第45話 直接依頼


「はぁ……はぁ……」

「はぁ……ふぅ……疲れた」

「よし、お疲れ様。じゃあギルドに行くか」


 街の外壁、門の前で三人は走り終わり一息ついていた。


 リュークはほとんど息切れも無くいつも通りの余裕さであった。

アナも息切れはしているが、早くも呼吸を整えて流れ出る汗を拭いている。

アンはまだ息が上がり、膝に手を置いた状態でいた。


 こうして見ると、アンが一番体力がないのは明らかだ。

 しかし、一ヶ月前は森から街まで走りきれずに途中で歩くより遅くなり、死にそうになってたのを見ると、今は倒れもせずに俯くだけで済んでるアンはやはり体力もついてきているのだろう。


 少ししてアンも顔を上げ呼吸を整え、三人は門を抜けて街に入る。


 商店街を歩いていると、リュークに声を掛ける人達が大勢いた。


「おおリューク! 今日も鍛錬とやらか! 頑張ってんな!」

「俺は教えてるだけだがな」

「はっはっは! 相変わらず謙虚な奴だ! またここで肉やら野菜買ってくれよ!」

「ああ、その時はどこまでも値切ってやるからな」

「そこも謙虚でいろよ馬鹿野郎が! はっはっは!」


「あら、リュークちゃん。こんばんは、の時間ね。いつも朝手伝ってくれてありがとねぇ」

「おばちゃんこんばんは。何回も聞いてるよその言葉。好きでやってるから大丈夫だよ」

「ふふふ、いくら言っても足りないくらいだよ」


「あ、リューク君。今帰り? お帰りなさい」

「おう、ただいま。薬は売れてるか?」

「うん、君のお陰でね。リューク君には足を向けて寝られないよ」

「大げさだな。それに俺だけじゃないぞ。他の冒険者とか、特にアンとアナも魔物を狩ってるからな」

「うん、そうだね。ありがとね、アンちゃん、アナちゃん」

「……礼には及びませんよ」

「……そうだね、私達もそれでお金稼いでるし」

「うふふ、三人とも可愛いなー」


 この街に来てリュークは一ヶ月、街の人達と交流を持つようになった。


 市場で店を持つおっさんとは、アン達と買い物してる時に知り合いになった。アンに教えてもらった『値切り』をリュークは既にアンとアナ以上に上手くなっており、おっさんを困らせている。


 商人のおばさんとは、朝の鍛錬の帰りに大きな荷物を運んでいるところを助け、それから毎朝荷物を運ぶ手伝いをしている。リュークならどんな重い荷物も異空間の中に入れて運べるので、おばさんは大助かりであった。


 薬屋のお姉さんは、リュークが狩ってきた魔物の肝きもなどをリュークから安く買い取っている。相場ならもっと高い薬の材料をリュークは半分以下の値段で売ってくれるので、お姉さんも感謝してるのだ。


 しかし、いつもリュークに色目を使ってると思い込んでるアンとアナからお姉さんは嫌われている。

お姉さんはリュークも含め三人を弟や妹の様に見ているので、そんなアンとアナの態度も可愛く思えるのである。


 そんなことは何もわからないリュークは、ただお姉さんと話すとアンとアナが不機嫌になることから「二人は何でこの人が嫌いなんだろう?」といつも思っていた。


 そして商店街を抜け、三人はギルドの中に入る。


「あ、リュークさん、アナ、アン。お帰りなさい」

「おう、ただいま」

「ただいま」

「ただいまメリー!」


 カウンターで仕事をしているメリーのところに向かい依頼達成の報告をする。


「はい、じゃあ二人は……とうとう口座を開設出来るようになったね!」

「わーい! やっとだー!」

「ここまで長かったような短かったような……まあ期間としては短いかしらね」


 ギルドにお金を預ける事が出来るのはD級以上、二十万以上を預けれる人に限られている。

二人は一ヶ月毎日討伐依頼をこなし続けギルドにお金を預けれるようになったのだった。

 そして、冒険者にとって口座を開設する事が一人前になった証拠である。


「頑張ったねアン、アナ」

「ありがとメリー。それにリュークも。貴方がいなければ私とアナはこんなに早く一人前にはなれなかったわ」

「そうだね! ありがとうお兄ちゃん!」

「俺は手伝っただけだ、二人が頑張ったからこその結果だろ?」


 こうして四人は喜びを分かち合い、今日は家でアンとアナの奢りで盛大に祝うことになったのだった。



「久しぶりだな、リューク達よ」


 突然背後から声が掛かり振り向くと、そこにはアメリアがいた。その後ろにはテレシア、エイミー、サラの姿も見られた。


「おう、久しぶりだな」

「あ、アメリア! 帰ってきたんだ!」

「テレシア達も久しぶりね」

「ご無沙汰しております、アメリア様、テレシア様、エイミー様、サラ様」

「ええ、皆様お元気そうで何よりです」

「やっほ〜、おひさ〜」

「皆んなしばらくぶりね」


「アメリア達は、『クラン』の集まりは終わったんだな。どういう要件だったんだ?」


 アメリア達は十日ほど前に『ヴェルノ』の街を離れ、隣街の『チェスター』にてクランの幹部だけの会議があるということで向かった。


「いや、それがな……」


 アメリアは目を逸らして何か言いづらそうにする。


「どうしたんだ?」

「私達、アメリア様を含めた四人は『黒のクラン』を脱退しました」


 代わりにテレシアがリュークの質問に淡々と答えた。


「ええっ!? アメリア達クランやめちゃったの!?」

「一体どうして……? 『黒のクラン』はトップスリーに入るほどの実力があったのでしょ?」

「ああ、そうなんだが……めんどくさくなってな」

「めんどくさいとはいったい……?」


 アメリアの答えにメリーが疑問に思い問いかける。

その問いに答えたのはサラであった。


「だってあいつら! 幹部がアメリア様だけ女だからといって何の要件もないのに会議なんて名ばかりのセクハラの場を開いてるのよ!!」

「あのおっぱいの大きい女冒険者をクランに誘いたい〜、とか〜。あの胸の大きい女冒険者を誘いたい〜、とかね〜」

「全部胸ばっかじゃない!!」


 サラが会議のことを思い出して腹を立てて受付カウンターを叩く。

何かサラの私怨しえんを抱いてるようにも思えたが、皆んなそっとしておいたのだが――、


「それで私達……二人にセクハラを仕掛けてきて、アメリア様とサラが怒って四人ともクランを抜けたわけです」

「二人にってのがこの話の肝きもだよね〜」


 ――そっとしとかない二人がいた。

エイミーが笑ってそう言うが、『持たざる者』の二人は思い出しているのか顔が怒りやら憎しみやらで歪んでいた。


「……大変だったのね、アメリア、サラさん」

「……いつか良いことあるよ!」

「あ、あはは……」


 まだ十二歳でアメリアとサラより既に『持っている』アン。同じく十二歳でまだ持ってないが未来はあるアナ。テレシアとエイミー程ではないが凹凸おうとつがしっかりとあるメリー。


「なあサラ……そんなに『持っていない』私達って女として価値はないのか?」

「……わかりませんアメリア様」


 一ヶ月前と同じように虚空を見つめる二人が出来上がった。


 この間、リュークは全く話についていけてなかった。



「おい、リューク。ちょっといいか?」


 八人で話していると、受付カウンター内から出てきたゴーガンに話しかけられる。


「どうした? なんか用か?」

「ああ、お前に直接依頼が入った」

「直接依頼?」


 名のある冒険者を指名して依頼をすることが直接依頼である。


 名誉ある冒険者、強い冒険者の証でもある直接依頼は総じて――危険性の高い依頼であることが多い。


「誰から?」


 リュークは直接依頼をされる人物に心当たりがない。


 リュークの問いかけにゴーガンは答える。




「サザンカ王国の宰相からだ」


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