3-7 掃討戦①

「ちょっと待ってね。今準備するから。」


 俺は、魔銃にマナを100%充填し、万が一のために八つ〇き光輪を5つ出す。

マナはまだ大丈夫だ。

 そう言えば、ディートリヒを治癒した時、神様からマナがどうとか言われたなぁ~と思い出しながら、今度レルヌさんに調べてもらおうと考える。


 足音を忍ばせ、巣の全体が見える小高い場所に行き、様子をうかがう。


 巣はディートリヒが喜ぶゴブリンの巣だった。

茅葺屋根の小屋を中心に周りに10個の小屋がある。

 各小屋に5体居ると想定すると約50体以上いることになる。

それに、上位クラスのゴブリンが存在している可能性もある。

それもそうだ。これだけの集団をまとめていくには、相応のクラスのゴブリンが居るんだろう。


「ディートリヒ」

「はい」

「ここには50匹以上ゴブリンがいるようだ。俺の魔銃でどれだけ倒せるか分からないが、さっきも言ったように、10匹以上、ディートリヒが行けると確信できない数が残ったら、トンズラする。それで良いか。」

「仰せの通りに。」

「うん…。ディートリヒ、君の意見をしっかりと言わないと今まで通りになっちゃうよ。」

「あ、そうでした。すみません。では、僭越ながら10体であれば問題はないかと。」

「上位種もいるようだが、その点は?」

「上位種にもよりますが、魔法を放つゴブリン・メイジだと厄介です。それとそれよりも上位種となるゴブリン・キングとなると私では倒すことが難しいかと…。」

「うん。その答えがディートリヒが見出した答えだ。自分はその意見を尊重する。」


 ディートリヒは嬉しそうにモジモジしながら微笑む。


「ご主人様、私のようなものの意見をお聞きになるのですか?」

「そうだよ。少なくとも修羅場をくぐっている回数は、ディートリヒの方が多いから、経験豊富なヒトの意見を聞かなくちゃ、生きていけないよ。」

「上に立たれるお方が、そのようなお考えで良いのでしょうか。」

「自分はそれで良いと思う。部下の命を預かる将が、気合で攻めろとか無策で突っ込めとか、何としても死守せよなんて命令出すなんてバカ以外ありえない。」

「私は、これまでそういった将にしか遇ったことがありません…。」

「では、今回が初めてだね。」

「はい。将が部下の命を守るという言葉も初めてです。」

「え、そりゃおかしいよね。だって、一兵卒にだって家族がいるんだよ。そのヒトたちの事まで考えてあげなくちゃ、将として失格だよ。」

「上に立つ将とは、そういうものなんですね。」

「そういうもんだと思うよ。」


 まぁ、説教めいた会話をしていたが、着々と準備を進めている。

先ず、中央の小屋に出力30%で撃つと同時に充填したマナを確認しつつ、2発目が撃てるのであれば、2発目を着弾場所を変えて撃つ。それを繰り返し魔銃のマナが無くなったのを確認し、残りが10匹程度であれば近接に持っていく。その中に上位種が居れば俺の光輪を投げつつ、上位種の攻撃力を割きながら駆逐。もし10匹以上残っているのであればトンズラ。


「準備はいいかい?」

「はい。いつでも。」

「んじゃ、行くぞ!」


 俺の掛け声とともに二人の周りに光が集まり消える。

バフの効果が入ったってところか…。

 俺たちは魔銃の射程範囲内の距離まで近づき、先ずは中央の小屋に一発撃ちこんだ。


 ボシュッ!


 凄い反動だった。ディートリヒも俺が後ろに飛ばされそうになったため、後ろから支えてくれた。

と言っても、力いっぱい抱きついたようにも思えたが、まぁ何も言わないでおこう。


「衝撃波が来るぞ。」


 俺たちは地面に臥せる。と同時に衝撃波が飛んできた。

衝撃波をやり過ごした後、魔獣の充填量を見ると約3分の1が消費されている…。後2発撃てる。


「2発目行くぞ。」


即座に2発目を中央よりも左方向に向け撃ちこむ。

衝撃波を避け、残りの1回をどこに撃ちこもうと前方を見ると、何やら空中に円形の光が見えた。

多分、ゴブリン・メイジの魔法のようなものだろう…、光る地点に向けて最後の一発を撃ちこんだ。


 衝撃波を避け、ゴブリンの気配を索敵すると、中央に一体、遠方に5,6体居るような感覚がある。


「ディートリヒ、遠方5,6体任せられるか?」

「はい。お任せください。」

「んじゃ、俺は中央の一体に向かい、そいつを倒してからディートリヒのところに向かう。」

「ご主人様、どうかご無事で。」


 ありゃ、それってフラグだよ…。

なんて思いながらも、巣の中に突入した。


 注意すべきは中央に居た奴か?それとも遠方の敵か?

俺が一体倒すのが早ければディートリヒの援護に回ることができるし、ディートリヒの方が早ければ俺を援護してもらえる。そんな事を考えながら、5つの光輪を投げつける準備だけはしておく。


「ご主人様、前方に敵。あ、あれはキングです。」

「分かった。先ずは遠方の敵を倒してくれ。それが終わったら援護を頼む。」


 俺たちは直進し、ディートリヒは左手に向きを変え走り去った。

 


 前方には、ゴブリンにしてはデカすぎる個体が立っていた。

 光輪5つすべてを奴に当てる準備をする。

射程距離までもう少し…俺としては一生懸命走ってると思うのだが、兎に角辿りつくまで長く感じる。

刹那、ゴブリン・キングが何かを投げつけてきた。


 遅かった…、気づいたものの、おっさん急に止まれんよ。

20m以上先から投げつけられたものに見事にぶち当たり、吹っ飛ばされた。


「げふっ!」


 右の胸から肩にかけて激痛が走り、意識が遠のきそうになる。

よろよろと起き上がり、奴を見れば剣を持ちながら走ってくる姿がある。


 5つの光輪はあるか?と頭上を見るが、吹っ飛ばされた際に消失したらしい。

すぐさま5つ光輪を出し、奴目掛けて投げつける。

射程距離を測っている時間もない…、奴に当たるよう願う。


「当たれーーーー!」


光輪5つがゴブリン・キングに向かって飛ぶ。


 1つ目の光輪が剣を持っている腕を切り落とした。

 2つ目は、右の脇腹をえぐった。

 3つ目は、右の太ももを切った。

 4つ目は、右の足首を切り落とした。

 5つ目は、当たらず、消失した。


 4つの光輪が右半身に集中し、ゴブリン・キングはたまらず地面に自身の身体を打ち付けた。


 これで、形勢逆転…と思うも、俺も身体が動かない。

畜生、齢は取るもんじゃない…、そう思いながらも3つの光輪を出し、這っている奴に当てる。

今度は3つとも頭に命中し、頭部を切り刻み絶命した。


 終わった…、と一息つくも、すぐにディートリヒのことが心配になった。

 俺はゴブリン・キングの亡骸を後目に、わずか50mくらい先で戦っているディートリヒの援護に向かうため、ヨロヨロと歩き始めた。

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