第78話 呪いの正体
「リューク君、王位を継がないかい?」
リュークにそう告げたクラウディアは少し悲しそうな顔をしているが、至って真面目な顔をしている。
リュークはその発言に驚きながらも、クラウディアに問いかける。
「クラウディアさん……退位するんですか?」
「ああ、そのつもりだよ」
「なぜですか? マリアナ王妃の呪いが解けたから、クラウディアさんが退位する理由はないのでは?」
クラウディアが王を退位するという話は王都中に広がり、近辺の街にも広まっていた。
その理由とはマリアナ王妃が呪いに罹かかってしまったので、クラウディアが国を捨てて彼女のために今後の人生を過ごすという覚悟があったからだ。
「確かにマリの呪いは解けて、僕が王を続けるにあたって何も支障は無くなった。しかし……これは僕の気持ちの問題だね」
「僕は一度、マリのために国を、民を捨てたんだ。そんな僕がもう王など務まるはずもない。務めてはいけないんだ」
クラウディアがそう言うと、隣に座っているマリアナは俯いたまま気落ちしたように話す。
「ごめんなさい、あなた……私わたくしのせいで……」
「君のせいじゃない、僕が勝手に決めたことだよ。君が気に病むことはないよ」
クラウディアはマリアナの肩に手を添えるようにして慰める。
「どうだいリューク君、やってみる気はないかい?」
「なんで俺なんですか? 俺はまだ十二歳ですよ」
「リューク君は人のために命を懸けられる。十二歳でそれほどの気概を持っていれば十分だよ}
「そうですか? もっと必要なことはあると思いますが……」
「それに僕は、君が王様になって繫栄していく国を見てみたい」
「結構個人的な理由ですよねそれ」
「あはは、まあ本当に君は王になる資質を持っていると思うよ。君は人の上に立って力を発揮すると思うよ」
「そうですかね……」
そしてリュークが王様になれる理由を、付け加えるようにマリアナが話す。
「それにリュークさんは……クラ君に似ています」
「俺がクラウディアさんに……?」
「僕もそれはわからないけど、マリが言うからにはそうなんだろうね」
「はい、私がクラ君と初めて会った時はリューク様と同じく十二歳でしたよ」
「え、そうだったんですか。じゃあ、マリアナ王妃とクラウディアさんは三歳差ですか?」
「そうだけど……何で知ってるんだい?」
「あ、えっと……クラウディアさんとマリアナ王妃が出会った時は、マリアナ王妃が十五歳と聞いていたので……」
リュークは王城の屋上でクラウディアからのプロポーズを聞いていたので、そのことを知っていたのだった。
「リューク君にそのことを言ったかな? 覚えがないけど……」
「あ……まさかリューク様、あの時いらしたのですか?」
マリアナは顔を紅くしてリュークに問いかける。クラウディアは首をひねって考えたが、思い当たる節はなかった。
「はい、あの時いました……すいません、聞く気はなかったのですが……」
「いえ、大丈夫です。ふふっ、少々恥ずかしいですが……」
マリアナ王妃は口に手を当てて、上品に笑った。
「僕にはわからないんだけど……」
「あなたは大丈夫ですよ、わからなくて」
「うーん、気になるな……」
クラウディアは少し気になりながらも話を戻す。
「リューク君、現国王と王妃の推薦があれば君は王位を継承できるだろう。どうだい? 考えてもらえるかい?」
「さすがに今すぐは出来ませんよ。自分はまだ両親の元を離れたばかりなので、もっと世界を旅していろんなことを学びたいと思ってますし」
「では、その後は王様になっても構わないと?」
「その時にならないとわからないですけど……」
リュークのその答えに、クラウディアは満足したように笑顔で頷く。
「それだけ聞ければ十分だ、何も今すぐとは思っていなかったからね。君が……そうだね、僕も十八歳の時に王位に就いたから、その時になったら改めて」
「ずいぶん先の話をしますね……」
「王たるもの、常に先を見据みすえないといけないからね」
そう言ってクラウディアはリュークに向かって片目を閉じておどけるように笑った。
リュークもそれにつられて笑いながら言う。
「参考になりますね」
「ああ、君より優れてる部分は長年の経験ぐらいだからね。そこぐらいは先を読むことぐらいは勝ってないとね」
「あなた、ではこれからどうするのですか? あなたが退位してしまったらこの国は王がいない国となってしまいますが……」
「王様がいなくても数年ぐらいは大丈夫だろう。幸いにも、宰相のバルトロや他の貴族の方々も優秀な人が多い。その間に……誰かが王を継げばいいんだよ。そうだよね、リューク君」
「嫌味な言い方ですねクラウディアさん……」
「あはは、まあ気長に待ってるよ」
話は一段落つき、マリアナが紅茶を入れるために一度応接室から退席する。
「クラウディアさん、少し話があります」
「……なにかな」
マリアナが出て行ってからリュークの真面目な雰囲気に、クラウディアは応えるように真剣に話を聞く。
「マリアナ王妃の呪いについて……あの呪いは――」
一呼吸置き、リュークはクラウディアに告げた。
「――何者かによって仕向けられた可能性が高いです」
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