第19話 依頼達成


「まさか、本当に今日中に終わらせるとは……」


 ヴェルノの冒険者ギルドマスターのゴーガンは、そう呟くように口にする。

 ゴーガンの目の前には『鮮血の盗賊団』、総勢十七名が土でできている檻の中に拘束されて入っていた。


 リューク達は、盗賊団を捕まえた後、土魔法で檻を作り盗賊達をその中に入れた。

そして、風魔法と重力魔法を利用して、檻を浮かし、ヴェルノの街まで連れてきていた。


「これで依頼達成だよな?」

「ああ、そうだな。じゃあリュークはちょっとこっちに来てくれ。話があるからな」


 ゴーガンがそう言って、リュークをギルドの奥に招き入れようとする。


「待ちな、そこの……リュークといったかい」


 リュークが行こうとした時、後ろから声がかけられた。

振り向くと、檻の中から盗賊団のボスのアルンが話しかけてきていた。


「あんたは私達を殺さずに捕まえた、それは何故だい?」

「……殺さずに捕まえられるからだ。俺にはその力があったからだ」

「……それもあったかもしれない、だけどあんたは人を殺したことがないだろう?」

「そうだな、それがどうした?」

「やっぱりね……」

「――おい、黙ってろ」


 アルンがリュークに話しかけてるのを、ゴーガンが威圧感を持って睨んで黙らせようとする。

しかし、今まで何度も死線を潜ってきたアルンは特に気にせずリュークに話しかける。


「一つ、私達を倒したあんたに敬意を持って忠告をしておくよ。……殺す奴と殺さない奴を見分けたほうがいい」


 アルンは真剣な表情をして、リュークを睨みながら喋る。


「私達はこの後死刑にされるからあんたが殺しても殺さなくてもどうせ死ぬ……だが、殺さなかった奴があんたの寝首をかきにいくよ」

「……忠告、感謝するよ」


 リュークはそう言って、ゴーガンに着いて行きギルド内に入っていった。



 ギルド内に入り、リュークはゴーガンの対面に座った。


「あの盗賊団のボスが言ってたことはあんま気にすんな、負け犬の遠吠えだ」


 ゴーガンがそうリュークに話しかける。


「いや、多分あれは……経験談だろうな」

「……なんだと?」


 リュークの言葉に、ゴーガンが聞き返す。


「……何故そう思った?」

「なんとなくだが……アルンの目は何かを物語っていたからな」

「……」

「まあ、盗賊落ちした経緯は知らないが……あいつにも何かあったんだろうな」


 リュークはソファに浅く腰掛け地面を見ながらそう言った。


「まあ、その話は終わりにしよう。お前はしっかり依頼を達成してくれたからな。とりあえず報酬とかについて話そうか」


 ゴーガンが気まずい雰囲気を霧散させるように少し明るめに話を切り出す。


「とりあえず、『鮮血の盗賊団』の捕獲報酬として、一千万ゴールドだな」

「へー、結構するんだな」

「まあそれだけあいつらには手を焼かされてたんだ」


 リュークは、お金の価値についてはすでにアンに教わってるからそれが大金であることは理解していた。


「それで、ギルドにお金を預けておいて必要な時に取り出すっていうことが出来るんだが……おっと、その前にこれを渡さないとな」


 ゴーガンはそう言って、懐からカードを出してリュークに渡す。


「なんだこれ?」

「ギルドカードというものだ。身分証にもなるし、そのカードを使えばさっき言ったギルドにお金を預けて必要な時に取り出すことが出来る。そのカードの右下くらいにギルドに預けているお金の総額が書いてある」


 リュークはカードの右下を見ると、確かに『一千万ゴールド』と書いてあった。


「あと、お金を引き出さなくても、色んな店でそのカードを使って買い物が出来るようになっている。その場合、その店の人にカードを渡せば、ギルドに預けているお金から買った金額を引いてくれて、支払い出来る」

