11-19 人事は大変

「カズ様、食堂の妹さんですが、仕事に来てもらう事を快諾してもらえました。

 お父様は大変恐縮しており、明日にでも店に来て挨拶をさせていただきたいとの事です。」

「良かった。これで2名だね。」

「お館様、こちらも司教様とシスターさんに了解をいただきました。

 是非よろしくと、そして毎回のご寄付感謝申し上げますとの事です。

 もうひとつ、ジョスさんにお願いしている部屋ですが、5つなら何とかできるとの事です。」

「ありがとう。これで4名、あと酒屋の娘さんと虎さんの女性で8名だ。

 石鹸に2名、下着に3名、化粧品に3名という事で良いかな?」

「大丈夫ですね。アデリンのお店の開店があと数日、レルネのお店が2週間というところでしょうか。

 それまでに、虎族の女性とマナの女性の2名に錬成を教えていくという作業がありますね。」

「それは儂が教えるから問題はないぞ。」

「明日、採用したヒトが来るんだっけ?」

「はい。詳細を聞きに来ます。」

「配置先を考慮してあげる必要はあるのかな?」

「彼女たちも大人ですから、彼女たちがやりたい方向で良いと思います。ただ…」

「メリアさん、どうした?」

「カルムさんの店の奴隷を如何にするか、ですね。」


錬成は2名しか雇ってないから、その2名は化粧品にレルネさんと行くとすると、こちらに残るのはスピネルとミリーだ。

両方とも冒険者でもあるので変な奴が来ても問題なく対処は可能だろう。

カルムさんのところの奴隷はこちらで監視する必要がある。

ただの取り越し苦労であれば良いが、こういう心配は心配した段階でフラグが立っているんだ。


 これまでの世界でも同じだった。

ふと言葉に出してしまうと、それが言霊になってしまうことが多々あった。

さらに悪い案件は一度転がるとどんどんと加速していく。


 俺たちだけであれば問題は無いが、ここには冒険者ではない社員も居る。

彼女たちを危険に晒すことはできない。

が、早めに芽を摘み取っておく必要もある…。


「あの奴隷を買うよ。そして、本館の客室を使って2名を監視しよう。

隣の部屋はレルネさんだから問題はないし、ベリル、スピネル、ナズナ、そしてディートリヒが居るから、そんじょそこらの冒険者パーティーよりも強いからね。あと別館には結界が必要かな。」

「そうであれば、問題はありませんね。

 今日採用した社員は、2週間研修扱いとして、それまでの間は今住んでいる所から来てもらうことで問題はありませんね。」

「あの虎族の2名はどうする?家賃滞納がどうとか言ってたけど。」

「詳しい話は明日聞きましょうか。」

「そうだね。」


面接ってのは時間がかかる…。

一人30分としても20人であれば…一日がかりになる。

まぁ、早々にお引き取りいただいた方もいるが、初対面のヒトと話すことは結構精神的に疲れる。

こういった時は何もしなくても良いんだが、サーシャさんとネーナさんが居ないので、クラリッセさんだけで夕食を作ってもらうのも大変だ。


「クラリッセさん、市場に行って夕食の材料を買ってこようか。」

「ご主人様、そのような事は私だけで行ってまいりますが…。」

「気分転換だよ。それにトーレスさんのお店にもいかないといけないからね。」


 なんでこうなった…。

いつものメンバーに加え、アデリンさん達も居る。

居ないのはレルネさん、スピネル、ミリー、アイナ、レイケシアさん、ヤットさんにラットさん…。

ほとんどいるじゃないか。

 

「こんなに大勢で市場に行くと、みな驚くと思うんですが…。」

「大丈夫です。市場では各々が自由行動となります。」


いや…、そうではなく、市場にいく道すがら、皆に見られるのが恥ずかしいのですが…。

何だか公開処刑を受けているようだ…。

通りを歩く男性陣の目線が怖いよ…。


トーレスさんの店に立ち寄り、奥の部屋に通される。

流石に全員は無理ないので、メリアさんとディートリヒだけを残し、先に市場に行ってもらう事にした。


「ニノマエ様、本日も大勢のお客様をお連れいただき…」

「すみません…。全員社員です…。」

「おぉ!では社員の方の福利厚生として、当社のバッグなどをご購入いただくという事ですか。」

「そんな事したら、破産しますよ…。」


と、お約束の挨拶をし、以前トーレスさんに依頼されていた念珠を渡すことにした。


「これで、全部ですかね。」

「流石にこれだけあると圧巻ですね…。」

「そう言えば、この念珠に使っている石ですが、クローヌの街で採れることが分かりましたよ。」

「ほう!それは素晴らしい!どんな石がありましたか?」

「例えば、ディートリヒが付けているペンダントの石とか、メリアドール様とディートリヒが付けているリングの石とかですね。」

「えぇと…、すみませんが、メリアドール様がお着けになられているキラキラ光る石は一体何でしょうか?」

「なんじゃ、トーレスでも分からぬのか?

