8-6 治癒魔法

 なんでこうなったのか…、

完全にメリアドールさんの術中にはまっている気がする。


「それではニノマエ様、主寝室にご案内いたします。」

「なんかされそうな言い方ですね…。」

「いえ、そんな事はございません。

 奥様、ニノマエ様をお連れいたしました。」

 

(通せ)


 俺はメリアドールさんの寝室に入る。

うん…、貴族の部屋だ。無駄に広い。

部屋の中には、メイドさんが3名とブライアンさんの計4名が待機している。


 んじゃ、始めましょうか。


「それでは、先ずは鑑定から始めます。

 みなさんこの場にいて結構です。そうですね。メリアドール様。」

「つれないのぅ。良きにはからえ。」

「あ、大丈夫ですよ。直接触るような事はいたしませんので。」

「なんじゃ、触って診断しないのかえ?王宮のあの酔いどれ爺も触ったのじゃぞ。

 カズは触らんで診断ができるのか。」

「やってみないと分かりませんが、少しは分かると思います。」

「なんじゃ、藪医者か。」

「自分は医者ではありません。

しかし医療については知っている。それだけですよ。

藪かどうかは、治療後にご評価ください。」

「ほんにつれないのぉ…。」


 鑑定を始める。

鑑定と言うよりもどちらかと言えば索敵に近いようなイメージだ。

メリアドールさんの身体の中の異質なもの、しこりというモノを見つけることに専念する。


先ずは左胸、ここはリンパにあるようで結構大きい。

左の肺にもある、すい臓、肝臓と続いている。

これ、完全にリンパに入り、転移していったものだ。

幸い子宮は無事であったことは救いだ。

スーパーヒールをかけてしこりを取ったとしても、リンパの中に入ったものをどう除去していくのか…。


「どうした、カズ。顔色が悪いのう。」

「えぇ、メリアドール様、がんの進行が速いです。すでに膵臓、肝臓にも転移し、そのほかにもリンパという管を使って身体中に回っております。」

「そうか、では治らんのじゃな。」

「いえ、そうとは言えません。

自分がいた郷では、数種類の治療方法がありますので、その中でどれが一番メリアドール様に効果があるのかを考えているところです。」

「そうか、では答えが出たら教えてたも。妾は少し眠るとする。」


 メリアドールさんは眠ったようだ。

動くだけで疲れたのだろう…。


ガンの治療法は、外科手術つまり発生場所の切除と、放射線療法、化学療法つまり投薬の3種類に加えて光を当てて細胞を殺す方法が数年前にできた事を何かで読んだ気がする。

すでにメリアドール様は体力が落ちているから切除などには耐えられないだろうし、副作用の強い化学療法も無理だろう…。そうすれば光か放射線だが、俺の放射線のイメージはレントゲンしかないから…。

