第105話 ラッキースケベ

 リュークはレンと名乗るその子に家の中に通されることになった。


「いいのか?」

「うん……いいよ。悪い人じゃないと思うし……。それに、師匠の刀持ってるから……」


 家の中に入るとそこは普通の家だった。

 外から見ても人族の大陸の家と同じような雰囲気だったが、中に入ると更にそんな気がしてくると思ったリュークだった。


「ちょっと待ってて……夕飯は、うちで食べる?」

「あー……どうだろう。知り合いがいるんだが、そいつと合流しないとわからないな」

「……その人は、エルフ? それともドワーフ?」

「ドワーフだな」

「そう、なんだ……」


 リュークの知り合いがドワーフだと聞いて、あからさまに表情が暗くなるレンだったが、すぐに普通の表情に戻りキッチンの方へと行って買い物袋を置いてくる。


「ドワーフだと何か不都合があるのか?」

「そんなこと、ない……エルフでもドワーフでも同じ」

「どういうことだ?」


 リュークがそう問いかけても、レンは聞こえているはずなのに無視して買い物袋から食材など買ってきたものを取り出して整理しだす。


 二人の間に気まずい雰囲気が流れてきたところで――レンのお腹から「ぐぅ〜」という可愛らしい音が二人の耳に入る。


 リュークがレンの方を見ると、レンはお腹を抑えながら頰を赤く染めていた。


「……とりあえず、二人分作るね」

「ははは、じゃあ頼むわ」


 リュークが軽く笑いながら応えると、頰を膨らませながらリュークの方を睨むレン。

 男なのになぜか可愛く見える仕草だな、と思いながらレンが料理をしてるところを眺めるリュークだった。


 数分後、リュークはレンの後ろ姿を眺めていたが、あることに気づいて立ち上がる。


「あ、そうだ。セレスと合流しないといけなかったんだ」


 それを思い出すリュークだったが、今からどこに行けばいいか迷う。


「さっきの刀屋に行けば会えるか?」

「出かけるの……?」

「ああ、そいつと合流したら一緒に来ていいか?」

「……うん、いいよ」


 一瞬、先程と同じように暗い表情になったレンだったが、すぐにそれを隠して返事をする。


「無理だったら大丈夫だぞ?」

「ううん……大丈夫。三人分の夕飯、作るね」


 レンは少し笑顔を作って応える。

 リュークはなぜそこまでレンが不安するようなことなのかわからないが、許可が出たのでセレスを呼ぶことにする。


「ありがとな。じゃあ行ってくる」

「うん……いってらっしゃい」


 レンはキッチンからリュークに手を振る。リュークも手を振りながら家から出る。


 リュークが先程の道を通って刀専門店に行こうとしたが、その道の途中で知ってる顔を見つける。


「あれ、セレス?」

「おっ! リューク! ようやく見つけたぞ!」


 レンの家と刀専門店の最短距離の道をリュークを探しながら歩いていたセレスは、リュークに声を掛けられてすぐさま駆け寄ってくる。


「どこ行ってたんだ? 刀専門店に行ったらお前がいなくて、人族のやつならここに行ったってグラのジジイから地図を渡されたが……」

「ああ、その地図のところに用事があって行ってたんだ」


 リュークはセレスと別れた後に起きたことを順番に話していく。


「なるほど……グラのジジイに言われた家まで行って、それで忘れてたオレを迎えに来たってことか」

「……まあ悪い言い方するとそうだな」


 自分のことを放ったらかしにして行ったことを根に持っているらしく、ジト目でリュークを睨むセレス。

 リュークは何も言い返せずに睨まれていたが、気まずいので目線を外す。


「……その家のやつは、女なのか?」

「いや、男だぞ」


 多分、という言葉が喉まで出てきたがなんとか引っ込めたリューク。

 それを聞いてセレスは少しホッとする。

 自分が家の掃除――全く終わらなかったが、そんなことをしている間にリュークが他の女と出会っていたらと思うと、モヤモヤしてしまう。

 そして家の掃除が終わらなかったので、今日はその男の家で夕飯を食べてもらうのが都合が良いと考えていた。


「しょうがない……じゃあそいつの家で飯食うか」

「ああ、そうしよう」


 ようやくセレスの機嫌も直ったと思ったリュークは、セレスをレンの家まで案内する。

 レンの家まで着いて、家の前に立った時にセレスが少し苦い顔をした。


「まさか……ここだったとはな」

「知ってるのか?」

「ああ……鍛治師の中では有名だ。良くも悪くもな」


