第124話 剣の美


 ブラックライガーを倒した次の日。

 リューク達はまた森に来ていた。


「よし、今日は普通に魔物を狩るか!」

「ボクは昨日もそのつもりだったのに、あなたが強情だったから」


 実際、セレスがブラックライガーにこだわっていなかったら、昨日でリュークの腕を見れたはずだ。


 昨日、ブラックライガーを死体をアーベンギルドに持っていくと、夜だというのに大騒ぎになった。

 二十年ぶりぐらいに討伐されたとあって、アーベンギルドの職員は嬉しい悲鳴をあげていた。


 ブラックライガーの素材は多岐に渡り使え、毛皮はとても高価な服に、内臓の一部は非常に効果がある薬などになる。


 使えない部分がどこもないブラックライガーの素材は、ギルドで言い値で買い取ってもらった。


 しかし、レンが骨だけは買い取らせずに自分達で使いたいと言ったので、骨の買い取りはやめてもらった。


 なぜかと聞くと、ブラックライガーの骨は刀を造るときに金属より良い素材になる可能性が高いので、リュークの刀を造るときに使おうということだった。


 そして昨日の夜は普通にレンの家で休み、今日は朝から今度こそリュークの腕を見るために森に来ていた。


「今日はアーベンギルドに行かなくていいのか?」

「もう金も何年も働かなくてもいいくらい貰ったからな。てか、本当に俺達に分けてもいいのか?」

「リュークが倒したのに、一番分前が少ない」

「精霊族の金を貰ってもあんまり使わないと思うしな。俺が持っているより二人が持っていた方が有益に使えるだろ」


 リュークは精霊族の大陸で刀を造ってもらい受け取ったら、また違う大陸に行こうと考えていた。


「さすがリューク。いい婿さんになる、ボクの」

「お前のじゃねえって言ってんだろうが!」

「俺は誰のものでもないぞ」


 そうして話しながら森の中を歩く。


 しかし、この森の魔物は強い者を襲わないという習性のようなものがある。

 具体的には魔法の強さではなく、肉体的な強さである。


 リューク、セレス、そしてレン、この三人は肉体的に圧倒的な強さを持っている。


 精霊族の中でもトップの身体能力を持っているセレス。

 身体能力は頭一つ分だけ優っているぐらいだが、剣の達人と言っても過言ではないほどの技術を持っているレン。


 この二人がいるだけで大体の魔物は襲ってこないのだが、そこにリュークも加わってしまっている。


 肉体的な強さを見ずに襲ってくるような魔物以外、絶対に襲われないパーティであった。


 だから無闇に森を回っていては、一向に魔物とは会えないだろう。

 この森の魔物は弱くても相手の実力をしっかりと見抜く目を持っている。

 遠くから人間を見たら自分が勝てるかどうかを判断し、勝てないと思ったらすぐに逃げる。


 なので三人はこのままだったらどの魔物にも会えない。


 しかし、リュークには魔力探知がある。

 半径二キロの魔物を全て把握し、そしてその範囲内だったらどこへでも『次元跳躍ワープ』ができる。


「お、いた。五体ほどしかいないが、大丈夫だよな?」

「リュークがやりやすいようにしていいぞ」

「ボクはリュークの剣技が見れれば」

「じゃあ俺に掴まってくれ」


 その言葉にレンは迷わずリュークの腕に身体を寄せるように抱きついた。


「なっ! お前!」

「掴まっただけ」

「セレスも早く掴まってくれ」


 セレスは文句を言おうを思ったが、リュークにそう言われると自分もやっていいのかと生唾を飲む。


 胸を高鳴らせ、躊躇いながらもリュークの空いてる方の腕に抱きつく。

 細いながらも筋肉がついていて逞しい腕を、自分の豊満な胸の間に入れる。


(あー、やばい! もうこの腕離したくない!)


「じゃあ行くぞ」


 セレスのニヤけた顔を見ずに、二人が捕まったことを確認してからすぐに『次元跳躍ワープ』した。


「よし、離していいぞ」

「すごい、いきなり目の前に魔物が」


 レンは名残惜しみながらリュークから離れる。

 そして初めての『次元跳躍ワープ』の感覚や魔物がすぐ近くにいるという事実に驚いていた。


「なあ、セレスももう離していいぞ」

「腕、リュークの、でへへ……えっ? あれ、ここどこだ?」


 女性がやってはいけないような笑い方をしていたが、リュークは見てないことにした。


「戦えないから離れてくれ」

「あ、その、わかった」


 レンよりもわかりやすく未練を残すように腕から離れる。


 リューク達の目の前にいる魔物――バイコーン。

 馬のような姿をしていて、真っ黒な体毛に覆われている。頭には普通の馬とは違い、二本の角が生えている。

 魔獣の一角獣ユニコーンの対となる、魔物の二角獣バイコーン。


 ユニコーンと同じぐらいの体長だが、バイコーンの方が気性がとても荒くこちらの言葉も通じない。


「おいおいマジか、よりによってバイコーンかよ」


 精霊族の大陸でバイコーンはA級の魔物に分類される。

 ブラックライガーほどではないが、この森の中でとても強い魔物の一種である。


 おそらくリュークがいなくて、セレスとレンだけでこの森を歩いていたら、バイコーンには襲われるだろう。

 身体能力を見ないで襲ってくるような魔物ではない。しかし、バイコーンならセレスとレンだったら勝つ可能性がある。


 しかもバイコーンは魔法耐性が非常に高い。

 強い魔法でもほとんどダメージが入らず、逆にあの二本の角に魔力が吸収されてしまってより手強くなってしまうのだ。


「リューク、大丈夫? バイコーンはとても強い」


 冒険者のランクが人族の大陸と精霊族の大陸では、精霊族の方が一ランク上になる。

 同じように、魔物のランクも精霊族の方がランクは上。つまり、人族の大陸ではバイコーンはS級の魔物となる。


 おそらく人族のS級冒険者アメリアも相性が悪い相手なので、バイコーンには敵わないだろう。


「まあ大丈夫だな。余裕そうだ」


 リュークがそう言うと、バイコーンが一斉に襲いかかってきた。


 バイコーンは言葉が通じないが頭は良い。

 そしてプライドが高く、獲物を一斉に襲うという弱い生物が知恵を働かせてやらないといけないような、ズルいことを普通はしない。


 それなのに、そんなプライドを捨ててリュークに一斉に襲いかかってきたということは――それだけリュークが脅威だということを理解しているからだ。


 一体でこの者を倒すのは不可能。五体でも足りない。


 しかし、死ぬとわかっても逃げはしない。

 それはバイコーンが最後まで捨てられない、捨ててはいけない意地。

 それを捨ててまで生きても意味はないのだ。


「じゃあやるか。レン、よく見といてくれ――俺の、剣技を」


 木刀を抜き、構える。


 五体のバイコーンと真正面からぶつかりあい、戦う。


「リューク、さすがだぜ……」

「――すごい」


 それから数分間――リュークによる剣の美に、レンとセレスは魅入ることになった。

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