第85話  旅の計画


「あれ……お兄ちゃん、料理してるの?」


 アンとアナはリュークが帰ってきていたことに驚いて、今リュークがやってることまでは見えていなかったのである。

 リュークは今、台所に立って料理をしていた。手にはお玉を持っていて、いつもアンが身に着けていたエプロンを借りて料理していた。


「おう、二人が帰ってなかったから俺が料理してやろうと思ってな」

「メリーは? 一緒に帰ってこなかったの?」

「メリーは一度ギルドに行って報告とか仕事をしないといけならから俺は一人で先に家に戻って来たんだ」

「そうだったんだ」

「だから二人は座って待っててくれ。もうすぐ出来るからな」


 リュークの言う通りに二人はテーブルに座る。

 アナは楽しそうに座っているが、アンは少し不安そうな顔をしている。


「お兄ちゃんの料理なんて初めてだなー、楽しみ!」

「そうね……なんか嫌な予感がしなくもないけど……」

「嫌な予感って?」

「……リュークって、料理したことあるのかしら?」

「……」


 アナは楽しそうにしていたのが一変、急に不安になってくる。

 確かにリュークと一ヶ月ほど過ごしてきて一度もリュークは料理をしたこともないし、手伝ったこともない。


「……大丈夫じゃない? ほら、お兄ちゃんって失敗しなさそうだし」

「そうかしら……いえ、そうよね。大丈夫よね」


 二人は今までリュークが大きな失敗をしているところを見たことがないので、大丈夫だと……自分達に言い聞かせるようにして安心しようとした。


「よし、出来たぞ」


 二人の心配をよそにリュークは料理が出来上がり盛り付けに入っている。

 お玉を使ってお皿に料理を入れている。そして両手にお皿を持ってテーブルに持っていき二人の目の前に置く。


「……」

「……」


 二人は目の前に料理を見て言葉を失う。


「お兄ちゃん……これって何……?」

「……ホワイトシューだ」

「リューク……ホワイトって意味知ってる? 白って意味よ。これ……どう見ても黒いのだけれど」


 アンとアナの目の前に置かれた料理……液体はどう見ても黒く染まっていて、白とは真逆な色付きであった。黒色の液体の中にも何か黒色の具材などが浮かんでいるのだが、アンとアナは昨日買ってきた食材に黒色のものがないことを知っている。


「……ホワイトシューを作ってるつもりだったのだが、いつの間にか黒色に変色していた」

「これ具材はなに入れたの?」

「ニンジンと玉ねぎ、鶏肉とか」

「今言ったもの全部、姿形が見つからないんだけど……これ食べられるの?」

「……さあ?」

「これを作ったお兄ちゃんぐらいは自信持って答えてよ!」

「私、料理から煙みたいのが出てるの初めて見たわ……」


 結局、アンとアナが昨日買ったリュークが使わなかった残り物で再度料理することになった。


「まさかリュークが料理が出来ないという欠点を持っていたとは思わなかったわ……」

「しかもあれ、アメリアと同じレベルでやばい料理だったよ」

「料理ってあんなに難しいんだな……初めて知ったよ」


 アンとアナが料理を作ってる間に、メリーがギルドから帰ってきた。


「あ、おかえりメリー!」

「おかえりなさいメリー、元気そうで何よりだわ」

「ただいまアン、アナ。二人も怪我とかないみたいで良かった。ギルドの先輩が二人が毎日依頼をしっかりこなしてるって聞いて安心したよ」

「えへへー、お兄ちゃんとメリーがいなくてもしっかり出来てたんだよ!」

「そうか、凄いな二人とも」

「ありがとうリューク。リュークとメリーがいない間、私達もいろんな経験をしたわ」


 メリーは料理を手伝おうとしたが、久しぶりに帰ってきた二人に料理を振る舞いたいと言って、メリーをリュークと共にテーブルに座らせる。


 手際よく料理を作り終わりやっと夕飯にありつく。

 四人でテーブルを囲み、久しぶりに揃って食事をする。


 食べながらリュークは二人に今回の依頼の内容を少し詳しく話す。

 クラウディア国王が王都の民衆の前で話したことを中心に話した。

 しかし、クラウディアとリュークしか知りえない情報、黒幕についてなどは伝えなかった。


 アンとアナもリュークがいない間に森の中に入って魔物と戦ったことを話す。

 その際に気を付けたことや注意した点などを話して、リュークもそれに付け加えてアドバイスを送る。


 そして――二人にリュークが一ヶ月後にユーコミス王国、精霊族の大陸に行くことを伝えた。


「えっ!? お兄ちゃん精霊族のところに行くの!?」

「ああ、そうだ。その国は良い鍛冶師がいっぱいいるらしくてな。木刀が折れたから刀を手に入れるために行くことになった」

「そうなの……ってことはまた会えなくなるのかしら?」


 アンはそうであってほしくないように不安げにリュークにそう問いかける。


「多分そうだな。海というところに行くのに王都から一週間、それから船で大陸を渡るのに三日ほどかかるらしい」

「そうなの……精霊族の国で刀を貰えたらすぐに帰ってこれるの?」

「いや……それは考え中なんだがな。実は他の大陸とかに行くのも悪くないと思ってる」

「えっ!? じゃあ……帰ってこないの?」

「しばらくは帰ってこないかな……世界を見たいって思って旅を始めたからずっとこの国や街に留まってちゃいけないと思ってたし」

「そうなんですか? だけど獣人族の大陸に行くのはいいかもしれませんが、魔人族の大陸に行くのは少し危ない気がしますが……」


 人族は獣人族とは少し仲が良いが、魔人族とは仲は悪いというのが一般的だ。


「まあそれは今後考えるが、魔人族の人と出会ったらすぐに殺し合いになるとかそういうわけじゃないだろ?」

「それは……多分大丈夫かと思いますが」

「じゃあ大丈夫だろ。それに簡単に殺されはしないだろうしな」

「まあお兄ちゃん強いもんね」


 リュークが精霊族の国に行った後も、この国に戻ってこないと聞いてアンとアナ、メリー達は少し落ち込んでいる。


「まあずっと会えなくなるわけじゃないからな。多分数年後には戻ってくる」

「そう、よね……うん、リュークがいない間も私達しっかり鍛錬するからね」

「そうだね……お兄ちゃんがいない間に、私達S級冒険者になるから!」

「そこはSS級冒険者って言えよ」

「いや、お兄ちゃんと同じランクになるって言うのは……人間辞めることになるから」

「おい、まるで俺が人間じゃないみたいに言うな」


 リューク達は久しぶりに再会して食事を楽しんだ。

 一ヶ月後にはもう一緒に食事は出来ないと思うと寂しく思うが、それでも四人は今この時間をしっかりと嚙み締めながら過ごしたのだった。



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