景色が変わって楽しい気がするけど……」


 リュークはこの観客の数や歓声を聞いてなお、何も影響を受けずに平常時である。


「お姉ちゃん、なんか寒気がしたのは気のせい?」

「奇遇ねアナ、私も何か感じたわ」


 観客席の後ろの方でアンとアナが何かを感じていた。


「よく逃げずに来れたな。それだけは褒めてやろう」


 目の前のルーカスが話しかけてくる。

 いつもの爽やかな青年のような声ではなく、時々リュークに言い放つ荒い言い方であった。

 しかし、歓声の大きさで観客にはルーカスの荒々しく低い声が届いていないらしくルーカスは続けて喋る。


「しかし、その勇敢な判断を後悔することになるだろう。お前はここで……死ぬのだからな」


 ルーカスは観客にバレない程度に、イヤらしく嗤わらう。


「何故そんな自信満々なのかよくわからないが……てか勝つ自信無かったからあいつらに俺を襲わせたんだろ?」

「ふん、俺は完璧主義者でね。お前が俺に勝つ可能性など万に一つもないが……億に一つはあるかもしれないからね。それを潰しておきたかったが……あの役立たず共が。やはりC級程度に任せたのがいけなかったよ」


 リュークとルーカスが話していると、観客席の方から、早く始めろ!という野次が聞こえてくる。


「うるさい奴らだ……まあいい。そろそろ……公開処刑を始めようか」


 ルーカスはそう言いながら腰にある鞘から剣を抜く。

リュークも異空間から木刀を出して手にする。


「……貴様なんだそれは? 木だと?」

「ああ、これ以外無いんだ」

「貴様……魔法剣士などというふざけた職業だけではなく、そんなふざけた物で俺と戦うつもりか?」

「ふざけてはないがな。これ以外の武器は無いし、職業もお前が言った通りだ」

「ふざけやがって……お前が俺に勝てない理由を挙げてやろう。一つ、まずそのふざけた職業。魔法剣士など、魔法も剣も半端にしか使えない者がやる職業だ。そして――っ!」


 ルーカスは地面を蹴りリュークへと迫る。

観客には目も止まらぬ速さで迫ったルーカスの剣をリュークは木刀で止める。


「――これが二つ目の理由だ!」


 瞬間、リュークに爆炎が襲った。


「――リュークっ!」


 観客席で見ていたアンから悲鳴のような声が歓声の中から聞こえてくる。


 しかし、次の瞬間には爆炎は散って無傷のリュークが現れた。

リュークの木刀の一振りで爆炎は消え去ったのだ。


「へー、驚いたな。その剣、炎出せるのか?」


 木刀の刃先の一部を見ると、黒く焦げているところがあった。

ルーカスと刃を交えたところである。


「そうだ。二つ目、それは武器だ。貴様の木刀というふざけた武器とは違い……こちらは魔剣だ。魔剣は操るのが難しいので有名だが――」


 ルーカスが剣を振るうと炎が舞う。


「――この通り僕は魔剣を手足を扱うかのように使える。しかもこの魔剣の属性は火属性、炎を纏わせて斬れるし炎をお前に襲わせることも出来る」


 ルーカスは勝ちを確信したかのようにニヤリと笑う。


「そして最後に三つ目の理由……お前の相手がこの俺、『貴公子』ルーカス様だからだ」

「S級になってから五年、冒険者稼業を五年やってきて決闘は一度も負けたことがない」


「……負けなかった理由は昨日みたいに相手を襲ったからじゃないのか?」

「――戯言ざれごとをっ!!」


 ――ルーカスはそう叫ぶとリュークへと斬りかかっていた。


 一振り一振り全てに炎が纏い、リュークに炎が襲う。

全ての攻撃──炎が簡単に人の命を燃やし奪い尽くす。


 しかし――。


「何故当たらん!? いや、お前は何故無傷でいられる!?」


 ――リュークは全てを躱し受け止めていた。


「確実に炎はお前を襲っているはずだ! 何故火傷一つ負わない!?」

「俺にその炎が届いてないからだろ」


 リュークは淡々と事実を相手に告げる。


「俺の周りに風を起こして炎や熱を払ってるからな」

「小賢しい真似を……っ!」


「しかし、お前の剣は木だ。直接当たってるその木刀は燃え……?」


 ルーカスはリュークの木刀へと目を向ける。

 しかし、その木刀には最初に接触した時に焦げたところしか黒くなってはいなかった。


「なぜ木刀すらほぼ無傷なのだ!? その木刀はなんだ!?」

「敵にそんなにネタバレ求めるか? まあお前も教えてくれたから俺も教えてあげようかな」


 リュークは腕を前に出し、木刀を地面と水平にして相手に見せる。


「木刀に薄く――水を張っている」

「なに……?」


 ルーカスは目を凝らして見るが全く見えない。


「まあわかりやすくすると――」


 リュークが剣を横に振るうと水が勢いよく飛び散る。

そして木刀に目に見えるほどの水が覆っているのがわかる。


「――こんな感じだな」

「なっ!? 貴様その木刀、魔剣だったのか!? 魔剣の木刀など聞いたことないぞ!」

「いや、魔剣とやらじゃないぞ。そんな剣知らなかったし。これは俺がやった」

「なんだと?」


「お前の真似をして魔剣とやらを再現してみた」


 誰も成し遂げてないことを軽い口調で言い放った。

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