第41話 二日目鍛錬


 その後、アメリアのテレシアとエイミーへの治癒魔法が終わり、二人はほとんど全快した。

 魔力はまだ戻ってないが、二人は思いっきり魔力を使った訳ではなく、魔力に関してはサラの方が枯渇状態であった。


 休憩を入れるために、アンとアナが作ってきてくれた弁当を広げ、七人で食べることにした。


「そういえばまだお昼だったね〜。朝からいろんなことがあったからすっかり忘れてたよ〜」


 地面に座ってサンドイッチを片手にエイミーが言う。

皆んなも同じ様に座ってサンドイッチやらおにぎりを食べている。


「そうですね。リューク様とルーカス様の決闘があり、先程の私達とリューク様との決闘」

「特にお兄ちゃんが一番濃い一日を過ごしてるけど……いちばん疲れてなさそうなのはなんで?」

「私とアナも走って疲れてて、テレシアさんも治癒魔法で疲れてるのに……」

「まあこのくらいの戦いとかは慣れてるからな」

「S級冒険者と、A級冒険者三人と戦うのに慣れてるとは……。リュークよ、お前は一体どういう人生を送ってきたのだ」

「んー、普通の人生?」

「普通ではないってことは断言出来るわね」


「そういえばさ、テレシアって氷の魔法使ってたよな?」

「はい、使いましたね」

「テレシアが使えるのに、アメリアはなんで使わなかったんだ? テレシアが教えてやればよかったのに」

「むっ……そういえばそうだな。テレシアよ、なぜ私に教えなかった?」

「申し訳ございませんアメリア様……まさか水魔法を得意とするアメリア様が、氷での攻撃を知らないとはつゆも思わず……」

「遠回しに、『そんな馬鹿とは思わなかった』って言ってるわよね」

「アメリア様なりの『こだわり』だと思っていましたが……まさか本当に知らないとは夢にも思いませんでした。私のミスです」

「テレシアさんも、そこまで嫌味言うの?」

「……ぐすっ」

「アメリア泣いちゃったよ!?」

「ああ、泣くアメリア様もなんて庇護欲を駆き立てる……とても可愛いです……」

「ん〜、このサンドイッチも美味しい〜」



 こうして昼休憩は終わり、数十分後。


「よし! じゃあ鍛錬始めるか!」


 リューク達は昨日に続き魔法の練習を始める。


「アン、アナ。今日はアメリアに教えてもらってくれ」

「は? わ、私が教えるのか!?」

「アメリア、よろしくね」

「アメリア……いや、お師匠様! よろしくお願いしまーす!」

「お、お師匠様……? 意外と悪くない……うむ! アン、アナよ! 私が教えてやろう!」

「アメリアってやっぱりチョロいよな」


 先程まで泣いてたのが嘘の様に、アメリアは調子付いて胸を張って答える。


「よし、じゃあ俺はお前らに教えるか」

「よろしくお願いします」

「リューク君よろしくね〜」

「……よろしく」


 リュークはテレシア達に向かい合う。

テレシア達がリュークに頼み、先程の戦いでリュークが気付いたことなどを教えて欲しいとのことだった。


「まずはテレシアからいこうか」

「はい」

「テレシアは全属性を使えるんだよな?」

「はい、使えます」

「うん、だけど全部使えるからといって全部使えば強いというわけではない。全部使ってたら器用貧乏になりかねない」

「なるほど、全部に手を出してたら中途半端になると……」

「そうだ、だからさっき見た感じ風魔法が一番だったから相性の良い火魔法を攻撃主体にすれば良いと思うぞ」

「わかりました、ありがとうございます」

「うん、あと三人全員に言えることだが、やっぱり魔力操作が拙つたない。三人ともアメリアには遠く及ばない。だからテレシアもあっちにいって魔力操作を練習してくれ」


 リュークはアメリアがアン達に教えてるところを指差し、テレシアはもう一度リュークに礼を言うとそっちに向かった。


「さて、じゃあ次はエイミーな」

「は〜い、よろしくね〜」

「エイミーは火属性と風属性、そしてユニーク魔法の肉体強化魔法……見事に攻撃特化だな」

「魔物殺すの楽しいしね〜」


 案外エグい感性を持っているエイミー。


「そ、そうか……。エイミーの肉体強化、あれはルーカスの動きに負けず劣らずだったぞ。だけどルーカスより簡単に俺が捌さばけた理由は技術の無さだな。力任せに振りすぎだ」

