第42話 持つ者と持たざる者


 数時間後――日は西に沈み、辺りが紅く染まる。


 草原には六人の人間が立っていた。


 六人。

アン、アナ、アメリア、テレシア、サラ、リューク。


 その六人は……倒れている一人の周りに立っていた。


「エイミー……お姉様っ!」

「なんて無残な……っ!」

「エイミー……お前の犠牲は忘れないぞ」

「いやだから殺してねえよ?」

「今日の犠牲は私達じゃなくてエイミーだったね」

「そうね、良かったわ」

「お前らはもうちょっと心配してもいいんじゃないか?」

「これをしたお兄ちゃんが言うの?」


 エイミーは、無傷であった。

 無傷であるのだが――白く燃え尽きていた。


「人って……こんな白くなれるんだね。初めて知ったよ」

「うん、なんか……紅く染まった草原と、白く染まったエイミー。良い感じだぞ」

「リュークそれは何を目的としたフォローなのかしら?」



 白かったエイミーも色が戻ってきたのか、酷く怠だるそうに身体を起こす。


「あれ〜……うち、何してたっけ〜? 二刀流教わるってなってから……何も思い出せないんだけど〜」

「お姉様、思い出さなくていいんです。忘れましょう」

「そうですエイミー、あなたはこの数時間、ここで眠っていたのです」

「それは無理があると思うけど〜」


 エイミーはゆっくり立ち上がり、寝っ転がった自分に付いた草などを払う。


「ん〜、なんか身体は軽いのに疲れてる気がするな〜」


 治癒魔法では体力までの回復は出来ないので、何時間も特訓(地獄)をしていたら疲れるのは当然である。


「じゃあエイミーも起きたことだし、帰るとするか」

「そうだね……あっ」

「どうしたの?」

「……お兄ちゃん、また走って帰るの……?」

「もちろん走るぞ」

「忘れていた……いえ、思い出すのが嫌で記憶の彼方に追いやっていただけね……」


 恒例のごとく、アンとアナは絶望した顔で虚空を眺める。


「あ、エイミーは俺が背負ってくから」

「え、ほんとに〜?」

「な!? あんたなんでエイミーお姉様を!?」

「え、だってエイミー走れないだろ?」

「え〜とっ……」


 エイミーは走ろうと足を動かすが、走り出す前に歩くことすらフラついてしまう。


「うん、無理かな〜」

「だから俺の背中に乗ってくれ」

「こういう時はお姫様抱っこじゃないのかな〜?」

「お、お姉様!? そんなうらやま……けしからんことはあってはなりませんことよ!」

「サラ、何を言ってるのか分かりませんよ」

「ふむ、とりあえずエイミーはリュークに背負ってもらえ」

「は〜い。リューク君よろしくね〜」


 リュークは腰を落としエイミーが乗りやすいようにする。

そしてエイミーが背中に乗ると立ち上がり、持ちやすいように体勢を立て直す。


「んっ! リューク君、どこ触ってるのかな〜?」

「え? 太ももあたりだが……もしかして嫌か?」

「……まあいいかな〜、あんま分かってないみたいだし」


 エイミーはリュークの首に腕を回し密着する。

その際、豊満な胸がリュークの背中に潰され形を変えるのをアン、アナ、サラは目撃する。


「……まだ十二歳だからしょうがないわよね」

「私とお姉ちゃんはね……」

「ちょっとアナ! 今あたしの方見ながら言ったでしょ! 私もまだ十六歳よ!」

「一応私、サラさんに勝ってると自負してるわ」

「十二歳のお姉ちゃんに負けてるサラ……哀れだね」

「酷ひど過ぎない!? 私だって未来あるわよ!」


 その会話を聞いて察したテレシアが会話に入ってくる。


「私とエイミーは、十六歳の時には今くらいありましたが」

「お姉様!? う、裏切りですか!?」

「ちなみにサラがアメリア様に憧れたのは、同じ大きさくらいでも頑張ってる人がいると思ったため、ってわけではないのでそこは勘違いしないようにお願いします」

「いきなり飛び火が来たぞ!?」


 エイミーとほぼ同格のモノをお持ちのテレシアは、アメリアとサラを慈愛の目を持って見て。


「大丈夫です。サラが毎朝牛乳飲んでるのは、アメリア様の真似をしてるのはわかっていますから。そして結果は……お二人とも見ればわかるというように」

「……ぐすっ」

「……ぐすっ」

「今度はサラまで泣いちゃったよ!?」

「テレシアさん、意外と容赦無いわよね……」



「あいつらは何の話してるんだ?」

「持つ者と持たざる者の戦い、ってやつだよ〜」

「全く意味わからないが……」

「リューク君はわからくて大丈夫だよ〜」



 こうして七人は走って帰ることになった。

一人は走れない者を背負って。

一人は走れないので背負われて。

一人は淡々と走って。

二人は息を極限まで切らして。

二人は虚ろな目でただ足を動かして。


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