8-7 生と死と…
「ニノマエさん…。
何度も会いに来てくださるのは私にとっては嬉しいんですが、これではあなたの身体が持ちませんよ。」
「すみません…。反省してます…。」
「でも、今回も満足されているんですね。」
「はい。でもすべてのがん細胞がなくなったのかは分かりません。」
「まぁ、それは起きてから確認してくださいね。」
「すみません。ラウェン様。」
「それと、今度ニノマエさんが作ろうとしている…、その…、何を…持ってきてもらえませんでしょうか。」
「え?何を」
「それは…、その…、し、下着です…。」
「はい。良いですよ。でもサイズが分かりませんが。」
「C85で下はMサイズです。」
「は、はい…。分かりました。でも実体は無いっていってませんでしたか?」
「ち、違います!
今でも実体は無いです。
でも、ニノマエさんが作った像のサイズが、その…、C85だっただけです…。」
「分かりました。では作った際にお供えしますね。」
「ありがとうございます。
で、今回の出血大サービスは…、」
「ちょちょ、ちょっと待ってください。
いつもいつももらってばかりだと、俺が神様に甘えてしまっていますよ。」
「ふふふ、それでいいんじゃないですか?」
「でも、なんかチートぽくなって、俺スゲーーみたいな厨二病みたいになりませんかね。」
「そうならないのがニノマエさんじゃないですか?
それに、創造魔法なんてそんなに使ってませんし…、唯一使っていらっしゃるのが言語理解だけなんて少し寂しいですよ。」
「いえ、そんな事もないですよ。鑑定も使ってますし…。」
「でも、そんなに使ってませんよ。」
「まぁ、使っても使わなくても神様にいただいたものですから大切にしてますからね。」
「使わなくては無用の長物です!」
「はい…、すみません…。
あ、ひとつ欲しいものがありました。」
「それは何ですか?」
「読み書きできるようになりたいです。」
「それはご自身で勉強なさってください。
では、またお会いしましょうね~。」
「え、ちょ、ちょと待って…。」
何度目かの白い世界を出て、知らない天井を朧気乍ら見上げている。
視界がはっきりしない…、下がやけに固いな…、それに狭い…。
あ、ソファで寝ているのか。
メリアドールさんはどうなったのか…。ゆっくりと起き上がる。
「あ、ニノマエ様、気が付かれましたか。」
この声はブライアンさんか…、視界がまだはっきりとしていないが居場所はなんとなく分かる。
「ブライアンさん、メリアドール様の状態は?」
「はい。先ほど一度目を覚まされ、白湯を飲まれました後、またお眠りになられました。」
「汗は?」
「たっぷりと。メイドの者が今も拭いております。」
「そうか、ありがとう。もう少しかかると思うからお願いします。
それと、俺はどれくらい倒れていた?」
「4時間くらいでしょうか。今は午後10時です。」
「ありがとう。じゃ、もう少ししたらメリアドール様を診させてもらいます。」
俺は、バッグの中のマナポーションを1本飲む。
しかし、いつ飲んでもポーション系は美味しくない…。
味でもつければいいのに…と思うが、このあたりはレルヌさんに改良してもらおう。
しばらくして体調も戻ってきたようなので、ブライアンさんとメイドさん達にいったん退席してもらい、ヴォルテスさんだけ残る。
「では、もう一度メリアドール様を診断させていただきます。」
「よろしくお願いします。」
俺は先ほどマーキングしたものを思い出し索敵をかける。
すごく減っている。流石チート魔法の効果だな、と感心する。
「大分減ってきているようではありますが、まだ体内に残っているようです。
もう一度治癒魔法をかけますので、かけた後は先ほどと同じ要領でお願いしますね。」
「分かりました。お願いします。」
もう一度『死滅の光』をかける…。
先ほどみたいにたくさんの光は集まらない。マナも大丈夫のようだ。
それだけ体内でがんの細胞が無くなったという事なのだろう…。
淡い光に包まれたメリアドールさんは、それは美しかった。
そして光が体内に取り込まれていく。
おっさんであっても、綺麗なものは綺麗だと思うんだと自分のことながら感心した。
「治癒魔法をかけました。あとはメイドさんにお願いいたします。」
「はい。」
メイドさんが部屋に入って来て、甲斐甲斐しく汗を拭いている。
