第15話 女盗賊との戦闘


 そして約一時間後、目的地に辿り着いた。


 山の麓辺りに来ると、山に続く道は木で覆われていて、山というより森に近かった。


 山の入り口に辿り着いて、そのまま山の中に入ろうとするが、ルルとネネが入り口で立ち止まる。


「あれ? どうしたの?」


 メリーがルルとネネにそう尋ねる。

メリーとリュークが乗っているネネがそれに答えるように低く唸る。

するとメリーも話がわかったようにリュークやアン達に話し掛ける。


「血の匂いがするって! しかもすごく濃い! もしかしたら今襲われてる最中かも!」


 メリーが切羽詰まったように言った。


「ネネ! ルル! そこに連れてって!」


 メリーがそう叫ぶと、すぐさま二匹は走り始める。


 数十秒走ると、メリーとリュークもその異変に気付いた。

メリーも血の匂いに気付き、リュークの魔力感知が人の気配を捉えた。


 ネネとルルがメリーやリュークより先に気付いたのは、狼という生き物は嗅覚が優れている。

約三キロほど先の臭いを嗅ぎ分ける。

 それに加え、ネネとルルはB級の魔獣である。

それ以上の距離の臭いを正確に嗅ぎ分ける。


 そしてネネとルルが走り出して数分後、その異変がある場所へと辿り着く。


 そこには何人かの女が居て、その周りの地面は赤に染められていた。

その周辺には人間が何人も横たわっていて、一目見て命は既にないとわかるほどの損傷を受けている。


「グレートウルフ!? 何故こんなところに!?」


 そこにいた女の一人がそう叫ぶ。

 しかし、既に戦闘態勢に入っている。

周りの女達も驚きはしているが、油断も隙もない。


「お前らがこの山にいる盗賊団か?」


 リュークはネネから降りながらそう女達に聞く。

女達はその場に七人ほどいた。


「なんだお前は……その魔獣はお前の従魔か?」

「いや、俺ではないが、知り合いの友達だ」


 女達はグレートウルフから降りて来たその少年を油断なく見極める。

一見ただの少年に見えるが、歩く動作、立ち姿からは隙がなく、強者の風格すら感じる。


「同業者……ではなさそうだな。大方、私達を殺しに来た冒険者だろ」

「正解、まあ俺は捕まえに来ただけだから。安心していいよ」


 人懐っこい笑顔とは裏腹に、言ってることは大胆なことこの上ない。


「へぇ……私達が『鮮血の盗賊団』ってわかってて、言ってるのかい? 私達を殺さないで捕まえられると? その人数で?」

「まあそうだな。まあ正確に言うなら俺一人で。ネネ、ルル。三人を連れて下がってろ」


 その言葉を聞いて、ネネとルルは後ろへと飛び下がる。

リュークとは三十メートルほど離れる。


「え、リュークさん!?」

「大丈夫なのリューク!?」

「お兄ちゃん!」


 アン達がリュークに向かって叫ぶが、リュークは問題ないという感じで振り向きもせずに答える。


「大丈夫、大丈夫。すぐ終わらせる」

「舐められたものだね私達も……」


 リュークと盗賊の女達の間に一瞬、静寂が訪れる――


 ――次の瞬間、女達が一斉に動き出す。


 ある者は撹乱のためにリュークの周りを高速で移動する。

 ある者はその撹乱の中に短剣を持ちリュークに襲いかかる。

 ある者は一歩後ろに下がり魔法の詠唱を始める。


 リュークは全ての動きを見切る。

撹乱の中から攻撃は最小限の動きで避け、避けたと同時に短剣を木刀で弾き飛ばす。

魔法の詠唱が終え、炎射矢ヴァンアローや風刃列覇シャイドなどが向かってくるが木刀で軌道を変えて避ける。

 そしてその魔法は全て撹乱目的で高速で移動していた女達に向かっていく。

その女達は直ぐに回避するが、重傷とは言わないまでもある程度の傷を喰らう。


