第23話 鍛錬開始


「私は『洪帝』のアメリア。S級冒険者だ」


 そう名乗った者が、リューク達の前で胸を張って立っていた。


 そして、その言葉を聞いたギルド内の冒険者達がざわめき始める。


「S級冒険者のアメリアだって!?」

「確か最近、A級からS級になったって聞いたぞ……」

「S級になるための依頼が、ドラゴン種を一人で討伐だったと聞いたが……まさか本当に倒したのか?」


 周りの者が、口々にそう呟いている。


 それを聞いたアメリアが、自慢気にニヤニヤ笑っていた。


「ふふふ、やはり噂になっていたか。そう、全て事実だ! 私はドラゴンを一人で討伐した!」


 その言葉に、ギルド内が湧く。

その歓声を聞いて、アメリアはもっと調子付くようにドヤ顔をしていた。


「じゃあアン、アナ。森に行こうぜ」

「え? い、行っていいのかしら? あの人リュークに何か用事があったんだと思うのだけれど……」

「なんか盛り上がってるからそれに水を差すのも悪いだろ」

「そ、そうかな? まあお兄ちゃんが言うなら……」


 三人は盛り上がっているギルド内を潜り抜けて、外に出る。


「……本当にいいのかしら?」

「まあ、本当に用事があるならまた会うだろ。それか森まで追って来るとかするだろ」

「う、うん……。なんかお兄ちゃんって、冷めてるよね……」

「そうか? こんなもんだろ」


 三人は話しながら街の門へと歩き出し、手続きをして街の外に出る。


「よし、まずは体力作りだな。剣を扱うにしても、魔法を扱うにしても体力は必須だ。だから森まで走るぞ!」


 リュークは二人に早速、鍛錬の指示を出す。


「体力には自信がないわ……」

「お姉ちゃんよりは走れると思うよ!」

「確かに、アナは昨日俺と会った時は三キロぐらいゴブリンに追われて全力で走ってたもんな」

「う、うん。あれは火事場の馬鹿力に近いものだから……。またあれをやれって言われても無理だよ?」

「じゃあとりあえずその馬鹿力を出さずとも、それぐらいの持久力をつけるくらい頑張ってみようか」


 リュークは二人に笑いかけるが、アンとアナは引きつった笑いをしていた。


「……お姉ちゃん、私なんだかお兄ちゃんに教えてもらおうと思ったことを後悔し始めてるよ……」

「……私もよ、アナ……。私達、昨日助けてもらったけど……死なないかしら?」


 そして三人は昨日出会った森へと、走り出した。



 一方、冒険者ギルドでは――


「なに!? あのリュークとやらがいないぞ! どこに行った!?」

「あの、リュークさん達なら結構前にギルドを出て行ってしまいましたが……」

「なんだと!?」


 アメリアがリューク達がどこに行ったのか騒ぎ始め、リューク達の動向を見ていたメリーがそれを伝えていた。


「なんと……あの者は礼儀というものを知らないのか」

「いや、そういう問題じゃないと思いますが……」


 アメリアがなにやら見当外れなことを言って、メリーがツッコミを入れた。


「受付嬢よ、あの者はどこに?」

「えっと……この街を出て東にある森に行ったと思いますが……」

「そうか! なら私もそこへと行こう!」


 アメリアは自分の髪と同じ色のマントを翻し、ギルドの出口へ身体を向けた。


「アメリア様! 私たちもついていきます!」


 アメリアの取り巻きの女の一人が、アメリアについていこうと申し出た。


「お前達はここで待っておけ! すれ違いになったら困るからな! もしあの者がここに来たら、私が帰って来るまで待っておくようにしておけ!」

「は、はい! わかりました!」

「よし、では行ってく……ぐへっ⁉︎」


 アメリアが歩き出した瞬間にアメリアの上半身が後ろへ引っ張られるように傾いた。

見てみると、先ほど翻したマントがカウンターの少し出っ張っていた釘に引っかかって、マントを引っ張っていた。

 そして、そのマントがアメリアの首を絞めて変な声が出たのである。


 アメリアはカウンターに近づき、マントを丁寧に釘から外す。


「……よし、では行って来る!」

「は、はい! お気をつけて!」


 先ほどのやり直しのようにそう言って、アメリアは取り巻きの三人をギルドに残し、ギルドを出て行った。


「……アメリア様はもしかして……ドジっ娘?」


 メリーがアメリアを見ていて、思ったことを呟いた。

ギルド内にいる誰もが、今の行動を見ていて思ったことであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る