 セレスがそう言うのでなぜか聞こうとした時に、家のドアが開いてレンが出てくる。


「おかえりなさい、リューク」

「ああ、ただいまレン」

「遅かったね……夕飯、できてるよ」

「おっ、ありがとな。レンの飯は匂いだけでも美味かったから楽しみだ」


 その夫婦のようなやり取りを目の前で繰り広げられたセレスは不機嫌になる――ことはなく、逆に少し興奮していた。

 セレスの目からもレンが女か男かわからないが、リュークが言うからには男なのだろう。

 エルフなので顔立ちは整っていて中性的な美少年。

 その美少年が同じく美少年の自分が好きなリュークと夫婦のような会話をしている光景を見ると、今まで感じたことない興奮が湧き上がってくる。


(なんだこれは……! この光景を見てると癒されるような興奮するような……! なんて言えばいい!?)


 人族のある文献では、セレスが感じている感情を同じように抱く女性のことを、腐った女性。

 通称――『腐女子』と、そう呼ばれている。

 意味としては男性同士の恋愛を好む女性のことを言うらしい。


 そんなセレスの心の中なんてつゆ知らず、リュークは中に入ってテーブルの席に座る。

 セレスはやっと興奮が収まって、家の中に入るとレンがセレスの方を少しビクビクしながら見ていた。


「初めまして……レン、です」

「オレはセレスティーナだ。ドワーフの鍛治師だが……噂のことは興味ないし、知らんから安心しろ」

「……うん、ありがと」


 不安げに挨拶してきたレンに、セレスが安心するように声を掛けると、レンはセレスに向かって微笑む。

 その微笑みを見てセレスはドキッとしたが、リュークほどではないと思って表情には出さなかった。


 その後、すぐにレンが作った料理を三人で食べた。

 レンの料理はとても美味しく、リュークが褒めるとレンも嬉しそうに顔を赤く染めて礼を言う。

 その光景を『おかず』にしながら料理を食べるセレスだった。


 そして食べ終わった後、レンは夕飯を食べた後すぐにお風呂に入るそうで、準備をして入ろうとしていた。


「リューク……一緒に、入る?」

「ん? ああ、そうだな。入るか」

「――ッ!?」


 セレスは二つの意味で美味しかった夕飯を食べてゆっくりしていたが、その言葉を聞いて息を飲む。

 驚いて動けなくなってるセレスに気づかず、二人はお風呂場の方へと行ってしまう。


 二人がいなくなったことに気づいたセレスは、興奮を抑えるために深呼吸してから自分がこれからどうするか考える。


(これは覗きに……いや、ダメだ! そんなことしてリュークに嫌われでもしたら!)


 そんなことを考えるセレスだが――足はなぜか勝手に動き、お風呂場の前まで行ってしまう。


 ドア越しから二人の会話が少し聞こえて、服を脱いでいるので衣擦れの音も聞こえてくる。


 ドアの前でも鼻血が出そうなほど興奮するのに、ドアを開けたら自分は死ぬと思ったセレスはドアを開けられなかった。


 しかし――リュークの驚いた声が聞こえた瞬間に、その考えが吹き飛んだ。


「あれ? レンって――女だったの?」


 その声を聞いた瞬間、一瞬思考が停止したセレス。


「うん……そう、だよ?」

「いや、ごめん。男だと思ってた……お風呂一緒に入るのやめるか?」

「なんで……?」

「嫌じゃないか? 男と一緒に入るの」

「リュークだったら……大丈夫」


 なぜそんなにリュークの信頼が高いのかわからないが、レンはそう断然する。


「そうか? じゃあいいか」

「――よくねえだろ!!」


 ドアの外で思考が止まっていたセレスはその言葉を聞いて、勢いよくドアを開けてしまった。


 ハッとして気づいた時には遅かった。


 セレスの目に映ったのは、最初はレンの裸だった。

 真っ白な肌をタオルで前の方だけ隠していて、そのタオルは胸のあたりで少し膨らんでいた。

 その膨らみは男性にはないもので、女性ということがわかる。

 レンの方は同じ女性なので、セレスは裸を見ても何も思わなかった。


 そして――その隣にいるリューク。

 上半身は海の時に見た、いつ見ても引き締まっていてセレスの好みピッタリの身体である。

 しかし問題なのは、『下』。

 海の時も見てないその下半身を見たセレスは――。


「――ぶはっ!!」


 鼻血を出して倒れ、気絶した。

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