第81話 報酬
後に――最も、国民に愛された国王として名を遺のこすこととなったクラウディア=サザンカ国王。
その隣には愛する妻、マリアナ=サザンカ王妃――記録には残らないが、夫クラウディアの活躍を後ろで見守る優しい眼差しと人々を癒す笑顔は皆の記憶に残った。
その二人は王城の中で一番広く、煌びやかな装飾で覆われている大広間――玉座の間でこれまた豪華で、綺麗な装飾がある柔らかそうな椅子に浅く腰掛けていた。
その隣には宰相のバルトロが立っていて、真ん中に縦長く敷かれた真っ赤な絨毯じゅうたんに沿うような形で貴族の方々が並び、その後ろに控えるように兵士の方々がいる。
この大広間は本来、謁見の時にしか使わない。
外部から訪れた人を迎え入れる際に使用するのだが、リュークやアメリア達はここに今初めて訪れていた。
リューク達も外部から来た者なのだが、バルトロの独断で呼んだいたのでこの場を使わずに応接室というここと比べると見劣りする場所に通されていたのである。
貴族や兵士の人たちに囲まれてテレシア達は緊張していたが、アメリアは何度かそういった経験があるのか落ち着いていて、リュークは物珍しさから周りを落ち着きなく見渡していた。
「君たちに礼と……依頼達成に対しての報酬を渡したい」
クラウディアが目の前にいるリューク達にそう言うと、すぐに反応したのがリュークであった。
「いや、クラウディアさん。俺が勝手に受けて……いや、依頼としてではなく勝手にやったことです。報酬はいりません」
リュークのその言葉に大きくかぶりを振って、クラウディアは言う。
「そんなわけにはいかない。僕はちゃんと依頼として頼んだよ――よろしく頼む、と言ったはずだよ」
バルトロが勝手に依頼をした時ではなく、リュークに一度だけ直接頼んだことがあった。
リュークがラミウムの湖に行くことを決意した時に――。
『――よろしく、頼む』
クラウディアが涙ながらにそう言って。
『――任せてくれ』
リュークが力強くそう答えたことをクラウディアはしっかりと覚えている。
リュークにとってはこの時に依頼を受けたと認識はしていなかったが、クラウディアは依頼を頼んでそれをリュークが引き受けたと認識したのである。
「だから報酬は必要なんだ。それに、一国の王が助けられたのに、お礼の品も渡さないなんて恥晒はじさらしだよ」
「……わかりました」
リュークは理由も納得できるものだったので何も言わなかったが、何か『してやられた』感があった。
「クラウディア王、私達も呼ばれた理由は? 私達は何もしていないのですが……」
アメリア達はその場に呼ばれた理由がわからずに質問する。
「君達もリューク君と共にラミウムの湖に行ってくれたそうだね。十分報酬を払うに値するよ」
「そんな……あたし達なんて別に……」
サラがそう答えるが、マリアナ王妃も首を横に振って礼を言う。
「いえ、貴女方あなたがたも私わたくしのために命を懸けて依頼を受けていただきました。どうか報酬をお受け取りください」
マリアナは静かに礼を言ってアメリア達も恐れながらもその礼を受け取る。
そして具体的にクラウディアが報酬の話をし始める。
「皆に渡すのは報酬金だね。もう既に冒険者ギルドの君たちの口座に入れてもらっている。後で確認してみてくれ」
この場から去った後に、リューク達はギルドに行って口座を確認してみたところ、リュークには十億越え、アメリアの口座とテレシア達三姉妹の共通の口座にはそれぞれ一億越えのお金が入っていた。
アメリア達はその金額に足が震えるが、リュークは特に動揺した様子はなかった。
「そして、リューク君には特別に他に報酬を渡したいのだけど……何かあるかな? 君が欲しいものを渡したいのだが……」
「欲しいもの……」
リュークは顎に手を当てて考えるが特に何も思い浮かばなかった。
クラウディアにそう伝えようとしたが、横からサラが口を挟む。
「そういえばあんた、木刀が折れたんじゃないの?」
「あっ……そういえばそうだな」
「木刀?」
「これなんですけど……」
クラウディアがそう問うと、リュークは異空間から折れた木刀を出す。
「バジリスクと戦った時に折れたんです」
「まさか……リューク君は木刀でバジリスクと戦ったのかい?」
「はい、そうです」
これにはクラウディアやマリアナ、バルトロや他の貴族たちも驚きを隠せない。
リュークは蛇の王バジリスクと木刀一本で戦い、そして勝利して素材を持って帰ってきたのである。
真剣ですらない、刃が付いてないただの木刀。普通の人が振るっても、魚一匹も切れない。
「失礼、少しよろしいでしょうか」
並んでいた貴族の一人が挙手して前に出る。
クラウディアから許しが出ると、リュークから折れた木刀を見せてもらう。
「見せてもらっても?」
「どうぞ」
リュークはその貴族に木刀を渡すと、上から下までその貴族は木刀をじっくりと眺める。
かろうじて繋がっている程度の木刀をしばらく眺めて、その貴族は言う。
「本当にただの木刀ですね……何も変わったところは見当たらない。この木刀でバジリスクを倒したと?」
「そうです」
「信じられません……いえ、王が信頼しているあなたを疑うわけではありませんが……」
その貴族は鍛冶師かじしの知り合いなどがたくさんいて、その貴族自身も何度か剣を打ったことがあるだけに、この木刀に何も特別なところがないということがわかったのでなおさら驚く。
「確か、剣神様の逸話で『落ちていた木の棒切れのようなものでドラゴンを討伐した』というものがありましたが……さすが剣神様と魔帝様以来のSS級冒険者でありますね」
この場にいた何人かがその逸話を聞いたことがあったのか納得したように頷く。
リュークも自分の父親がそこら辺にあった木の切れ端みたいなものでドラゴンを斬っていたことを思い出す。
「だけどバジリスクを斬る際に折れてしまったんです」
「そうか……刀か。国宝に刀はあったかな?」
「剣の類たぐいは何本かありましたが、刀は残念ながら……」
さらっと国宝を渡そうとするクラウディアにアメリア達や貴族の皆は驚くが、気にした様子もなくクラウディアは続ける。
「鍛冶師に頼んでやってもらう……だがサザンカ国は特に鍛冶に力を入れているわけではないからな」
「作ってもらえるだけでありがたいですけど……」
クラウディアはそれでは納得がいかないらしく、何かあるかと考える。
そこで先程リュークの木刀を見た貴族が提案する。
「それでは……今私が取引している国ではどうでしょうか? そこは世界で一番と言われるほどの鍛冶師の国であります。そこならリューク殿に見合う刀も見つかることでしょう」
「あそこか……私から報酬を渡すということではなくなってしまうが、その方が良い刀を渡せるのであればいいかもしれないな」
「それはどこの国なんですか?」
リュークがそう問うと、クラウディアは答える。
「ユーコミス王国――精霊族の国だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます