第62話 蛇の王


 リューク達はバジリスク達の死臭や血の匂いがする場所から去ってようやく一息をつく。


「いや、でもよくサラは一匹でもバジリスクを倒したよな。バジリスクに俺も雷魔法を使ったが鱗が魔法を弾いて通じなかったぞ」

「え? 私は普通に喰らわせたけど?」

「多分、サラの場合はバジリスクが口を開けていたからだろう。それで電流が体内に流れていったんだろう」

「そうなんですか……じゃああたし、バジリスクを倒したのも奇跡に近かったのね」

「それでも私は一人も倒せなかったからな。サラ、見事だったぞ」

「あ、ありがとうございますアメリア様! アメリア様の魔法も凄かったです! 私なんかと比べものにならないくらいに!」

「そんなことはないが……」

「だけど……すいませんアメリア様、あたしは魔力探知をしてるのが限界でもう戦えそうにないです」

「私もあと数回『次元跳躍ワープ』が出来るか程度だ。もう一匹でも来たら倒せる自信はないな」

「またバジリスクが来たら俺が相手するから。最悪、二人が狙われたらアメリアはサラを連れて逃げればいい」

「そうだな……その時は頼んだ」

「おう、任された」


 リューク達は油断せずに、周りを警戒しながら今まで通ってきた道を戻っていた。


 リュークの広い魔力探知にもバジリスクの姿は見えないが、今までみたいに魔力探知のギリギリに待機している可能性があるので一瞬も気が抜けない帰り道である。



 そして――リュークだけは気付いた。



「っ! でかい……!」

「リューク! 来たのか!?」

「どっち方向よ!?」


 リュークの態度に二人はバジリスクが近づいたと思い身構えて、周囲を見渡す。

 毒の紫色の霧がないので周囲を見渡せるが、バジリスクの影は見えない。


「いや……下だ」


 リュークは凍っている地面を見る。リュークにしか気づかない位置にリュークが驚くほどの大きさのバジリスクがいるようだった。


「アメリア、サラ、逃げろ。相手は俺が狙いのようだ」

「……わかった。死ぬなよリューク」

「リューク、その……あんたしかバジリスクの素材持ってないんだから、死ぬんじゃないわよ!」


 サラは少し赤い顔を背けながらリュークにそう言った。


「サラは素材の心配かよ……わかってるよ」


 そしてアメリアはサラを連れて『次元跳躍ワープ』してこの場から離れた。



 すると――リュークの魔力探知に入ってきていたモノが、凄まじい速さで湖の中を進んで迫ってくる。

 そして分厚い氷の地面を下から破って出てきたのは――顔を見るだけでも今までのとは桁違いの大きさを持ったバジリスクであった。


 リュークは弾け飛んだ氷や、湖の毒の水を風魔法で逸らしながら目の前のバジリスクを観察する。


 体長は湖からまだ出てきていないところも合わせて、五〇〇メートルを超えそうな大きさであった。横幅も今までのバジリスクの二倍はある。


 目を見ないようにリュークは顔を見るがこのバジリスクの眼は潰れていて、眼は開いていなかった。


『強き、人族の子供よ』


「っ!? 喋れるのか!?」


 戦うために身構えていたリュークは、いきなり目の前のバジリスクから高いかすれ声で喋りかけられ驚く。


『長きに渡って生きてきた我にすれば、人族の言語を使用するなど造作もないこと』


 目の前のバジリスクは見えていないはずなのに、しっかりとリュークのほうに顔を向けて喋り続ける。


『前にもお前のような人族の雌メスがここに訪れ、我が子達を傷つけ殺し帰っていった』

「あー……それはすまない。だけど聞いてくれ。こっちにも訳があるんだ」

『その雌も同じことを言っていた。闇魔法を解くのは我達の素材でしか出来ないと』

「ああ、その通りだ」


 バジリスクは数年前のことを昨日のように思い出すかのように続ける。


『しかし――それはどうでもいいことだ。我が子達は戦い、敗れ死んでいった。弱肉強食であるが故に、戦い敗れて息絶えたなら我が子達も後悔は微塵もないだろう』

「そう……なのか?」


 リュークはこのバジリスクが自分の子供達を殺した自分を仇のに想い、戦いに来たのではないと理解する。


 しかし――。


『長きに渡り生きてきた我は刺激を求めている。退屈な生に、刺激を』

「……つまり?」



『我が敵と値する強者よ――その命を懸けて我と殺し合え』



 ――刹那、極限にまで濃密な殺気がこの空間に充満した。


 常人であれば気絶、アメリアでさえこの場にいたら身が竦み動けなくなる『圧』がこの場を支配する。

 しかし、リュークはその『圧』をまるで風を浴びるかのように流していた。


「だからアメリアとサラがいなくなってから来たのか。いや、いなくなるのを待ってたのか」


 リュークはその顔に僅かに微笑を携えて言った。


『我の殺気を受けてなお笑うか。それでこそ我が認めた強者なり』

『前に来た人族の者も強者であった。両目を持ってかれたが、後悔はない。それほど素晴らしき時間であった』

『貴様も我の生に刺激を与えたまえ』

「ああ、受けてたとう。俺も今まで生きてきた中で一番の強者であると断定できる相手だ。全力で行かせてもらう」



 リュークが住んでいた魔の森――そこでもここまで濃密な殺気を出せる魔物は数少なく、今目の前にいるバジリスクはこれでもまだ本気で殺気を放っていないであろう。

 リュークは木刀を出して魔力を限界まで溜め始める。その魔力の収束は、バジリスクに負けないほどの『圧』へと変化していき、対抗し合う。



『我はバジリスク、蛇の王なり』



『さあ――殺し合おう』



 バジリスクは音をも超える速さでリュークに迫り、リュークは迎え撃つ――。


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