これはな、ダイアモンドといった石で、このように光を通すと…な、綺麗じゃろ!」


いきなり、メリアさんがふんぞり返ってるよ。


「あの…、これもクローヌで見つかったものなのですか?」

「なかなか採れないモノだけどね。運よく手に入れたんだ。

 ただ、研磨するのにものすごく手間がかかるんだけどね。」

「たしかにそうですね…。ここまで何面も磨くとなると、すさまじいほどの根気と時間が必要になりますね。で、これは誰が磨かれたのですか?」

「俺です…。」

「何と!ニノマエ様はいろんな特技を持っておられる!

 で、この石を見せていただいたという事は…。」

「これを販売することは難しいのかな、と思ってね。」

「売れますね。」

「それじゃ、石屋でも開くのがいいかな?」

「そうですね。そうすれば当社も買いやすくなります。」

「じゃぁ、石とアクセサリー屋でもやりましょうかね。」

「“あくさそり”ですか?」


デジャビュか?

前にも同じことがあったな…。


「“あくせさりぃ”ね。」

「アクセサリーですか。それはどういったモノでしょうか。」


自分の発音の悪さか、活舌の悪さか…、自己嫌悪だよ。

考えを伝える事の難しさを痛感するよ…。


「女性を美しくする小道具っていったところですかね。

 リングやイアリング、ネックレスにピアスなど、金属だけでなく石も入れると綺麗になりますよ。」

「メリアドール様やディートリヒ様がお着けになられているのがアクセサリーなんですね。」

「そうです。これを販売しようかと思います。」


 トーレスさんが考え始めた。


「確かにこれは売れますね…。

 しかし、石をふんだんに使っているこの商品との区別化をする必要がありますね。」

「あ、それは問題ありませんね。」

「ほう。それは如何様な理由から?」

「石はトーレスさんのところに卸します。そこから私共が少量の石を買い、アクセサリーを製作し販売するという事です。」

「当社が石を扱っても良いという事ですか?」

「はい。うちが原価で石を買ってもらう。トーレスさんは石を少量こちらに売ってもらう。残りを販売されれば良いと思いますよ。ただ、どれくらいの量が採れるのかは分かりませんが、この赤い石でしたら結構な数がクローヌの地中にあると思います。」

「それでしたら問題はありませんね。

 実は、この念珠を見て、バッグの留め金部分などに付けて欲しいと依頼があったのですよ。

 しかし、石は入手困難なので、どうしたものかと思っておりました。

 まさに“天から降りてきた一本のアラクネ糸”ですな。」


そんな故事があるのか…。

そして、その降りてきたアラクネの糸は上ることができるのか? ヌルヌルしてないのか、とても気になる。


「ただ、原石をそのまま卸すのと、加工してから卸すのとでは少し価格が変わります。それにこの念珠は糸を通すことができるように穴を開けていますので、少し加工が難しくなりますが。」

「構いません。それと穴を開けていないものも欲しいので、そうですね…、穴付き7割、穴無し3割で購入いたします。値段については今後調整させていただくという事で良いですか?」

「それで結構です。

 あ、ただし、このダイアモンドはどの石よりも貴重ですので、数量はほとんど無いと思ってください。

 ごく稀にしか採れない事、加工が他の石よりも難しいので、俺にしかできません。」

「構いません。この石はおそらく国宝となるでしょうね。」

「いや、だから国宝は見たことが無いですって。」

「はい!私もです!」


そんな話をし、石の値段を調整していくことにし、トーレスさんの店を出る。


「カズさん、このダイアモンドですが、もう少し大きなものであれば国宝になりますわ。」

「へ?」

「国宝は分かりませんが、天下の名工となられるカズ様がお作りになったものです。国宝にすべきです。」


いつの間にか名工にされるし、大きければ国宝級になるって事は、3か月後に王都に行く際のお土産にするって事を暗に言っているのだろうか…。


それにしても王族、貴族ってのはキラキラするものが好きなんだな。

カラスと一緒だ…。

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