 女達は態勢を立て直すため、リュークの周りを囲む。

背後にも回り込むが、背後からでも隙がないのがわかる。


「凄いな、良い連携だ! 初めてこういう攻撃を受けたからちょっと焦ったぞ」


 リュークは今まで魔物を相手にしていたから、連携で攻撃してくる相手は初めてだった。


「嫌味にしか聞こえないよ」

「素直な褒め言葉だ。だけど、詰めが甘い……なっと!」

「なっ!?」


 リュークが話している途中に、リュークの手の中に矢が出てきた。

否、話している途中に近くでずっと気配を消していた盗賊の一人がリュークに向かって矢を放ったのだ。

 それをリュークが見切り自分の頭こめかみに向かってくる矢を掴み取った。

 ただそれだけのこと。


「作戦は良い。お前達七人で撹乱して仕留める。仕留められなくても地面で戦っている自分達に集中させといて、上からの射撃。だけど弓はあまり速さは出ないし、風切り音がする。それに油断を誘うためかわからないけど全員で一旦離れたが、攻め続けてるところを狙撃の方が可能性は上がると思うぞ」


 リュークは作戦を全て看破して、その上その作戦のダメ出しを言う。


 しかし、盗賊の女達もこの方法でA級の冒険者を仕留めたし、この作戦に自信を持っていた。

完全な死角からの射撃。 

それを避けるではなく矢を掴んだ。


 ――そんなの普通出来ねぇんだよ……


 盗賊の女達の一人がそう思う。

大体、弓の速度が遅いとか言ってるが、弓の初速は200キロだ。

 そしてリュークに射撃した女は、その初速を相手に届かせるまでにスピードを殺さずに届かせる事が出来る。


 普通はその速度は死角から放ったら絶対に避けれない。

例え真っ正面から射撃しても、常人が掴める速度ではない。


 ――それを死角から射撃して掴むだと? 化け物じゃねぇか……


 女達はリュークの能力に驚愕している。

そして、リュークが無詠唱で魔法を発動してることも気付いてない。


「作戦が看破されたからって隙があり過ぎ。減点」


 そう言うと、女達の周りの地面から蛇の様なものが物凄いスピードで何匹も飛び出てくる。

 その蛇は女達の身体に巻き付き、拘束する。


「なっ!? なんだこれは!?」


 女がそう叫んで避けようとするも、反応が遅く捕まり、拘束される。


 蛇の様なものは、リュークが魔法で動かした地面、土であった。

土魔法の創造オリジナル魔法であった。


 あっという間にその場にいた盗賊の女達を拘束、木の上でリュークを弓で射撃した女も乗っていた木を折られ、地面に落ちたところを拘束されていた。


 一瞬の出来事であった。


 女達は腕も足も拘束され、動かせるのは首と指ぐらいだ。

魔法使えるものは詠唱させないために、口までも塞がれている。


「おーい、終わったから来ていいぞ」


 リュークは盗賊達を拘束し終えたのを確認して、ネネとルル、アン達声を掛ける。


 そしてネネとルルに乗ってる三人がリュークの側まで来る。


「やっぱり凄いですねリュークさん。あの鮮血の盗賊団をこんな簡単に……」

「私、戦い見てたけどリュークがどうやって避けたり攻撃をしてたのかわからなかった……」

「お兄ちゃんすごーい!」


 アナがルルから降りて、リュークに飛びつく

リュークもそれを受けとめ、頭を撫でる。

ネネとルルもリュークに近寄り、鼻をリュークにこすりつける。


 ネネとルル、アナがリュークにすり寄ってるのを、近くで穏やかに、そして少し羨ましそうに見ているメリーとアン。


 さっきまで死闘が行われていたとは思えないほどの穏やか空気であった。


 背景に盗賊達が拘束されて銅像の様に固まっているのを除いては。

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