第83話 ヴェルノの街へ


 リュークが貴族と共にユーコミス王国に行くのは一ヶ月後となった。

 人族と精霊族の住む大陸は違うので海を渡る必要がある。海を渡るにはいろんな準備などをしないといけないので、その準備期間として一ヶ月という長い期間が必要であるらしい。


「っていうことで俺がこっちにいるのは後一ヶ月ぐらいってことだな」


 リュークは王都のギルドでメリーやアメリア達に精霊族の国に行くことの説明をしていた。


「玉座の間でも聞いていたが、本当に精霊族がいるノーザリア大陸に行くのだな」

「ああ、楽しみだな。エルフやドワーフっていう人たちに会うのなんて初めてだし、良い刀が見つかるかもしれないしな」

「凄いですね、リューク様は……」

「怖いもの知らずだね~」

「そうか?」

「精霊族と人族は特に仲が悪いというわけではないから大丈夫かもしれないけど……それでも危険なことには変わりないわ」


 サラはリュークの頃を心配してそう言ったが、リュークは疑問に思う。


「なんで危険なんだ?」

「え? そりゃ……種族が違うし」

「種族が違うと危険なのか?」

「……わからないけど」


 サラはリュークの疑問に明確には答えられないでいた。

 魔人族と人族、獣人族と精霊族はそれぞれ仲が悪いとされているが、今回リュークが行く精霊族は人族と仲が良いわけでもないし悪いわけでもない。


 リュークの疑問にテレシアが少し自分の見解を入れながら答える。


「恐らくですが、他種族が危ないと思うのはこちらの偏見だと思います。精霊族はこちらから見てもあちらから見ても『未知』の存在です。未知との遭遇というのは誰しも少しは恐ろしいものです」

「そうだな……精霊族と人族が仲良くしているというのは聞いたことがないし、悪くなったというのもあまり聞いたことがない。わからないことだらけだ」

「アメリアは前にエルフの魔法を見たって言ってたよな。凄い魔法だったと」

「ああ、私は一度だけエルフの者の魔法を見たぞ。凄いものだったぞ、あれは」

「そうらしいな。エルフの人はどんな人だったんだ?」

「どんな……? 容姿とかってことか?」

「そうだ」


 アメリアは顎に手を当てて当時のことを思い出すように喋る。


「そのエルフの者は女性だったが……綺麗だったな。顔が整っていて肌が異様に白かった。あとは耳が人族と違って尖とがっているのだ」

「耳が?」

「ああ、それにエルフという人達は総じて容姿が整っているらしい」

「そうなのか?」

「……あんた、なんか期待してない?」

「期待? 何にだ?」

「だ、だから……やっぱり何でもない!」


 サラは顔を紅くしてそっぽ向いたが、エイミーがサラの言いたいことを察してリュークに伝える。


「サラはね~、リューク君がエルフの人を好きにならないか不安なんだよ~」

「お姉様!? て、適当言うのはやめてください!!」

「好きに? 好きになっちゃいけないのか?」

「そ、それは……!」


 サラは答えられない。まさか自分が嫉妬しているなんて口が裂けても言えなかった。

 代わりにエイミーがサラの思ってることなどを言ってしまう。


「サラは自分がリューク君に好きになってもらいたいんだよ~」

「なっ!? ち、違います!!」

「違うの? じゃあ嫌いになってほしいのかな~?」

「うっ……それは……」


 サラがエイミーの誘導尋問のような質問に答えられないでいると。


「ん? 俺はサラのこと好きだぞ」

「えっ……?」


 リュークがさらっと告げた言葉にサラが一瞬呆然とする。


「な、なに言って……!?」


 リュークの言葉を理解した途端に顔が真っ赤に染まる。限界まで真っ赤に染まった顔をリュークに見られないよう俯いて隠そうとする。


「あ、あたしも……あんたのこと、その……嫌いじゃ、ないわ……」


 顔を紅く染めたままサラがたどたどしく言葉を紡つむいでリュークの言葉に応える。


「そうか? まあ、これからもよろしくな」

「っ!? こ、こちらこそ……」


 リュークはさらに手を差し伸ばして、サラは恥ずかしそうに顔を隠しながらその手を握る。


「お~、リューク君言うね~。サラもやる~」

「そ、そうか。リュークとサラが……」


 エイミーがリュークの大胆発言や二人の行動に少し興奮していて、アメリアは複雑な気持ちで少し落ち込んだような表情になってしまう。


「もちろんアメリアやエイミーも好きだぞ」

「え……どういうこと?」


 リュークの言葉にサラが問いかけると、リュークは普段通りの口調で答える。


「友達としてってことじゃないのか?」


「――……しねぇぇぇ!!」

「うおっ!? あぶねぇ!!」


 サラが至近距離で拳を握ってリュークの顔面にめがけて振り切ったのを紙一重で躱す。


 ――……サラがこの後、先程とは違う理由で赤面したのをリュークは見たが、その理由はリュークにはわからなかった。



「とりあえずまだ一ヶ月ほどあるから、一度ヴェルノの街に戻ろうと思う」

「そうですね、私もヴェルノのギルドに戻りたいと思ってます」


 リュークは精霊族の大陸に渡る前に、アンやアナ、フランに伝えないといけないと思い戻ることにした。

 メリーも王都ギルドで少し働いていたが、元はヴェルノの街のギルドの受付嬢なので戻らなければいけない。


「アメリア達はどうする?」

「私達は王都で少し活動してみるよ。こっちの方が難しい依頼が多いからな。今回の依頼で私たち全員、まだまだ実力が足りないと痛感した」


 アメリアとサラはバジリスクに危うく殺されかけた。リュークがいなかったら既に二人はこの世にいないだろう。

 テレシアとエイミーも自分達が今回の依頼についていけないほどの実力であったと自覚して、もっと強くならないといけないと感じたのだった。


「王都の方が自分たちの実力を高めることが出来ると思いますので、私達はこちらで活動していきます」

「そうだね~、もっと力をつけてリューク君に追い付かないとね~」

「そうか、サラも頑張れよ」

「……うるさいわよ、黙りなさい」

「サラ、いつまでへこんでいるのですか」

「大丈夫だよ~、サラの黒歴史はしっかりこの目に焼き付けたから」

「それ大丈夫な要素ないですよね!?」


 少し間を置いてから、テレシアが少しうんざりした様子で言う。


「それに王都だったら……先生になる人もいますし」


「は~い! 呼んだしら~!」


 カウンター内からギルドマスターのシアちゃんが出てくる。


「呼んでないが……」

「あら、つれないわねリュークちゃん。アメリアちゃん達は王都に残るそうね。私もアメリアちゃん達と一緒に遊ぶのは楽しいから歓迎よ~」


 王都のギルドマスターであるシアちゃんは、元S級冒険者である。

 しかもS級に成り立てのアメリアより経験があるので、戦いの技術を学ぶのにはいい先生となるだろう。


「おいハゲ、さっさと仕事するにゃ」

「や~ね、サーニャちゃん。王都の受付嬢がそんな汚い言葉遣い使っちゃダメよ」

「黙れにゃ。お前が貴族に掛け合わなけばいけないとか言って仕事をサボったからその分溜まってるのにゃ。きびきび働けにゃ」

「は~い、わかってるわよ~」


 そう言いながらシアちゃんはカウンター内に戻っていった。


「……最後までつかめない人だったな、シアちゃんは」

「そうですね……一緒に働いてた私もあの人のことはよくわかりませんでした」


 そしてリュークは王都ギルドをメリーと共に後にして、ヴェルノの街に向かうのであった――。


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