第88話 別れの始まり




 リュークが王の依頼をやり遂げてから約一ヶ月が経った。


 あれからリュークはアンとアナと共にヴェルノの街で依頼をこなしていた。

 アンとアナの依頼に連れ合って助言したり、依頼が終わった後は草原で鍛錬をした。


 アンとアナにとっては地獄の一ヶ月ではあったが、その分強くなったと自分でもわかるぐらいには成長した。

 最初は森の中で魔物と戦う時は何回も危機に陥おちいっていたが、今では余裕を持って対処できるようになっていた。


 そして今日――リュークがギルドに行くと、王都からリュークへと伝言が伝わっていた。


『準備が整いましたので王都にお越しください』


 と書かれた手紙を手にして、リュークは早速王都へと向かう準備をする。


「というわけで……精霊族の国に行くために王都に向かう」


 リュークはフランの店に訪れていて、別れの挨拶をしていた。


「そっか……行っちゃうんだ。いつ戻ってくるかわからないんでしょ?」

「ああ、これから世界を見て回ろうと思ってる。戻ってくるとは思うが……それが何年後になるのかはわからない」

「寂しくなるね……だけどずっと会えなくなるわけじゃないもんね。また帰ってきたらこの店に寄ってね」

「もちろんだ。じゃあな、フラン」

「うん、またねリューク君。元気でね」


 リュークはフランとの別れを終えて、商店街を通ってヴェルノの街の門へと向かう。

 この街並みを見るのは何年後になるかわからないので、商店街の景色を目に焼き付けながら門へと向かった。


 商店街を抜けて、門を通って草原に出るとそこにはメリーとアン、アナがいた。


「リュークさん、準備は出来ましたか?」

「特に用意する物はないし、大丈夫だ。今回も悪いな、メリー。送ってもらうことになって」

「いえ、大丈夫です。私も今回は王都に仕事して行くので」


 リュークは前回と同様に、ネネとルルに乗せてもらって王都に行くことになった。

 そして今回は――アンとアナも同行することになった。


「アンとアナも準備はいいか? 忘れ物はないか?」

「大丈夫だよお兄ちゃん!」

「ええ、そこまでドジじゃないわ。アメリアではないのだから」

「それはそれで酷いことを言うなアンは」


 二人はリュークとの鍛錬の成果のおかげでランクがC級まで上がったのだ。

 約二ヶ月ほどでF級からC級まで上がるという快挙を成し遂げた二人は、ヴェルノの街での依頼は大体が出来るようになっていて、これ以上ランクを上げるには王都に行って難しい依頼をこなしていかなければいけなくなったのだ。


