第79話 黒幕
「――何者かによって仕向けられた可能性が高いです」
リュークがそうクラウディアに告げると、クラウディアも怪訝けげんそうな表情を浮かべて話を続ける。
「どういうことだい? 呪いが他人にかけられるものなんて聞いたことはないよ」
「俺なりに『呪い』について考えてみました。間違っている可能性もありますが、とりあえず話します」
リュークは今回の依頼の最中に考えていた呪いの正体について話す。
「呪いはおそらく――闇魔法の暴走が原因で罹かかってしまいます」
「闇魔法の暴走?」
「はい、マリアナ王妃がまだ呪いに罹ってる時、闇魔法が発動してるのを俺は感知しました」
マリアナ王妃が前日の夜さえ忘れてしまった朝、リュークがバジリスクの素材を取りに行くと決意したあの朝の時、マリアナ王妃にリュークが近づいた際に闇魔法の反応が小さくだがあった。
「不自然な闇魔法の発動の仕方だったので不思議に思ったのを覚えています。そして、蛇の王バジリスク。あいつが言っていたのは――」
リュークが蛇の王バジリスクと対峙した時に言っていたことを思い出す――。
『前にもお前のような人族の雌メスがここに訪れ、我が子達を傷つけ殺し帰っていった』
『あー……それはすまない。だけど聞いてくれ。こっちにも訳があるんだ』
『その雌も同じことを言っていた。闇魔法を解くのは我達の素材でしか出来ないと』
『ああ、その通りだ』
――このように言っていたことをリュークはクラウディアに話す。
「つまり……」
「そう、バジリスクの素材は闇魔法を解く薬を作るってことです」
「雌ってのは、魔帝フローラ様でいいのかな?」
「はい、そうですね。俺の母ちゃんは――呪いの正体を暴いていました」
リュークは確信をもってそう答える。
魔帝フローラはフランの時に、呪いの正体に辿り着いていたのだ。
「さすが魔帝様だね……そしてリューク君も、魔帝様と同じくそこに辿り着いていたんだね」
「バジリスクのその言葉でやっと確信したって感じですけど。それまではもしかしたら、とは思ってました」
リュークもマリアナ王妃から出ている小さな闇魔法の反応で、呪いの正体についてはある程度予測はしていた。
「そして今回、解呪薬を作った調合師……名前をフランというのですが、そのフランは闇魔法の適性があると言っていました」
リュークとフローラが辿り着いた結論は同じ。
原因は不明だが、闇魔法の適性がある者が意図せずに魔力や魔法を暴走してしまい、呪いが引き起こされるというものだった。
「他の呪いに罹かかった人を調べないとわかりませんが、闇魔法が原因になっているのは間違いないでしょう」
「……つまり、闇魔法の適性がある人しか呪いには罹らない、ってことかい?」
「はい」
「それはおかしい。なぜなら――マリは闇魔法の適性はないんだ」
そう、今回被害にあったマリアナは過去に何度か調べたが、闇魔法の適性はない。
あるのは光魔法と風魔法だけ。リュークとフローラが言った説とは異なってしまう。
「闇魔法が原因なら、なぜマリは呪いに罹ったんだ?」
「そう、それこそが――何者かに仕向けられたと俺が考えた理由です」
「――っ!? まさか……」
――誰かがマリアナ王妃に『呪い』をかけた、リュークはそう考えていた。
その事実に、クラウディアは驚きを隠せない。
呆然としながらも、クラウディアはリュークに問う。
「それは……可能なのか?」
クラウディアは呪い、つまり闇魔法に詳しくはない。なので、魔帝フローラに教わったという魔法に詳しいリュークに問いかけた。
――他人が、ある個人を狙って呪いをかけることなど出来るのか。
「自分もそこまで闇魔法が得意というわけではないので、呪いを狙って発動させることは出来ませんが、もし出来るとしたら……一人に向かって呪いを発動させるのは可能だと思います」
リュークはクラウディアの問いに正直に答える。
リュークは今まで闇魔法は支援魔法が主力だと思っていた。
相手の行動を遅くしたり、味方の気配を消したりなどが出来るのだが、リュークは今まで一人で戦ってきたのでそこまで闇魔法を使ってこなかったのだ。
それは魔帝フローラにも言えることで、自分についてこれる人などいなかったので一人で戦うことが多かったために、闇魔法は使ってこなかったのである。
つまり――。
「――闇魔法、呪いをかけた相手は俺や母さんより魔法に関して同等……闇魔法についてはそれ以上だと思います」
リュークのその言葉にクラウディアは驚愕する。
魔法に関しては最強と言われる魔帝フローラ。そしてその才能を引き継いでいるリューク。
その二人より魔法が上手い人物などいるのか?