メイドさんって大変だよな…、と思いながら、最後のマナポーションを飲む。
うん…、不味い。
ようやくメリアドールさんの汗もひいたようだ。
懐中時計を見ると午前2時…。メイドさんたちも疲れていると思う。
「ヴォルテス様、メリアドール様の汗も引いたようなので、メイドさん達を休ませてあげてください。
容態も安定しているようなので、そうですね…8時にここに来ていただければ良いと思います。
あと、ブライアンさんも同じく休んでください。」
「はい。分かりました。ニノマエ様はどうしますか。」
「私はここで容態を診ています。」
「では私も一緒に。」
「あ、一度スティナ様のところに戻り、メリアドール様の容態について説明してあげてください。心配事は身重な身体に負担をかけますからね。
大丈夫ですよ。俺は何もしませんから。」
「ははは。それは信じておりますので大丈夫です。
では、早速戻ってスティナに伝えてきますね。」
そして、寝室にはメリアドールさんと俺だけとなった…。
しかし、今回も結構マナを必要としたな…。それだけ悪かったという事なんだろう。
それでも気丈夫に対応しなければならない貴族とは一体なんだろう…。
昔、『武士は食わねど高楊枝』という言葉を聞いた事がある。
江戸時代だったか、士農工商制度の中、士つまり武士は、貧しい境遇にあっても気ぐらいを高く持てという意味だったと思うが、それって見栄を張れって事なんだろうな。
もしかすると貴族なんてそんなものかもしれない。
伯爵家のご飯も質素だったもんな。
そんな事を思いながら、メリアドール様の様子を見る。
静かな寝息にたてている。今の所問題はなさそうだ。
俺がソファに戻ると、メリアドールさんが声をかけてきた。
うわ!びっくりした…。
寝てたんじゃなかったのかい。
「カズさん、ありがとうございました。」
「あ、メリアドール様…。」
「大丈夫です。今は2人だけなんでしょ。」
「えぇ…。
どこか痛いところはありませんか。」
「痛くはないです。」
「苦しいとか気分が悪いなどはありますか」
「ありません。」
「今のところは大丈夫のようですね。でもまだ油断はできませんので、安静にしててくださいね。」
「分かりました。」
時間がゆっくりと過ぎていく…。
メリアドールさんが、落ちついた声で話し始める。
「カズさん、これで私は生きながらえることができるのでしょうか。」
「少なくとも、メリアドールさんの身体を蝕んでいたモノを体内から除去すれば問題は無いと思います。それに再生魔法もかけておきましたから、健康な状態に徐々に戻っていくと思いますよ。」
「ふふ、そうですか。
孫の顔も見れるかもしれないという事ですね。」
「はい。血が繋がっていく事を実感できると思いますよ。
でも、今日一日は安静にしていてくださいね。
あ、お腹がすくと思いますので、何かお腹に優しいモノを作っておきますね。
何がよいですか?」
「先ほどいただきました“とーふ”というものと“おかよさん”でしたか?それをいただければと。」
「分かりました。後で厨房に置いておきますね。」
もう一度、時間がゆっくりと過ぎていく。
沈黙の時間は嫌いだが、メリアドールさんはもう眠りについた頃だろうか…。容態を診るためソファを立とうとする。
「ふふふ、まだ寝ていませんよ。それに痛いところもありません。
そんな事より、こちらにいらしてください。」
「はい…。」
メリアドールさんのベッドの脇にある椅子に座る。
「体温や脈などは測らないのですか。」
「貴族の方に触るなど恐れ多いことです。」
「それじゃ、病人を診ることはできませんよ。
どうか、診てください。」
「ふぅ…、仕方ありません。でも俺は体温や脈拍を見ても異常を見つけることはできませんよ。」
「それでも良いんです。触れていたいんです。」
おでこに手を当て熱をみる…、ハイ分かりません。普通の体温だと思います。
次に手首の脈を取る。
トクトクと少し早い。
「脈が若干早いように感じますね。」
「カズさん、それはそうですよ。
好きな男性が触れてくださっているんですから、鼓動も早くなります。」
うぇ!もしかして、術中にはまった?
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