で、最後に残った光だ。さらに先ほど索敵で見た“しこり”や変な感覚があったものを軒並み体内で殺すという事で進めていくしかない…。

正直、どれくらいのマナが必要となるかも分からないな…。


 治癒魔法は光、体内で殺していく、そして不要となったものを分離し身体の外に出した上で消失。

身体から出すものとして適当なものは…、尿か汗…。流石に尿は恥ずかしと思うから、すべて汗で出させるという事か…。

身体の水分を少し補給しておくと良いかも。

イメージが出来た。


 後は、誰がメリアドールさんの介護をするのか…、これはメイドさんで大丈夫だろう。

魔法を見られてもいいような人は…、ヴォルテスさんが適任だ。


「ブライアンさん、治療内容が決まりました。ついてはヴォルテス様をお呼びください。」

「了解しました。スティナ様は如何しましょうか。」

「まだ安定期には入っていないでしょうから、自室でお休みくださいとお伝えください。」

「分かりました。」


しばらく経ち、ヴォルテスさんが慌ててやって来た。


「ニノマエ様、此度は母上の治療を…」

「つまらない口上は割愛し本題に入ります。メリアドール様よろしいでしょうか。」

「ん…、あぁ、これから治療を始めるのかぇ。」

「はい。これから治療を始めます。

 それに先立ち、メリアドール様には水分を摂ってもらいます。」

「水かぇ?分かった。」


 500mlは飲んでもらったと思う。


「次に手順を説明します。

 治癒魔法をかけますが、その立ち合いはヴォルテス様お一人でお願いします。」

「分かりました。」

「治癒魔法をかけ終えた後、ヴォルテス様には申し訳ありませんが、メイドさんをこの部屋に呼んでください。

治癒魔法後には、おそらくメリアドール様の全身から大量の汗が出ます。それを拭いてあげてください。そして、メリアドール様が目をお覚ましになられたら、白湯をたっぷり飲ませてあげてください。そうするとまた汗が出ますので、それを拭いてあげてください。

それを繰り返し、汗が止まったら今日はお終いです。」

「はい((はい))。」

「ヴォルテス様、

メリアドール様は術後となりますので、明日は安静でお願いします。

よって明日の公式行事はすべて中止としてください。」

「分かりました。」

「あ、明日、面会もありましたね。」

「それは明後日の同じ時刻で調整させます。」

「分かりました。ありがとうございます。」


「では、ブライアンさん。

大変申し訳ないのですが、俺たちが泊まっている部屋までに行って、彼女たちに今日の品評会は明日に延期だと伝えてください。それと心配はするな、とも。」

「承知いたしました。」


「最後です。ヴォルテス様、

 おそらく自分が魔法を放つと、ぶっ倒れると思います。

ですが心配せず、このソファに自分を運んでください。それだけで良いです。

起きたら、もう一度治癒魔法が必要かを判断します。

皆さんには今晩迷惑をかけることになるかもしれませんが、皆で踏ん張りましょう!」

「はい(((はい)))!」


 さて、準備がそろった。

皆が移動を始め、この部屋にはヴォルテス様しか残っていない。


「さて、メリアドール様、始めますがよろしいですか。」

「うむ、良いぞ。

 しかし、我が家は余程カズに迷惑をかけておるのじゃな、ヴォルテス、スティナに続き妾とは…。」

「そうですね。それに俺に事実を告げなかった罰で、白金貨100枚の件もありますからね」

「カズはまだその話を言うか。」

「ふふふ。言いますよ。俺にとって嘘をつかれることが一番嫌いな事ですからね。」

「という事じゃ、ヴォルテス。当家の財宝をすべて売ってでも、カズに支払うのじゃぞ。」

「は、はい!」

「メリアドール様、そんなにヴォルテス様をイジメてはいけませんよ。」

「なんじゃ、面白くないの。

 ただ、ヴォルテスよ。これだけは言っておく。

 妾がこの治療で助かろうと命を落とそうと嘆くでないぞ。

 そちは既に領主じゃ。領主としての考えなどは十分すぎるほど教えてきている。

 皆を頼り、時には鬼となり領内の民を慈しんでほしい。」

「母上、分かりました。」

「ではカズよ、頼む。」

「それでは始めます。ヴォルテス様、よろしいですね。」


 俺は、メリアドールさんの身体の中にあるガン細胞をマーキングした。

それと同じものを体内で見つけることに索敵魔法をかける。

さっきの索敵では無理だったが、今回のマーキングは上手く働いている。

しかし…、既に全身にいきわたっているのかよ…。

全身にいきわたっているこいつ等を殺して外に出す…、それを行い再生する。


「よし!『死滅の光』」


大量の光がメリアドールさんを包む。その光がまぶしすぎて目を開けていられない。

光の粒ひとつずつが体内に取り込まれていく…。

マナがブワッと減っていく…。


『体内のマナが10%を切りました。危険な状態です。体内のマナが10%を切りました…』


すまん。俺よ…もう少し踏ん張ってくれ!

マナポーションを数本飲む。


せめてすべての光が体内に入るまで、そこまでは踏ん張ってくれ!


光よ、メリアドールさんを蝕んでいるすべての因子を取り除け!


足りなくなったものを再生させる。そして、メリアドールさんが笑顔で過ごせる日を願う!


そして、これからも俺たちに笑顔を見せてくれ!


 「いけ!『再生』」


 何度目だろうか…。

意識がぶっ飛んだ…。

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