「ん〜、魔物相手に技術必要だと思ったことないからあんまり学んでこなかったけど、やっぱり上に行くには必須か〜」

「ああ、あとスピード重視したのかわからんが、短剣以外も使った方がいいな。それか短剣を両手に持って二刀流。扱いが難しくなるが手数は倍になる」

「お〜、二刀流カッコいいね〜! それにしようかな〜」

「じゃあ後で短剣二本の扱い方教えるから。今日はエイミーに付きっ切りになりそうだな」


 リュークの言葉にサラがムッとした表情になる。

その表情を見逃さないエイミー。


「あれ〜、サラ嫉妬〜? 可愛いな〜」

「な、なんで私が嫉妬なんか……っ!」

「大丈夫だよ〜、リューク君奪ったりしないから〜」

「そ、そんなやついらないですから!」

「待て、まず俺は誰のものでもないんだが」


 なぜか顔が紅くなってるサラを不思議がりながらリュークは続ける。


「じゃあ次はサラ。お前はユニーク魔法の雷魔法。これ以上ない攻撃魔法だな」

「そうね、私もそう思うわ」

「雷魔法の一番の強みは、ほとんど防ぎようのない攻撃ってところだな。硬い鱗なんて全く関係なく相手に攻撃が通る」

「それをあんたは防いだけどね……」

「私も驚いたな〜。リューク君に雷魔法の攻撃が決まった時倒した、もしくは殺したって思ったのに」

「殺しちゃダメだろ。まあそれは俺が防ぎ方を知ってたからで、普通の人や魔物はなす術すべなく喰らうと思うぞ」

「そうね……それで、私は何をすれば強くなれるのかしら?」

「んー……魔力操作と魔力量を増やす練習としか言えないな。純粋に魔法を強くするならその二つに限る」

「そう……そうよね。じゃあ私もアメリア様達のところに……」

「あとは使い方も学ばないとな。俺に対しての攻撃の時、辺り一面を雷で埋め尽くすほどの大きさだったが、あれは言ってしまえば無意味だ」

「は? なんでよ。あんだけ大きければ逃げられないじゃない」

「俺には『時空魔法』があったからな。逃げようと思えば一瞬でお前らの後ろに跳べたぞ」

「あっ……」

「まあそれは俺に限る……いや、アメリアも出来るな。相手によるが、相手に合わせて攻撃手段も変えないとな」

「……わかったわ、考えてみる。ありがと」

「おう、じゃあ頑張って練習してこい」


 サラは顔を紅く染めながらリュークに礼を言うと早足でアメリア達の方に行った。


「う〜ん、可愛い妹が離れていく感じがするな〜。寂しいような嬉しいような〜」

「どういう意味だ?」

「なんでもないよ〜。じゃあ二刀流教えて〜」

「ああ、とりあえず短剣と……これでいいか」


 リュークは短剣位の長さの木の棒を見つける。

 それはコボルト達が持っていたもので、サラ達が倒した時に残ったものだった。

それを拾いエイミーに渡す。


「じゃあどうやって教えてくれるの〜」

「んー、魔法は言葉で教えられるのだが体術は感じ取れとしか言えないな……俺もそうやってきたから」


 剣神ヴァリーとの稽古は、ほとんど撃ち合いであった。

ヴァリーが教えるのが下手ということもあったが、リュークもその方が技術を奪えて早く成長した。


「だから――とりあえず撃ちこんでこい」

「へ? 二刀流のやり方わからないよ〜?」

「撃ち合って学んでいけ。俺も間違ってるところを指摘したり、隙を見つけたら攻撃するから」

「わかった〜、お手柔らかにね〜」

「あ、肉体強化魔法使えよ。そうしないと練習になんねえだろ?」

「いいの〜? 手加減できないよ〜?」

「大丈夫だ、今回は……俺も手加減しないからな」


 ――先程の戦いは手加減したと言うリュークは証明するかのように。


 三十分後、ボコボコにされたエイミーが地面に寝っ転がっていた。

 しかし、それは地獄の始まりでしかなく。

すぐに治癒魔法で回復され、またボコられ──その鍛錬という名の地獄は三時間にも及んだ。



「お、お姉様……あっち……」

「サラ、見ては駄目です。エイミーは……尊い犠牲になったのです」

「まだ死んではないと思うけれど」

「お姉ちゃん、『まだ』って言ってる時点で危ないと思うよ」

「おいお前達! 集中しろ! お師匠様の言うことが聞けないと言うのか!!」

「アナのせいでアメリアもうざ……変になっちゃったし」

「私のせい!? お姉ちゃんひどいよ!」

「今私、うざいって言われなかったか?」


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