「ほー、なかなか便利だな。じゃあ俺はこのカードで一千万ゴールドの買い物が出来るということか」

「そういうことだ。理解が早くて助かるぜ」


 ゴーガンの説明に、リュークは感心したようにカードを眺めていた。


「あと、そのカードの右上にランクが書いてある。お前はSS級と書いてあるはずだ」

「ああ、確かに」

「よし、まあ説明とかはこれで終わりだ。とりあえず初依頼達成おめでとうだな」

「ありがとう」


 リュークはそう言って立ち上がり、部屋を出る。

そして、ギルド内にまだいるアンとアナに近付く。


「お待たせアン、アナ」

「あ、終わった? 結構早かったわね」

「お兄ちゃんお疲れ様! あ、お兄ちゃんギルドカード貰ったんだ! 色は黒色……やっぱりSS級は違うね」


 リュークが持っていたギルドカードの色に、アナが食いついた。


「ん? カードの色に何か意味あるのか?」

「説明受けてないの? ギルドカードの色は、ランクによって違うのよ。G級とF級は白。E級からC級は青色。B級とA級は銀色。S級は金色よ」

「お兄ちゃんはそのどれでもない黒色だからね。SS級はダテじゃないね!」

「へー、一目見てランクがわかるのはわかりやすいな」


 三人が話していると、カウンターからメリーが出てきた。


「今日の仕事終わったわ」

「メリーお疲れ様、じゃあ帰りますか」

「お兄ちゃん、私達の家に来てよ! まだお礼とか出来てないし、泊まってよ!」

「そうね、リュークも泊まる場所ないでしょ?」

「そうですね、夕食は私達が腕をふるって作りますよ」

「そうだな、じゃあお言葉に甘えて」


 四人はそう言って、ギルドを出てアン達の家へと向かう。


 そして家に着いて、中に入る。

一階はリビングらしく、二階に寝室があるらしい。

寝室は二部屋あり、アンとアナが一部屋を使い、メリーが一部屋を使っているらしい。


 そして、リュークはリビングで椅子に座って料理が出来るのを待っていた。

アンとアナ、メリーが三人で家に帰るまでに買ってきた食材で料理を作っていた。


 三人が楽しそうに料理をしているのを、リュークは後ろから少し微笑みを浮かべて見ていた。


「お兄ちゃん! 料理出来たよ!」

「お、そうか。皿運ぼうか?」

「リュークは座ってていいわよ」

「はりきっていっぱい作ってしまったので、いっぱい食べてくださいね」

「おー……美味そうだな」


 三人はお皿をテーブルに運んで、席に着く。

リュークの隣にメリー、向かいにアン、斜め前にアナが座った。

三人が席に着くと、アナがリュークに話しかける。


「お兄ちゃん! これ私が作ったんだよ! 食べて食べて!」

「お、そうなのか?」


 リュークはアナが作ったというスープを食べた。


「うん! 美味いじゃないか!」

「えへへ、良かった!」

「リューク、これ私が作ったのよ?」

「リュークさん! これ私が作ったんです! 食べてください!」

「あ、ああ……食べるから、ちょっと落ち着こうな?」


 こうして四人は楽しく食卓を囲んだ。



 そして、食事が終わりアンとアナ、メリー達は皿を片付け、お風呂に入った。

三人が出た後、リュークも入る。


 リュークは風呂に入り、一息つく。


 ――そういえば、まだ父ちゃんと母ちゃんから離れて二日しか経ってないんだよな……。


 今日は色んなことがあったので、リュークはヴァリーやフローラのことを思い出したが、別れてから二日しか経ってないことを思い出す。


 今日はアンとアナを救い、冒険者ギルドに登録し、メリーとも会い、盗賊団を捕まえた。


 ――これからどうなるかな……とりあえず、落ち着くまでこの街にいようかな。


 そう思いながら、風呂を出て身体をふいてリビングに戻る。


 リビングに戻ると、アン達は何かを言い争いをしていた。


「どうしたんだ?」

「あ、お兄ちゃん! お兄ちゃんは誰と寝たい!?」

「は?」


 いきなりアナにそう聞かれ固まるリュークだが、慌ててアンが誤解を解こうとする。


「ち、違うのよリューク。ほら、寝室が二部屋しかないじゃない? だから、誰がリュークと一緒の部屋か決めていたの」

「二人はいつも一緒の部屋だから、私の部屋にリュークさんが寝ればいいいと言ってるのですが……」

「メリーばっかずるいよ! 私もお兄ちゃんと同じ部屋がいい!」

「そうね、今日は気分を変えていつも違くていいんじゃない? ほら、アナ。今日はアナもメリーと一緒に寝たいでしょ?」

「私お兄ちゃんと一緒がいいって言ったよねお姉ちゃん!?」


「なんかデジャブだな……」


 三人の言い争いにリュークが冷静にツッコミをいれていた。


「お兄ちゃんは誰と一緒がいい?」

「いや、俺はリビングでいいよ」

「え、いやリビングにはソファもベットもないですし……」

「いや、大丈夫」


 リュークはそう言うと、リビングの少し空いてるところに行く。

すると、いきなりリュークの目の前にベットが現れる。


 リュークが、異空間にしまっていたベットを取り出したのだ。


「俺はここで寝るよ、だから三人はいつも通りに寝てくれ」

「お兄ちゃん……」

「リューク……」

「リュークさん……」

「……え、何?」


 三人はなんとも言えない顔をして、リュークを見ていた。


「お兄ちゃんがそういう人だってわかったよ」

「ガード固いわね」

「なんか、リュークさんのこの行動にデジャブを感じます」

「え、俺何かした?」


 リュークは訳も分からず、首を傾けていた。

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