第33話 決闘へ


 ――翌日の朝。


 リュークは昨日と同じように早くに起きてた。

隣では自分のベットでアメリアが寝ているので、起こさないように着替えてから家を出る。


 そして街中を歩き、昨日鍛錬をした場所へと向かう。

路地裏らしきところに入り、長い階段を上り頂上にたどり着く。


 市壁の頂上にたどり着きひらけた場所に出る。


「よし、始めるか!」


 異空間から木刀を取り出す。


 そして目を瞑り真っ暗闇の世界に入る――



 ――数十分後。

 リュークは汗だくで刀を振るっていた。

そして最後の一振り、暗闇の世界の相手の首元を斬り裂く。


「ふうぅ……二勝三敗か」


 汗を拭いながら今日の相手との戦績を言い、戦闘内容を頭の中で反芻、反省する。


 そしてそれらが終わると先程から見ていた者に声をかける。


「アメリア、俺の剣術はどうだった?」


 声をかけられたアメリアは呆然としながらもなんとか応える。


「……言葉にもならない。これほど強く、美しい剣技、そして決闘を見たことがない」

「流石だな。俺が誰かと戦ってることは気付いてたのか」

「途中からな。それにしても、お前もお前だが、お前の相手をする者も相当だ。お前は何者なのだ」

「森から出て来たただの『子供』だよ」


 昨日初めて二人が言葉を交わした時に何回も言われた、『子供』という単語を嫌味にして返す。


「ははっ、そうか。しかし今の剣技、これならあの……」

「ルーカスな」

「ルーカスとやらにも勝てるだろうな、相手にもならないと思うぞ」

「そうか……まあそうだろうな。てかいい加減名前覚えろよ」

「私は無駄なことは覚えない派なんだ」


 そして二人は帰路に着く。

歩きながら二人はまた話しをする。


「しかし、あそこまでメリー達の家から二キロも無いだろう。なぜ街を歩いて向かったのだ? お前なら『次元跳躍ワープ』で行けるだろ」

「うーん、なんかこの街の光景が好きなんだ」


 リュークは歩きながら街の様子を見る。


 ある人は仕事に向かう途中なのか、早歩きで歩く。

 ある人は商人なのか、店を構える準備で商品を店頭に出し始めている。

 ある人は職人なのか、朝早くから一心不乱に何かを造っている。


「今まで父ちゃんと母ちゃん、森の中の世界しか知らなかったからな。こういう街の慌ただしく人が動いてる姿がなんか……良いなと思ってな」

「……そうか」


 アメリアも街の様子を眺めていると、ふとリュークの横顔が目に入る。


 優しく微笑み、そして朝陽が眩しそうに目を薄めにしている横顔がなんとも綺麗でカッコよく――


「――はっ!? 私は何を思っておるのだ!? 八歳も年下相手に!」

「いきなり頭を抱えて何を叫んでるんだ」


 そんなことがありながらもメリー達の家にたどり着く。


 家の中に入るとテレシアが朝飯を作っており、エイミーとサラは椅子に座っていた。

三人はリュークとアメリアが帰って来たことに気付き、朝の挨拶をする。


 サラ以外はリュークにも挨拶をしたが、サラはリュークに挨拶せずにいきなり突っかかった。


「あんた! アメリア様と外に出かけて何をしてたの!?」

「サラ〜、そんな野暮なこと聞かないの〜。若い男女が朝帰り、想像出来ることは一つじゃないかな〜」

「なっ!? 何を言っている! 私とリュークはそんなことしてないぞ!」

「エイミー、はしたないことを言うのはやめなさい」

「ただ鍛錬をしてたらアメリアが追いかけて来ただけなんだけど」


 リュークの言った呟きは誰にも届かず、他の四人は朝から騒々しかった。


 そして四人が騒いでると、アンとアナが眠そうにリビングに来た。

あくびをして寝癖などもまだついていて、いかにも寝起きであった。


「おはようございますアン様、アナ様。お二人とも寝癖などがついてらっしゃいますよ。洗面所で直してきてはいかがでしょう、ついでに冷たい水で顔を洗うとスッキリしますよ」


