第20話 朝の鍛錬


 リュークは、早朝に目覚めていた。

昨日は早めに寝たので、いつもより早く、まだ日も昇っていない。


 そして、日課である朝の鍛錬をするために外に出る。

アンやアナ、メリーは二階でまだ寝てるようなので、起こさずに外に出た。


 リュークはまだ街には慣れてないのでとりあえず朝の街を少し散策して見る。


 街はまだ朝早いため、人は少ない。

しかし、露店の準備などをしている人がいる。

それを見ながら、リュークは街中を歩く。


 しばらく歩くと少し狭い路地に入ってきた。

 そこには、もう人は誰もいない。

そろそろ鍛錬を始めようと思うが、少し狭いのでもう少し広い場所を探すために歩き続ける。


 すると、歩き続けていると目の前に長い階段が現れる。

どこに続くのか気になったリュークは、その階段を上っていく。

 そして、頂上へと出る扉を開けると、そこは市壁の頂上であった。


 市壁の頂上からは街を一望出来た。

地平線から顔を出し始めた朝日に、街はオレンジ色に染まっていた。


「良いところ発見したな……」


 リュークはそう呟く。

そこはひらけた場所でもあり、鍛錬にもぴったりの場所であった。


「よし、始めるか!」


 リュークは異空間から木刀を取り出す。


 そして、眼を閉じる――


 リュークは真っ暗闇の世界に入り込んだ。

集中力を高め、精神を研ぎ澄ます。


 そしてしばらく経つと、その真っ暗闇の世界にリューク以外の人物が現れる。

その人物は、リュークの目の前に立ち、リュークと同じように右手に木刀を持っていた。


 両者は特に構えもしないで、両腕をダラリと下げて立っている。


 しかし、次の瞬間――二人は刀をぶつけあっていた。


 構えをしていなかったのではない。

二人は『無の構え』、剣術を使う者が辿り着く最強の構え。


 全身から力を抜き脱力し、攻撃する際に一気に加速する。

 ゼロから最高速まで。

その緩急に、常人なら到底反応出来ず、手も足も出ずに一瞬で勝負はつくであろう。


 しかし、リュークとその人物は何度も刀を打ち合い、戦い続ける。

二人は高速で動き、フェイントや囮の斬撃を繰り出し、隙を互いに窺う。

常人なら何が起こってるのか全く見えない速度で。

ただ、刀がぶつかり合う音が鳴り響く。


 そして――リュークの首元を相手の刀が切り裂いた。


 次の瞬間、真っ暗な闇が霧散し、リュークの意識は市壁の頂上に戻ってくる。


「はあ……はあ……やっぱ強いな父ちゃんは」


 リュークは額から流れる汗を腕で拭きながら、そう呟いた。


 先ほどリュークが眼を瞑り、真っ暗闇な世界で戦っていたのは父、ヴァリーであった。


 約九年間戦い続けたヴァリーの強さは、リュークが身に染みてわかっている。

なので、空想上での戦いが出来るのだ。


「やっぱり身体強化の魔法を使わないと厳しいな……次ぎは身体強化をして戦ってみようかな……」


 リュークがそう呟きながら、先程の戦いの反省を頭の中でしていると、すぐ近くに人の気配を感じる。

鍛錬に集中し過ぎて気づいていなかった。


 リュークは気配がする方を向くと、そこには知った顔がいた。


「お前は……!」


 そいつを見て、リュークは驚愕する。

何故なら本来ここにはいない。

いや、いてはいけない人物だったからだ。



「また会ったね。リューク……と呼んでいいのかい?」



 そこには『鮮血の盗賊団』のボス、アルンが壁にもたれかかって立っていた。

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