第110話 死の覚悟

 ダリウスは目の前にいる最高の剣士の種族を聞いて驚いた。


「まさか人族だとは……魔人族か獣人族かと思ったが」

「獣の耳も尻尾も生えてねえだろ。魔人族には会ったことねえから、違いがあまりわからないが」

「獣人の中にも耳や尻尾を千切られて集落を追い出された者もいる。お前もそういう者かと思ったが」

「そうなのか? わからねえが……それに精霊族と獣人族は仲悪いんじゃなかったか?」

「俺はそんなの気にしない。というか獣人族に会ったことないのに嫌いなんて思えねよ」


 ダリウスの考えは精霊族の中では結構珍しく、精霊族の者の中には会ったこともないのに獣人族が嫌いという者も結構いる。

 そういう考えが昔から引き継がれているのだ。


「それに魔人族はほとんど人族と容姿は変わらんぞ。強いて言えば人族は黒髪に近いものが多く、魔人族は白髪に近いものが多いだけだ。見分けなどほとんどつかんぞ」


 ダリウスが言った通り、人族と魔人族の容姿はほとんど変わらない。

 茶色や金色、赤色などの髪色もあるが、それはどちらの種族もいる。

 しかし、白髪の人族、黒髪の魔人族はいないと言ってもいいほど見当たらない。

 それは何故だかはわからないが、それが種族の違いと言えるだろう。


「そうなのか? 興味ないが……いや、俺より強い奴がいれば興味あるな」

「俺が会った中ではお前より強い相手などいなかったな」

「そうか、残念だ」


 二人はそう話しながら森を出て街へと戻る。

 その道中も危険な魔物が出てきたが、ヴァリーが刀を一振りするだけで絶命する。


 その光景を見て何度も心が震えるダリウスであった。


 そしてダリウスの家に戻ると、レンが夕飯を作ってる最中であった。


「あ……おかえりなさい、師匠……と、お客、さま……?」


 ダリウスは出かける時はこの男、ヴァリーなど絶対に客になるわけがないと思っていたので、それを態度として感じていたレンは一緒に帰ってこないと思っていた。

 だが、今目の前には師匠とその男が仲良く話しながら帰ってくるのを見て驚いている。


「おう、今帰ったぞ」

「おかえりなんて言われるのなんていつぶりだ……てかこの子、男か? 女か?」

「女だ馬鹿野郎。てめえの目は節穴か」

「おー、すまんな。名前も顔も中性的でちょっとわからなかった。しかし可愛いな、レンちゃんだっけ?」

「てめえ、俺の孫にちょっかいかけたら殺すからな」

「出さねえよ、俺はもう少しナイスバディの女がいい。あと強い女」

「あ? レンに女の魅力がねえって言いてえのか!? 上等だ表でろ!」

「お前めんどくせえな!?」


 ……仲良いと思ったのは間違いかも、と二人を見て心の中で呟いたレンだった。



 その後、二人が口喧嘩をしてる時にレンはもう一人分夕食を作り、三人で夕食を食べた。


 そして食べ終わり、ダリウスはヴァリーを自分の部屋へと呼んで今後の話をする。


「さて……お前の剣技を見て、俺はお前を認めた。そしてお前は俺の作品を見て俺を認めた。そこまでいいな?」

「ああ、大丈夫だ。だから作ってくれるんだろ? 俺専用の刀を」

「もちろんだ。お前の剣技を見た後じゃ、俺から頼みたいくらいだからな」

「それは光栄だな」


 今までダリウスは誰か専用、特注の刀を作ったことがない。

 ダリウス自身、刀を使うがそれも自分専用というものを本気で作ったことはない。


 生まれて初めて、本気でヴァリー専用の刀を作るとなり、一番興奮してるのは確実にダリウスだった。


「何か素材でこれが良いっていう要望はあるか? ないなら俺が考える一番良い素材をお前の刀に使いたいのだが」

「お前に任せる。何か良いのがあるのか?」


 ダリウスはニヤッと笑って、応える。


「――ある。恐らく、世界一の素材が……あの山の頂上に」


「あの山……ドラセナ山のことか? そこにあるのか?」

「ああ、誰も見たことがない素材だ。もちろん、俺もな」

「はぁ? なんだそれ、本当に大丈夫なのか?」

「ああ、俺を信じろ」

「……まあお前がそこまで言うならいいが」


 二人は今日初めて会ったというのに、お互いにあることにだけは信頼を置いていた。


 ヴァリーにとってダリウスへの信頼とは、刀の製造の技術。

 武器屋で見たダリウスが造った刀を見て、ヴァリーはそれに関しては絶対の信頼をしていた。


 ダリウスにとってヴァリーへの信頼とは、剣技。

 森で見たヴァリーの剣技を見て、こいつより強い者はダリウスの今後の人生において現れないと直感した。


「しかし、それだけの素材で作るなら金がどれだけかかるんだ?」

「金なんていらねえよ。俺はお前の刀を造るだけで満足だ」

「いいのか?」


 ダリウスの刀は、万人のための刀でも他のものとは比べ物にならないくらいに高い値段である。

 ダリウスが打つ刀にはそれだけの価値があるのだ。


 そしてそれを見た多くのものが特注品を造ってもらいたくてその何倍、何十倍もの金を積んだが、誰一人造ってもらえなかったのだ。


「いいんだよ。だが、そうだな……俺の刀を振るうお前の姿を見せてくれ」

「……もちろんだ。その時を、楽しみにしている」

「ああ、そうだな……半年。時間をくれ」

「わかった。じゃあ俺は一度人族の大陸に戻る。半年後、こっちに来るわ」

「ああ、楽しみにしていろ。史上最高の刀を打ってやる」


 二人は最後に握手をした――。


 そして夜の中、ヴァリーは泊まっている宿へと向かい、翌日にはユーコミス王国を離れた。


 ダリウスに別れの挨拶もせずに別れたが、お互いにそれでいいと言葉を交わさずとも感じていた。



 しかし――ヴァリーは知らなかった。


 ドラセナ山の頂上、世界樹には絶対に登ってはいけないという掟があるということに。

 その掟を守らなかった者は今までいなかった。

 その山に登るということは、精霊族の大陸に住む者全てを敵に回すということである。



 そして、死をも恐れず、ヴァリーの刀を造ろうとしている、ある男の覚悟を――。


 ――ヴァリーはその時、知る由もなかった。

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