「二人はフランに別れの挨拶は済ましたのか?」

「うん、昨日フランの店に素材を渡しに行ったときにね」

「フランには悪いけど、私達も強くなりたいから……それに、リュークと違ってそこまで遠くに行くわけでもないから、戻ってくることはできるわ」

「そうか……じゃあ、行くか」


 リュークはいつも通りネネに乗ってメリーもルルに乗る。

 そして……アンとアナはどっちに乗るかジャンケンで決めていた。


 今回勝ったのはアンだったようで、恥ずかしくも嬉しそうにリュークの腰に手を回してネネに乗る。

 アナは悔しそうにしてメリーの後ろに乗っている。


「……なんか私がハズレみたいで失礼じゃない?」


 そんなことを呟くメリーをアンとアナは横目に見ながら、四人と二匹は王都へと向かったのだった――。



 そして三日後――。


 リューク達は王都に辿り着いた。


 道中に出てきた魔物はほとんどアンとアナが戦っていた。

 ヴェルノの街を出て東にある『初心者殺しの森』。つまり初心者が相手するには少し荷が重い程度の魔物しかいないのだ。

 もう初心者とは呼べない程度に強くなったアンとアナだったが、王都に向かう途中にはその森にいる魔物よりも強い魔物も出てきた。

 初めて戦う魔物もいたので戸惑って危機に陥る場面もあったが、何とかリュークの助けを貰わずに王都まで来ることが出来た。


「はぁ……やっと着いた」

「長かったわ……」

「お疲れ、よく頑張ったな」

「二人ともお疲れ様。王都の宿を取ったらゆっくり休んでね」


 リューク達は王都の門をくぐり抜けて王都ギルドに向かう。リュークに届いた手紙には、王都に到着したらギルドへと報告してくれと書いてあった。


 ギルドへと向かう道を抜けると、ヴェルノの街よりでかいギルド本部が見えてくる。

 ネネとルルをギルドの外で待たせて、リューク達は扉を開けて中に入る。


「あ~ら、リュークちゃん! よく来たわねぇ!」


 一ヶ月前より口紅の色が濃くなっているグランシア……シアちゃんがカウンターの受付嬢のところに座っていた。


「……おう、久しぶりだな」

「リュークちゃん元気ないわね~、一緒に遊ぶ? 元気出るわよ~」

「いや、全力で遠慮しとく」


 リュークはもう慣れているので平然と話しているが……初めて会ったこの化け物オカマにたじろいでいる。


「な、なにこの人……」

「あら、可愛い子達ね! リュークちゃんのお友達? いいわね~、あたしは可愛い子ならどっちもイケるわよ~」

「ひっ!?」


 シアちゃんが舐めるように二人を下から上へと眺める視線を受けて、アナが身体を手で隠すように抱きしめながら悲鳴を上げる。


「う~ん! 反応も可愛いわね~」

「その辺でやめるにゃ変態」


 カウンターの奥からメリーの従姉妹のサーニャが出てきた。


「そろそろお前は捕まえられて牢獄にぶち込まれるべきにゃ」

「ひどいわね。あたしは何も悪いことはしてないわ」

「存在自体が犯罪にゃ」


 サーニャはシアちゃんを下がらせてリューク達の前に出て仕事をする。


「アンベルラ様がお待ちにゃ。早速連絡するからちょっと待ってるにゃ」


 リューク達はギルドで話して少し時間を潰していると、前にリュークが玉座の間で刀について話した貴族の方が扉から入ってきた。


「リューク殿、お待ちしておりました。準備が遅くなってすみませんでした」

「いえ、そちらに任せっきりですみません」


 リュークは丁寧に対応しながらお互いに手を差しだして握手をする。


「私はランス=アルベルラです。以後お見知りおきを」

「リュークです。よろしくお願いします」


 白髪の初老の男性で、身長はリュークより少し高い程度である。服装も黒を基調にした貴族に相応ふさわしいようなものであり。冒険者のリューク達に比べると少し豪華である。


「出発する手筈は整っております。どうなされますか?」

「そちらが良ければ今すぐにでも」

「わかりました。馬車を用意しておりますのでどうぞお乗りください」


 ランスはギルドを出てすぐのところに馬車を止めていた。その馬車に乗って王都を出て精霊族の国へと出発できるようだ。


「リューク……行っちゃうんだね」

「お兄ちゃん……」


 アンとアナは寂しそうにリュークを見つめる。

 これが一生のお別れになるとは限らないが、これから長く会えなくなることは確かである。


「アン、アナ、元気でな。俺がいない間でも鍛錬サボらないで強くなれよ」

「……うん! 私たち頑張るねお兄ちゃん!」

「リュークも元気でね。怪我しないようにね」

「そっちもな」


 二人はリュークを笑って送り出そうと笑顔で別れの挨拶をする。


「メリーも。アンとアナをよろしくな」

「はい、任せてください。リュークさんもお気をつけて」

「ああ、ありがとう」


「じゃあねー、リュークちゃん! 元気でいるのよ! あたしはこの王都であなたの帰りを待ってるから!」

「待たなくていいが……じゃあな」

「あら、あたしとのお別れだけ冷めてない?」


 それぞれ別れの挨拶を済ませて――リュークは馬車に乗ってギルドから離れていく。



 別れとは終わりでもあり、始まりでもある。


 リューク達はここで別れ――それぞれの冒険は終わり、そしてまた始まっていくのだった。


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