第103話 刀専門店
リューク達はユーコミス王国の城壁に着き、人族の大陸のサザンカ王国よりでかい門までやってきた。
門のところでリュークは人族だったのでちょっとした取り調べを受けたが、セレスは何回も人族の大陸に行っているので門番の人とは知り合いだったので、特にいざこざなく入国することが出来た。
「ありがとよー、今度飲みに行こうぜ。オレがおごってやるからよ」
「セレスと飲むと碌なことがねえからお断りだ」
「つれねえやつだな」
セレスとドワーフの男性の門番が軽く挨拶をして、ユニが馬車を引っ張って街の中を進みだす。
ユーコミス王国の街並みはサザンカ王国と同じよう雰囲気であったが、全てが拡大されている。店の大きさも、道幅も、すれ違う馬車もリューク達が乗っている馬車が一番小さい。
そしてやはり一番の違いは住んでいる人がエルフやドワーフばかりだということだ。人族はやはりリューク一人しかいない。
「ここまで大きいと本当にすごいな」
「ここは商店街だからまだ小さい方だぞ。もっと先に武器やら防具を売ってる店とかはもっと縦にも横にもでかい」
「早く行ってみてえな」
「とりあえずこの馬車とこいつを返却しねえとな。御者のところまではすぐだからな」
セレスは商店街を抜けて御者の店まで行く。セレスが店の前で呼びかけると御者のドワーフの女性が出てきたが、ユニの姿を見て一瞬気まずそうな顔をした。ドワーフの女性はセレスのように身長が高くなく、逆に小さくて少しガタイがいい感じであった。
「いらっしゃいませ、馬車の返却ですね」
「ああ、そうだな。あとはちょっとしたクレームだな。お前、こいつが馬車を引くのに合わないって気づいてオレ達に送っただろう?」
セレスは店員の顔を見て確信を持って問いかける。
「いえ、その……一角獣ユニコーン以外用意できる魔獣がいなくて……それにセレス様だったら大丈夫かなって」
「なに都合のいいこと言ってんだ。リュークがいなかったらちょっとやばかったぞ」
セレスと女性店員が話している後ろで、車を引くための金具などを外してリュークに擦り寄っているユニの姿がある。その光景を見て店員は驚いていた。
「なんと……! あの一角獣がこんなに気を許しているとは……! まさかセレス様も?」
「いや、オレは腹立たしいことに嫌われている」
歯ぎしりを立ててリュークに擦り寄っているユニに嫉妬の目線を向けていたが、それに気付いたユニがセレスの方を向いて鼻を鳴らして「どうだ?」というような眼をしてきた……とセレスは感じた。
「あんにゃろ……マジで馬肉として食ってやろうか」
「その時は器物損壊としてたんまりお金を奪とりますね」
こうして無事に馬車とユニを返却したが、ユニはリュークと離れるのを名残惜しそうに最後まで身体を擦りよせていた。
「また来るからな、ユニ。じゃあな」
最後にリュークが首や頭を撫でてから、ユニはようやくリュークから身体を離す。そしてリュークとセレスはその店を後にした。
「よし、とりあえずオレの家に……っ!」
すぐに自分の家に案内しようとしたセレスだったが、自分の家がゴミ屋敷ということを忘れていて焦りだす。
「いや、ちょっと待て……先にリュークだけで刀を見に行ってくれ! オレはその、仕事があるから!」
「そうか? 別に俺はセレスの仕事をやった後に二人で店を回ってもいいが……」
「めちゃくちゃ魅力的な提案だが……ちょっと急ぎのようでな! すぐ終わらせて合流するから!」
リュークからデートのようなものに誘われたので行きたかったが、誘惑に勝って先に家の掃除を済ませることに決めたセレスだった。
そして泣く泣くリュークとのデートの機会を捨て去って家にダッシュで戻り掃除をしに行くセレスと、セレスに口頭で武器や防具が売られている地域を説明されたので、そこまで歩いていくリューク。
リュークがしばらく歩くと武器や防具が売られているところまでやってきた。
店の前ではその店の目玉商品のようなものが売られていて、素人に近いリュークから見ても業物だとわかるものばかりが並んでいる。
「すごいな……さすが世界一の鍛冶師の国って感じだな」
リュークは一人そう呟きながら歩いているが、周りからは少し奇異な目で見られていた。
「精霊族じゃないよなあいつ……魔人族か?」
「魔人族にしては髪色が珍しいが……」
精霊族は魔人族とは仲が良いので、魔人族の容姿をなんとなく知ってはいるがリュークは人族なので少し違うと判断されていた。
「人族じゃねえのか? 昔に見た人族と髪色とか顔立ちが似ている」
「あー、そうか。言われれば確かに」
リュークの周りで人々がそう呟いているが、リュークは気にした様子もなく店の前の武器などを興味津々で見ていく。
そしてリュークは店の前に刀が売られている店の前で止まる。
「へー、こんな感じなのか……」
中に入ると壁に飾っている品や、樽に何十本も入っているのは全部刀であった。この店は刀専門店のようだ。
「らっしゃい。んっ、おぬし人族じゃな」
店の奥からドワーフの男性が出てくる。髭や髪が白くて、顔も皺しわだらけで年老いてるような印象を受けるが、身体は筋肉隆々で年老いて見えない。
「そうだけど、よくわかったな」
「長年生きてるとなんとなくわかるんじゃよ。おぬしは剣士か、しかも若くして刀を使うとはな。珍しい」
「俺に教えてくれた人が刀を使ってたからな」
「なるほど。ゆっくり見ていくとよいぞ」
「そうさせてもらうよ」
リュークは店の中を見て回る。壁に掛けられている刀や綺麗に並べてあるもの、樽の中に適当に置いてあるものを一本一本見ていく。
「オジサン、一番高いやつはどれ?」
「一番は店の前にあるやつじゃな。その他は壁にあるやつとか並べてあるやつとかもなかなかの値段はするぞ。安いやつは樽にあるやつじゃ」
ドワーフの男性が値段が高い順に教えてくれる。
「オジサン、これは?」
「……それはこの店で一番安い刀じゃ」
リュークが安いものが入っていると言われた樽の中から一本、刀を取り出してオジサンに見せた。
オジサンの答えにリュークは首をかしげて問いかける。
「なあ、なんで一番良い刀が一番安いんだ?」
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