第143話 玉座へ
『余はそこにはいない。玉座にいる。お前らを、ここへ招待してやろう』
その言葉が聞こえて、すぐにその者の気配は消えてしまった。
いくら周囲の気配を探しても、見つからない。
「……リューク」
「……ダメだ、見つからない」
剣神とまで呼ばれた、世界最強の剣士の気配察知。
半径二キロを魔力探知できる、魔法の力を持ってしても。
今話しかけてきた者の影すら捉えられなかった。
「相手は玉座にいる、って言ってたな。昨日貴族の区域に行ったが、あそこはどれくらい離れてた?」
「俺の『次元跳躍ワープ』で、五回は跳んだ」
二キロを五回ほど跳ぶ。
つまり、十キロ以上離れたところに宮殿、玉座はある。
相手の言うことが本当だとしたら、十キロ以上も離れた距離でもこちら側を覗くことができて、頭の中に喋りかけることができるということだ。
「そんな魔法聞いたことねえな。フローラだったら出来るかもしれないが」
「魔力探知を十キロ以上広げることは母ちゃんだったら出来るかもしれないけど、直接脳内に話しかけることはできないと思うよ」
目で見る程ではないが、魔力探知を使えばこちらを覗くことはできる。
魔帝フローラだったらこのぐらい距離があっても覗けるだろう。
だが、一番の問題は……。
「俺もリュークも、覗かれていることに気づかなかったってことだ」
たとえ戦闘中だとしても、魔法で覗かれているなら二人なら気づく。
オットーに未知の魔法で覗かれていたリュークが気づいたように。
だが、今回は全く気づかなかった。
世界最強の剣士もいたというのに。
「頭に声が響いてきて、ようやく魔法の反応があるって気づいたぐらいだった」
「俺もそれからだな、妙な気配があるって気づいたのは」
二人とも声が聞こえてから気配を感じている。
これが戦闘だったら――。
攻撃をされてから、相手の存在に気づく。
それくらいのことを相手はこの二人にしているのだ。
「はっは、まさかこんな体験をこの歳になってするとは思わなかったな!」
ヴァリーは自分の力不足を実感し、笑った。
戦ったらどうなるかはわからないが、自分に不意打ちをできるような存在がいるとわかった。
「どうするリューク、俺はもちろん行くぜ」
「俺も行くよ。どんな人か見てみたいしね」
互いに獰猛な獣のような笑顔を見せ、一度家に戻る。
レンとセレスが朝飯を作って待っているし、このことを伝えないといけない。
家に戻ると、二人は料理を作り終わって待っていた。
「おかえり、リューク、お義父さん」
「どさくさに紛れて何言ってんだお前。『お義父さん』は俺が言うセリフだ」
「いや、だからどっちも違うだろ」
「はっは、娘が二人増えた気分だな」
そんなことを喋りながら、四人は席に着いて朝飯を食べる。
そして、先程あったことを話す。
「はっ? 玉座に呼ばれた?」
「玉座ってことは、陛下に?」
二人は驚愕して口が塞がらない。
まさか朝の鍛錬をしていたら、いきなり陛下に話しかけられて呼ばれることになるとは思ってもみなかっただろう。
リュークとヴァリーもそんなことになるとは思わなかった。
「なんで呼ばれたのかわからんけど、気をつけろよ。陛下は三〇〇年以上生きているはずなのに、全く姿形が変わっていないらしい」
「見たことないのか?」
「ああ、ねえな。あんま興味もねえし」
「ボクもない。陛下はあんまり表に出ないから、見たことある人の方が少ない」
「そうなのか」
「まあ強いことは確かなんだろうな。二人が感知できないってぐらいなんだから」
「気をつけて」
二人は止めずに、リュークとヴァリーを送り出した。
本当はついて行きたかったが、自分達は呼ばれていないし、本当に陛下のお呼びだったら勝手について行くわけにもいかない。
大人しく家で待っていることにしたのだ。
そしてリュークはヴァリーと一緒に『次元跳躍ワープ』。
ここから歩きで宮殿に行くには遠すぎるし、何より手続きなどもかかる。
そうすると何日もかかってしまうので、手っ取り早く行ける方法にした。
呼んだ者も玉座まで行く方法を指定しなかったので、おそらく大丈夫だろう。
むしろ、この魔法を知っているからこそ呼んだのかもしれない。
数秒で宮殿前に着く。
しかし、宮殿の前には兵士がいる。
「っ! お、お待ちしていました。陛下がお呼びです。どうぞ、中へお入りください」
二人を見た瞬間、驚いた様子だったがすぐに持ち直してそう言った。
「まじか……」
「どうしたリューク」
「本当はこの宮殿の中に入ろうと思ったんだけど、入れなかった。強制的に門の前に跳ぶことになった」
『次元跳躍ワープ』で中に入ることはできなかった。
リュークはこんな経験初めてだった。
「なあそこの兵士さん。陛下からはなんて言われたんだ?」
「正門に突如現れし二人を玉座まで案内しろ、としか」
つまり、リュークが魔法を使って来ることは予測していた。
さらに中に入れないようにして、正門にわざと跳ばしたということである。
「どんな魔法を使っているのかわからんが、ここは相手の領域。油断しないようにな」
「もちろん」
二人は兵士に案内され、宮殿の中に入る。
豪華な内装だが、二人は目もくれない。
ただ淡々と赤い絨毯の上を歩いていく。
そして、大きな扉の前に辿り着く。
「では、私はここで」
兵士はここまで案内して、自分の仕事場に戻っていった。
兵士の姿が二人から見えなくなった瞬間、扉がひとりでに開いていく。
そのことに別段驚くこともなく、王の間に入る。
中に入り、玉座の前まで歩く。
そして、対面した。
――精霊族の大陸、ユーコミス王国の王と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます