10-16 山ガールズ

 いろんな会話をしながら、和気あいあいと山道を登る。


「ディートリヒ、ミリー、ニコル、この辺りにある石や岩を鑑定していくと勉強になるぞ。」


 山の中腹に差し掛かった時、鉱物がいろいろと鑑定できたので、敢えて3人に鑑定を頼んでみる。


「ナズナも分かるか?」

「はい、お館様、いろんな石がありますね。」

「うん。これらが分かるようになると、今後の錬成にも役に立つと思うんだけどな。

それにな…、ここは昔火山だったんだろ…。赤い石や緑の石が見つかれば、みんなの思い出の品とお土産でも作ってあげようと思ってな。」

「お館様、その石の名前を教えてください!

 私も探します!」


 鑑定班が俄然やる気になった。

探す石は、ざくろ石(ガーネット)とルビー、サファイア、確かムーンストーンもあったと思う。

もっと深い層には貴重な鉱石もあるだろうけど、彼女たちが見つけることは無理かな。


「それじゃ、ルビー、サファイヤ、ガーネットと鑑定できたモノを持ってきてね。」


 鑑定組が真剣に探し始めた。

鑑定を覚えていないベリルとアイナは、周囲にバリアーを張り俺と料理を作ることにした。


 簡易魔導コンロでお湯を沸かしながら、ブル肉の燻製をスライスしていく。

野菜を切ってもらい、昼食をサンドウィッチにする。腹にたまるものを大食いしてしまうと午後からの山登りに影響するからね。


 程なくして鑑定班が戻って来る。


「カズ様、スピネルと同じ名前の石が出ました。」

「お、尖晶石だね。お手柄だよ。それをスピネルのお土産にしよう。」

「それと、まだまだあるんですが、ちっちゃいんですよね。」

「なかなか大きなものは無いんだよ。たまに大きなモノを見つけるとラッキーってな感じになるね。」

「“ひゃっきー”って何ですか?」


 しまった…、ディートリヒはカタカナの変換不可能だった。


「いい事があるかな!って意味だ。」

「では、大きなモノをお渡しできれば“ひゃきー”になれますね。」


 どんどん異変換されていく…。


「“ひゃきー”か、そうだよ…。」

「社長、それはラッキーですよ~。」

「え、アイナさん“ひゃきー”ではなく“ラッキー”なんですね。」


 何故アイナが通訳すれば言葉が通じるのだ?

俺に何か問題があるんだろうか…。


「カズ様、先日頂いたモノと同じような名前の石を見つけたんですが、これもラッキーなんですか?」

「どれどれ…、お、これってブルームーンストーンじゃないか。これもラッキーだよ。」

「そうですか。なんかとても楽しいですね。」

「鑑定を学びながら石探しって、まさに一石二鳥だ。」

「その“いっせきに、ちょー!”というものが分かりませんが…。」

「いや、もう良いです、忘れてください。」


「お館様、こんな石がありましたが。」

「ん?お、これはサファイヤか。かなり大きいな。」

「それとこれも…。」

「ルビーも採れたんだ。みなすごいな。」


 皆が帰って来てそれぞれの成果品を出していく。

ガーネット21個、サファイヤ12個、ルビー9個、ムーンストーン11個、ブルームーンストーン1個。


「すごいね。これを綺麗に磨いてみんなに渡したいんだけど、どんなアクセサリーがいい?」

「え、ニノ様そのような高価なモノをいただけるんですか?」

「あぁ。既にディートリヒとかは持っているよ。」

「はい。カズ様、このリングです。愛の証としてはめていただきました。」


 ビーイの街で渡したんだった。

既にもらっているディートリヒ、ナズナ、ベリル、アイナはうっとりとそれを眺める。


「ずるいです…、私たちはいただいておりません…。」

「君たちに出会う前にあげたものだからな。

 よし、それじゃ、9個あるルビーとサファイヤ、ムーンストーンでネックレスを作ろうか。

 アデリンさんに頼んで、とびっきり良いモノを作ってもらおう。」

「はい!ありがとうございます。」


 皆ニコニコしながらサンドウィッチを食べ始めた。

今回のピクニックは鑑定魔法の向上にとって良い機会になった。

皆の魔法が上達していくことを願うよ。


 そう思いながら、サンドウィッチを食べつつ俺も鑑定をしてみる。

サファイヤ、ルビー、ペリドット…うん、これらを研磨して売り出せば大金になるね。

そう思いつつ、地中深く鑑定していく…。

ん?火山帯にはなかなか見つからない鉱物を見つけた。

これがあるって事は、この地域は既に火山が沈静化しているという事か…。


 鑑定した鉱石を集合魔法で一点に集める。そして、その鉱物を抽出する。

お、結構集まった。それに大きいのもある。

 

「主殿、先ほどから何をやっておられるのですか?」

「ん、これか? 今地中の深いところから鉱石を取り出すことをしているんだけど…、

 うし!出てきたぞ。ベリル、これ何だと思う?」

「はて?表面は白いのですね。それに透明なものもあります。」

「カズ様、その“たいやまんと”というものは何でしょうか?」


 知らない鉱物だとそう鑑定されるのか、たんなる笑いを取っているのかは知らないが、敢えて言おう!

