第142話 刀の力


「はぁ、はぁ……!」


 リュークは地面に大の字で倒れていた。

 その側でヴァリーが笑いながら見下ろしていた。


「いやー、楽しかったなリューク。久しぶりに戦ったが、腕は鈍ってないようだな」

「そう、だね……父ちゃんが、こんなに強かったのを、初めて知ったけど」


 汗で髪が濡れ、息を切らしながら答えるリューク。

 それに比べ、ヴァリーはほとんど息を切らしていない。


「はっは、父ちゃんの強さを思い知ったか!」

「まさか、魔法を本気で使って手も足もでないなんて、思いもしなかった」

「まあ街中だから魔法は限られていたがな」


 一応ここはレンの家の裏庭。

 ここでリュークが竜巻を打ち消したような魔法を使えば、ここ一帯が更地になってしまう。

 だから人に向けるぐらいの魔法、それでも下手に受けたら軽く死ぬぐらいの魔法を使っていた。


 それでもなお、ヴァリーは圧勝したのだ。


 しばらくしてリュークは少し回復し、立ち上がった。


「父ちゃん、森にいた頃は本気でやってなかったの?」


 魔の森にまだリュークが暮らしていた時に、何十回何百回も戦いをした。

 しかし、その時はここまでの強さはなかった。


「いや、俺は本気でやってたぞ」

「だけど、森で戦ってた時と今回の戦い、強さが全然違ったよ」

「まあそうだな。俺は本気でやってたが、刀が本気じゃなかったからな」


 ヴァリーは持っている木刀を一振りし、眺める。


「ダリウスが造った木刀……武器が違うだけで、それだけ強さが変わるの?」

「普通はそこまで変わらないだろうな。というか、武器を変えたくらいで強さが変わるなんて俺にとっちゃ未熟なだけだな」

「父ちゃんは変わってるけど」

「ああ、まだ俺も未熟なんだろうな。あとこの木刀は、『普通』じゃないからな」


 ダリウスが最期に造った木刀。

 そこらにある真剣を超えているというのは当たり前だろう。


 だが、ただそこらにある武器を超えているというだけではない。


「『普通』じゃないって、どういうこと?」

「さあな、なんだと思う?」

「わかるわけないよ。持ってもいい?」

「ああ、いいぞ」


 リュークはその木刀を受け取り、軽く振る。


 良い木刀だ、とは思う。

 リュークが使っているのは魔の森にいた頃に、ヴァリーがそこらにある木で造った木刀だ。


 その木刀も実際は普通ではない。

 素材は魔の森でしか生えていない、『カヌギの魔樹』。

 魔力を吸って半永久的に成長し続ける樹。

 その樹を使っているリュークの木刀は、魔力付与をしやすく、威力も強くなる。


 しかし、リュークの木刀より断然にヴァリーが持っている木刀の方が上だ。

 振る時の抵抗の無さは、何も持たずに手を振るよりもなぜか軽く感じるほど。

 握るところがとても手に馴染む。


 だが、それだけであれほど強くなるとは思えない。


「良い木刀だと思うけど、特別何か変わった感じはしないけど」

「まあそうだろうな」

「じゃあなんであんなに強くなれるの?」

「お前も近いうちにわかるよ」


 ヴァリーは優しく微笑んでそう答えた。


「どういうこと?」

「これは俺の刀だ。だから俺にしかわからないんだよ」


 ダリウスが唯一、誰かの為に造った刀。

 その刀の本来の力は、その持ち主にしか発揮されない。


「お前も今度、レンちゃんに造ってもらうだろ? それを受け取ったら自ずとわかるさ」

「そんなもんなのかな?」

「ああ、そんなもんだ」


 リュークにはまだわからない。

 それでも、ヴァリーは確信していた。

 レンから刀を受け取った時、リュークはもっと強くなると。


「今はまだ本気の俺には勝てないが、いずれ勝てるようになるさ」

「あとどれだけ強くなれば勝てるようになるのか……」


 リュークは悲観するようにため息をつく。

 息子の成長を思って、ヴァリーは父親の笑顔をしていた。



 そろそろ朝の鍛錬を終わろうと、二人は汗を拭く。

 水魔法で濡れタオルにして身体を拭く。

 二人、といってもヴァリーはほとんど汗をかいていないのでリュークだけだ。


 鍛錬を終え、レンの家に二人が行こうとしたその時――。


『見事だった』


 突如、二人の頭に響いてきた声。


「――っ!」


 同時に戦闘態勢に入って、辺りを見渡す。

 リュークは魔力探知も発動する。

 しかし、怪しい影は何一つ見当たらない。


『余はそこにはいない。玉座にいる。お前らを、ここへ招待してやろう』

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