第3話 伝説の二人の生活
――ここは魔の森。
普通の人がその名を聞くと、次に思い出す二つ名は――冒険者の墓場。
その名の通り、ここは名だたる数々の冒険者が命を落としてきた。
この世界での冒険者は、立派な職業であり、色々な仕事をする。
街のお手伝いから魔物の討伐まで、種類は様々。
その一つに、魔の森の調査という依頼がある。
その依頼はこの数年、ずっと魔の森近くの王都の冒険者ギルドに貼ってあるのだが、最近はその依頼をするというものは一人もいない。
理由は単純だ。
その調査から帰ってきた者がただ二人だけということ。
その二人は言わずもがな、剣神と魔帝である。
なので、普通はその魔の森に近づく人なんて一人もいない。
否、いなかった。
しかし、一年前からその場所の奥地にある少し空いてる場所に、家を建てて住んでる人が二人──いや、三人いる。
「フローラ、薪割り終わったぞ」
「ありがとうあなた。今この子にお乳をあげ終わったところよ」
「そうか! いやー、もうリュークが生まれて三ヶ月と十八日か!」
「もう……そんなに細かく覚えて……」
「当たり前だろ! 俺とお前の息子だ! 全部覚えてるさ!」
「もうあなたったら……」
そう言ってフローラは赤ん坊を抱きながら少し顔を赤く染める。
ヴァリーはそれに気づかずにフローラの腕の中にいる赤ん坊に話し掛ける。
「よーちよち、リューク。パパでちゅよー」
ヴァリーはそう言いながら赤ん坊のリュークの手のところに、自分の人差し指を差し出す。
するとリュークは、弱々しくだが確実にヴァリーの指を小さな手のひらで握る。
「あぁ……可愛いなリュークは……」
「うふふ……そうね。髪が茶色だから将来はあなたに似るのかしらね」
「目はフローラの金色の目を受け継いでるな……綺麗な目をしてる」
「もうあなたったら…」
そんな新婚ほやほやの空気を醸し出していると――突然、二人に緊張が走る。
「……あなた」
「わかっている。二人は家の中に」
「いえ、久しぶりに私がやるわ。最近はあなたに任せてばかりで腕が鈍りそうだわ」
「……そうか、じゃあ今回は任せる」
「ええ、リュークをお願い」
そう言って、フローラはリュークをヴァリーに預けた。
「フローラ、無理するなよ」
「あら、あなたより私の方が強いのよ? 最後の闘いを忘れて?」
「……思い出させないでくれ」
「うふふ、あなたの黒歴史ね」
「俺からプロポーズしたかったのに……」
少し気分を落ち込ませながら、ヴァリーはフローラから離れる。
ヴァリーがフローラから離れてしばらくすると、フローラの目の前には彼女の何倍も大きな魔物が現れた。
「あら、ドラゴンじゃない」
ドラゴン――巨大なトカゲに翼を生やしたような姿。
全長二十メートルはあるのではないかと思われるその姿。
口からは火を噴き、目の前のもの全てを焼き尽くす。
普通の人がこのぐらいのドラゴンに遭遇したら、まず助からない。
命を落とす覚悟をするだろう。
しかし、この二人は違う。
「うふふ、今日の夕飯はドラゴンの肉ね」
「フローラ! 逃すんじゃねぇぞ! リュークのためにお前には栄養価の高いものを食べさせないといけないからな!」
「わかってるわよ。味も最高に美味しいしね。ドラゴンの肉なんていつぶりかしら?」
この余裕である。
もう二人にはドラゴンを食べることしか頭にないらしい。
そうしてるとドラゴンが動き出す。
雄叫びをあげて、空気を震わす。
そして口の中に炎が見える。
そのまま口を開きフローラ達に向ける。
そして口から炎が――出なかった。
「ここで炎出されちゃ困るのよね」
するとドラゴンの頭が首からずり落ちる。
首の切断面は綺麗なものだった。
ドラゴンは何をされたかもわからずに、何も出来ずに絶命した。
ヴァリーがフローラに近づいていく。
「ほー、さすが魔帝様。綺麗な風魔法で」
「そちらもさすが剣神様。私の魔法を見破るなんて。この魔法一応あなたに見せたの初めてなのだけれど…」
「そういえばそうだな。まあこんくらい見破らなきゃお前とほぼ互角の勝負なんて出来んだろ」
「そうね……。この魔法は一応人間には使わないようにしてるわ。だって危ないもの」
「そりゃ殊勝なことで」
二人がそう喋ってると、リュークが突然泣き出してしまう。
「あらやだ、あなた抱っこが下手ね」
「いや違うだろ、ドラゴンの生首が怖いだけだろ?」
「あら、私のせいだと言うの? リューちゃん違うわよね? パパのせいよね?」
「そんな俺のせいにしたいの? 違うよなリューク? ママが怖かったんだよな?」
「私が怖いみたいに言わないでくれる?私の魔法で生首になったドラゴンでしょ?」
「ほらママの魔法のせいだ」
「……パパの抱き方下手よねリューちゃん?」
「誤魔化すなよ」
二人はそんなことを言い合っている。
その間、ドラゴンはフローラ達の背後でずっと横たわっていた。
それから十分ほど、二人に忘れられる。
死んでからも不憫なドラゴンであった。
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