「そんな人物がいるなんて聞いたことない……」
「……確か、クラウディアさんは獣人族との交流を進めているらしいですね」
「……そうだね、積極的に取り組んではいるよ。多少なり結果も出ている」
「はい、自分にも獣人の知り合いはいます。その獣人の人から聞いたのですが……獣人族と仲が悪い精霊族、そして人族と仲が悪い魔人族は魔法適性が高く、互いに協力して魔法を研究しているらしいです」
「――っ!? そんな……っ!?」
今回、マリアナ王妃への呪いをかけた人物、それは――精霊族、それか魔人族ということになる。
確かにその二つの種族は獣人や人族より魔法適性は高く、リュークやフローラより魔法に詳しくても不思議ではないだろう。
「っ……!」
クラウディアは絶句していた。
まさか自分の妻の呪いが――他人にかけられていたとは思ってもいなかった。
しかも国家問題――否、種族間問題にまで発展するとは夢にも思わなかったのであろう。
「これは全て俺の予測にすぎません。もしかしたら全部違っていて、マリアナ王妃の呪いは自分の闇魔法の暴走かもしれません」
「……いや、それはない。マリの魔法適性は何度も調べている。王族であるからこそ何度も調べてはいるが、一度も闇魔法に適性があるなんてことは結果としては出なかった」
リュークの言い分には何も証拠はない。
しかし、そう考えると全て辻褄つじつまが合ってしまうのだ。
「心当たりは……ありすぎて、むしろわからないよ。獣人族と交流を取ることを好まない人が多いからね。さっき言った精霊族、魔人族の人たちや、同じ種族の人族や獣人族からも何かとちょっかいは出されてはいる」
人族と獣人族が友好的とは言っていたが、全ての人たちや国が友好なわけではなく、好ましく思ってない人や国も多数ある。
そんな多くの反対などを押し切っての獣人族との関係の取り組みだったが、それらを考えると呪いをかけたのは精霊族か魔人族かもしれないが、『黒幕』はどの種族なのかわからない。
「……大丈夫ですか?」
「ああ……いろんなことを考えてしまった。大丈夫だよ、ありがとう。よくここまでのことを考えてくれて、そして教えてくれたね。礼を言うよ」
「いや、本当に確証はないんですけど……」
「それだけのことを考えられるのなら今すぐにでも王様になれると思うけど、どうかな?」
「またその話に戻るのですか……」
クラウディアはおどけてみるようにそう言ったが、先程のように余裕な感じはなく、強がって言ったようであった。
リュークとクラウディアの話が一段落ついたところで、応接室の扉が叩かれてマリアナが紅茶を持って現れた。
一度クラウディアは頭の中を整理するためにマリの紅茶を飲んで落ち着く。
マリアナは先程のクラウディアと様子が違うので少し気になったが、聞かずにリュークに紅茶とお菓子を進める。
「どうぞ、リューク様。お口に合えばいいのですが……」
「あ、いただきます」
リュークが紅茶が入っているカップを手に取り口につけようとした時――。
応接室のドアが勢いよく開かれて、バルトロが入ってくる。
「どうしたんだバルトロよ、そんなに慌てて」
汗だくのバルトロにそう問いかけると、バルトロはクラウディア達に知らせた。
「お、王城の外で――暴動が起こっております!!」
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