『ダイヤモンド』だ!と。


「これはな、“ダイヤモンド”と言うんだ。アイナ通訳頼む。」

「社長、ダイヤモンドですか?」

「ダイヤモンドというんですね。しかし、先ほどは見つかりませんでしたが。」

「あぁ、これは地中深くにあるモノだから。今大分奥の方まで鑑定したからね。」

「主殿、これだけの量の鉱物をどうするんですか?」

「うん。そうだな。この石は結婚や婚約するときに相手に渡す石なんだよ。

 だけど、俺は結婚と言ってもメリアさんしかいない。でも伴侶が居る。

 だから、俺が愛した女性全員にこれを贈ろうと思う。」

「社長、なんかさっきの石よりも濁っているように感じるんですけどね…。」

「アイナよ、そんな事言ってるのは今のうちだけだ。

 いいか、見てろ。新しい魔法を使い、この石を皆がびっくりするくらいの石にしてやるよ。」


 風魔法、土魔法を駆使し、風圧に石を混ぜやすりのように研ぎ始める。

そう、研磨だ。

 

「よし、“ポリッシュ”!」


 テーブルの上に置いた1個の石がだんだんと輝き始めた。

イメージはこれまでの世界で妻に渡した給料3か月分のダイヤモンド…。

地方公務員の給料なんてたかが知れているから、そんなに良いモノを買ってあげることができなかった。

それに、後々聞いたのだが、婚約指輪で渡したダイヤモンドの指輪は縦爪のリングで、なかなか使い勝手が悪く、誰かの結婚式くらいしか使うことが無いとぼやいていた。

それに、カラーだとかカットの中にもランクがあるようで、光に当てるとハートが浮かぶようなモノが良かったと言ってたが、光の屈折具合でハートに見えるなんて、凄い技術だな、と感心しただけだった。

その後、妻はロマンが無いとか愛がないとか言って怒り狂い、宥めるためにもう一つダイヤモンドを買わされたことを思い出した。

今思えば、あれは妻の戦略だったのかもしれないな。


 だんだんとキラキラと輝き始めた。

シンメトリーとなるよう注意しながら研磨を続けていく。


・・・


出来た。

うん。まぁ、最初にしては上出来だろう。


「アイナ、これでも欲しくないか?」

「ふぇ…、なんですか、このキラキラ輝く鉱石は?

 これがダイヤモンドっていうものですか?」

「あぁ、この輝きは永遠の輝きだとか言って、俺が居た世界ではすごく高く売られていたんだ。

そうだな…、この大きさだと2カラットはあると思うから、この石だけで金貨2枚くらい、そして研磨の技術料や金属代を入れると金貨5枚はするだろうな。」

「金貨5枚ですか…」

「おい、アイナ、それをポケットの中に入れるんじゃない。」


 この石はまだまだ小さいくらいだ。3カラットくらいになる石が、ひぃ、ふぅ、みぃ…29個あるな。


「んじゃ、この石を君たちにプレゼントするけど、アクセサリーはイアリングにするか。」

「え、2個も?金貨10枚? あふぅ~・・・」


 アイナが目を回して倒れた。


「いや、金貨10枚は石だけの値段だ。それにイアリングの台座とかをミスリルで作る。

 そうすると、金貨20枚にはなるね。

あ、今度試してみたいんだけど、石が付いたミスリルのネックレスにマナを流すとどうなるかやってみようか…。

 そうすると、余計に光り出して…」


「主殿がまた違う世界に行ってしまわれた…。」

「ベリル、あれは違う世界というよりも、お金儲けというどす黒い世界ですね。

早くカズ様を引き戻しましょうか。 chu」

「ん?あ、ごめん。また考え事していたね。

 まぁ、こういった鉱物が山から採れるんなら、元手タダで大金持ちになれるよね。」


 俺はどす黒い笑顔を皆に見せると、昏倒しているアイナ以外が青ざめた。

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