 アンとアナはテレシアに言われた通りに洗面所に歩き出す。


「あの二人あんなに寝起き悪かったのか?」

「昨日の疲れが残ってるのではないか? リュークとの鍛錬がよほど厳しかったのだろうな」

「あんくらい普通だけどな……もっと厳しくしたいがもう少し慣れるまではしないほうがいいな」


 しばらく待つと二人とも寝癖も直し、目もぱっちり開いた状態でリビングに戻ってくる。


 そして七人はは食卓に着き、朝食を食べる。

そして食べ終わるとアメリア以外の皆んなで片付けをして身支度を済ませる。

 なお、テレシアによるとメリーはもうギルドに出掛けて行ったようだ。


 家を出たところでリュークが思い出すかのように。


「あ、忘れてた。あいつらギルドに連れていかないとな」

「え? あいつらって誰?」

「ああ、私も忘れていた」


 何も知らないアンがリュークに問いかけ、皆んなで家の裏に回るとそこに三人の男が転がっていた。


「え、何この人たち……」

「あ、私わかった! お兄ちゃんのランク決める時に絡んできた奴らだよ!」

「ああ、そうだ。昨日俺とアメリアがリビングで寝てたら襲ってきたから返り討ちにした」

「え、襲われた!? アメリア様大丈夫だったんですか!?」

「ああ、問題なかったぞ」

「サラ慌てすぎ〜、アメリア様がこんな奴らにやられるわけないじゃん〜」

「そうですね、とりあえずこの三人はギルドに引き渡して処罰を受けてもらうということで大丈夫でしょうか?」

「そうだな、俺が持って行こう」


 三人の男はまだ気絶していて、リュークは風魔法で三人を浮かせる。


「よし、行くか」

「え、このまま行くの!?」

「街中を男三人浮かせて歩くのは目立つよお兄ちゃん」


 アンとアナにそう言われたが特に気にせずにリュークは男三人を浮かせてギルドに向かう。


 ギルドに向かう途中、街の人たちは当然リューク達の方を──浮いてる三人を注目していた。


「やっぱり皆んな見てくるね〜」

「そうだな、まあ気にしないで行こう」

「道行く人全員から見られて気にしないのは無理があるわよ!」

「サラは神経質だな」

「ちょっと、あんたに気安くサラとか呼ばれる筋合いないんだけど!」

「じゃあなんて呼べば?」

「サラ様と呼びなさい!」

「はいはい、さらさまー」

「呼ぶ気ないでしょあんた!」


 サラが一方的にリュークに絡み話しているとギルドに到着する。


 中に入り、メリーを見つけて浮かせて運んで来た三人を床に無造作に降ろし、引き渡す。



「メリー、『これ』」

「え? ああ、はい。この人達ですね。こちらで預かり連れていきますね」

「おう、頼んだ」


 そしてしばらく経つとギルドの外が騒がしくなり、ギルド内にルーカスが入って来た。


 ルーカスはリュークを目にすると一瞬顔を顰しかめるが、すぐに爽やかな笑顔に戻る。


「やあ、おはようリューク君」

「ああ、おはようルーカス。昨日はよく眠れたか?」

「え? そうだね……よく眠れたよ」

「そうか。俺も夜中に『来客』が来たが、丁重にお出迎えしてすぐに寝たからよく眠れたよ」


 リュークはニヤッと笑いながらルーカスに含んだ言い方をする。


 ルーカスもその意味がわかったのか、またもや笑顔が崩れる。


「じゃあお互いによく眠れて万全な状態で決闘をするとしようか」

「……そうだね。ここの練習場を借りてやろうか。観客席もあるから皆んなも来てくれよ!」


 ルーカスはギルド内にそう呼びかけると、何十人もの冒険者が練習場に向かう。

口々にどちらが強いか、どちらに賭けるかなどを言いながら。


「僕も先に行ってるよ」


 ルーカスはそう言ってリュークの隣を通って練習場へと向かう。


 そしてすれ違う瞬間――


「殺してやるからな……覚悟しろ」


 ――低い声でそう言い放って離れていった。


「……メリー、質問なんだけど。決闘って殺してもいいのか?」

「えっと……ギルド内での冒険者同士の決闘では故意の殺害は許していません。しかし……」

「故意、と判断されなければ……殺しても罪に問われない」

「……そうなりますね」


 メリーは言いづらそうに肯定する。


「まあ、俺には関係ないか。じゃあ行ってくる」

「リューク、頑張ってね。信じてる」

「お兄ちゃん頑張ってね!」


 アンとアナの声援を背に、リュークは練習場へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る