第21話 アルン


「何故お前はここに……? 連れていかれたんじゃないのか?」


 リューク達がギルドを去った後、ゴーガンや他の冒険者に監視されながら刑務所の方に連れていかれたはずだった。


「そうだね、刑務所に入れられる直前に最後の力を振り絞って逃げ出したのさ」


 リュークの問いに、アルンが答える。

 魔法が発動出来なくなる魔道具を着けられる直前にアルンが魔法を発動させ、盗賊達全員の拘束を解いた。


「へー……俺はそれをやられない為にお前の魔力を無くさせたんだが……なかなかしぶとい奴だな」

「褒め言葉として受け取っておくよ……しかし、そんな事まで考えて私と戦ってたなんて、あんたもあんただね、化け物みたいなやつだよ」

「褒め言葉として受け取るよ」


 二人ともニヤッと笑って会話が一瞬途切れる。


「ああ、言っとくがもう敵対しないから襲わないでくれよ。あんたの強さにはもうこりごりしてるんだ……何回やってもあんたに勝てる見込みが出てこないからね」

「まあ、もう依頼も受けてないしな。お前と戦う理由がない」

「それは良かったよ。それはそうと、あんたは剣も使えるんだったね。今見ていたが……いや、見ていたが見えなかったよ。速すぎて何をしてるかわからなかった」


 アルンは、リュークが目を瞑り自分の世界に入った直後に市壁の頂上に来た。

そして、リュークの鍛錬を見ていたがリュークの動きが速すぎて目が追いつかなかったのである。


「そうか? 普通に鍛錬していたけどな」

「あれが普通かい……やっぱり規格外だねあんた」

「それはそうと……他の盗賊達はどうした? 一緒に逃げたんじゃないのか?」


 リュークが疑問に思っていたことを聞くと、アルンは今まで目を合わせて話していたが、初めて目を逸らし俯く。


「……死んだよ、全員。冒険者達に武器も持たず、魔力も十分に回復していないのに立ち向かって……私一人を……逃がすために……」

「……」


 リュークは何も言わない。


 アルンは最後の力を振り絞り、盗賊達全員の拘束を解いた。

そして、もう歩くのがギリギリの状態になった。


「私を見捨てて逃げれば全員とは言わずとも、何人かは逃げれたはずなのに……まさか全員その場に残って死ぬとは思わなかったよ……」


 拘束が解けた瞬間、全員が逃げ出さずにアルンを守る為にその場にとどまった。

アルンは、息を切らしながら叫ぶ。


 ――逃げろっ!!私を置いていけっ!!


 今までアルンの指示を忠実に聞いていた部下達が、初めてアルンの命令に逆らった瞬間だった。


「……馬鹿な奴らだったよ。私がいないと作戦も立てられない、飯も食っていけないくらいの……」

「最期まで……馬鹿な奴らだったよ……」


 アルンの足下に雫が零れ落ち、地面濡らす。


「……そうか」


 リュークも何も言わず、アルンを見つめている。


「……それで私だけ逃げて、さっきまで市壁の裏で隠れて休んでいたのさ。そしたらあんたが頂上に向かうのが見えたから来たってことさ」


 アルンは目を指で拭うような仕草をしてから、もう一度リュークと目を合わせて言った。


「……そうだったのか」


「私達は、殺されても何も言えないようなことをしてきたよ。だから仲間を殺されても何も言えない……」

「……」

「復讐しに行こうかと思ったけど、あいつらが命を懸けて守ってくれたんだ……そんな私だけじゃないこの命を、無駄なことで消費したくないからね、私はこの国から出るよ」

「……そうか」

「そこまで有名にはなってないし、顔も広まった訳じゃないから国を出れば見つからずに済むと思うしね」

「……そしたら、他の国で冒険者でもやればいいんじゃないか?お前の力ならいいところまで行けると思うがな」

「ふふふ、それも良いかもね……じゃ、私は行くよ」


 アルンは、もたれかかっていた壁から身体を離し、リュークに背を向けて歩き出そうとする。


「ちょっと待った」

「……なんだい?」


 リュークがアルンを引き止める。

アルンは立ち止まり、振り返る。


「お前の髪の色は赤色で、少し目立つだろ。だから……」


 リュークはアルンに手の平を向ける。


 すると、アルンの髪がふわりと浮いたと思ったら、髪の毛先から色が変わっていき、そして綺麗な茶髪になった。


「俺と同じ色だがな。他に色の希望があれば変えることも出来るが?」

「……いや、これで良いよ。ありがとね」


 アルンは髪の毛先を弄って見ながらそう言って、リュークに笑いかける。


「おっ、初めて普通の笑顔見た気がするな。そういう可愛い顔も出来るのかよ」

「……私をあんたのハーレムに引き入れようってならそうはいかないよ」

「なんだよはーれむって?」

「はあ……まあいい。私は行くよ」


 アルンは今度こそ、振り返らずに歩いて行った。

歩いて行ったアルンの頬が紅く染まっていたのは、アルン自身も気づいてはいなかった。


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