10-21 ダンジョン・マラソン in クローヌ②
居合刀を持って前に行く。
刃は潰してある、所謂模造刀だ。
そんな刀で切れる訳がないのだが、マナを込めることでどれくらいの威力になるのかを知りたかった。
それが可能だと分かれば、俺も刀を持ってみたい…、ただそれだけの事だ。
そう、単に俺の我儘なんだけど、女性陣が強いのを見ていると、どうしても俺も何かしなくちゃいけないんじゃないかって思ったのもあるんだけどね…。
まぁ、強いところを見せておかないとね!って感じで対峙した。
相手は3mもの大きさの一つ目。フレイムサイクロプスとかいう魔物のようだ。
利き腕には金属のスパイクを持っている。当たるだけで死ぬだろう。
それをどう避けて、刀を抜けるのか…。
ハイ、単にかっこつけたかっただけです…。
一つ目のデカい奴は俺を見るなり、ニヤリと笑いやがる。
確かに齢は食ってるよ。あ、いかん、挑発に乗ってしまうところだった。
俺は掌を上にし、クイクイっと手招きする。
はは、大きい奴怒ったわ…、突進してくる。
一回目の突進でデカい奴は右手に持ったスパイクで殴りつけてくる。
避けることは何ら造作ない事だが、そこから抜き身で一刀入れるタイミングがつかめない。
であれば、と抜き身の練習をデカい奴で何度もやってると、だんだんとタイミングが分かって来た。
その間、デカい奴も攻撃パターンを変え殴る、蹴る、突進するといった事をしてくる。
そう言えば、近接攻撃は紙だと思っていたが、どれくらい紙なのか試したことが無かったなぁ…。
当たると痛い、死ぬという感覚があれば、もっと強くなれるだろうか…。
いや、当たると痛いぞ…。
などと考えている間に、デカい奴の左腕が俺に当たり、壁まで吹っ飛ばされた。
「カズ様!大丈夫ですか!」
ディートリヒが声をかけてくれる。
やっぱり痛い。こういった攻撃を食らわないように立ち回ることが必要なんだな。
しかし、そう考えると、うちの女性陣は強いな…。攻撃を受け流しながら魔物を倒しているんだから。
「あぁ、大丈夫だ。地味に痛いけどね。」
ちょっと強がりを言ってみる。
女性陣を心配させてもいけないので、魔銃を出し一発。
デカい奴ははじけ飛び、事切れた。
「カズ様、お怪我はありませんですか!」
「あぁ、“毛が無い”だけに、ケガはない…なんちって。」
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何故か女性陣に取り囲まれながら正座させられている…。
「カズ様、もうあんな危ない事はしないでください!」
「そうですよ。お館様は後衛職です。魔法で敵を倒すというお役目ですので、近接戦はしなくてもよいのです!」
「近接戦は、私どもに任せていただければ問題はないです!主殿は主殿のお役目を全うしていただくだけで、戦闘は終わります!」
「あの…、シェルフールのお約束無しで、私たちを路頭に迷わせることだけは避けてください。」
「魔法もまだまだ教えていただけなければなりません!イチ様がいなくなれば、それができないんですよ!」
「はい…。ごめんなさい…。」
全員に叱られた。
「で、主殿は何をしたかったのですか?」
「はい。居合切りというものをやりたかったのです…。」
「その居合とは?」
「相手の攻撃をかわし、抜き身をしている際に抜刀して相手を切るという技です…。」
「そんな技があるのですか?」
「お館様、それは私のような斥候役が得意とする技だと思います。
一度お見せしますので、ご確認いただければ。」
ようやく正座タイムが終わり、次の魔物の部屋に行く。
ナズナが魔物の前に行き、魔物の攻撃を避けつつ抜刀。一閃のもと魔物を駆逐した。
「お館様、この技でしょうか。」
「はい…。まさにその技です…。」
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また正座タイムが始まった。
「では、何故この技をお館様がお使いになりたいと思われたのですか?」
「はい…、恰好よかったからです…。」
「はぁ…。やはりお館様ですね…。
魔物を倒すのに、恰好いいとか恰好悪いといった技はありません。
今、お館様が使っていらっしゃる魔法は恰好いいです。私たちには使えません。
ヒトそれぞれ戦い方のスタイルがあると仰って下さったのはお館様ですよ。」
「すみませんでした…。今後は後衛でバンバン魔法を撃ちます。」
「いえ、それでは、私たちの練習にはなりませんので、お館様はいつも通り雑魚を一掃していただければ私たちは問題ありません。」
雑魚担当係として任命された…。
後ろでミリーと二人で粛々とやろうと思うが、ミリーは砲台としての役目があるらしく、殲滅に向けた魔物の弱体化などを行うようだ…。
ニコルもバフと治癒という事で役目がある…。
「なぁ、みんな…。俺、パーティーに居る必要ある?」
「カズ様、何を仰っておられるのですか?
カズ様がいなければ、これだけ皆が円滑に魔物を倒すということはないのですよ。」
「いや…、俺、最初のバフかけただけだし、ボス部屋の雑魚撃っただけだけど…。」
「それで良いのです。
カズ様はダンジョン内で唯一、私たちを休息させていただける方です。
それに、温かいお食事も作っていただけますし、」
ん?俺、いつの間にか癒し系兼食事係だったよ…。
「それに、ダンジョン内で愛していただけることは、少し興奮しますから…。」
やっぱりそっち系か…。
30階層に到達する。
ここのボスは、蛇だそうだ。名前はヴリトラだったか…。
「で、ここも俺は雑魚掃除でいいか?」
「いえ、今回はカズ様に氷魔法で一掃していただきましょう。
ニコル、結界をお願いしますね。カズ様の魔法は威力が凄いので。」
「そんなに凄いのですか?」
「実際に体験するのも良い勉強ですね。」
何か俺、反面教師的な扱い?
「まぁ、いっか。それじゃ行きますかね。」
ボス部屋に入っていく。そこには大きな火を吐いている蛇が居る。
周りも蛇だらけだ。女性陣は引きつった顔をしている…。
あ、そう言う事か…、女性陣、蛇が苦手なんだ。
よし、ここは男らしく一発で行きましょう!
「それじゃ、行きますよっと。“フリーズ!”」
前方に白い靄がかかり、魔物の行動が止まった。
それと同時に俺はウィンドカッターでボス部屋の魔物を切り刻んでいった。
「見ましたか?ミリー、ニコル。
これがカズ様の魔法です。」
「はい…、ここボス部屋ですよね…。なぜに5秒もかからず終了なんですか?」
「それがカズ様の魔法の威力なんです。
下手すれば、私たちも凍りますので。」
うぉい!俺は凍らないぞ!それにみんなが凍らないようにちゃんと後ろから風を出し冷気がこちらに来ないような配慮もしているんだ…。
とは言え、久しぶりの魔法での掃討は気持ちよかった。
どんどんと進む。
35階層はワイバーンの炎版、名前は何だっけ?スヴァローとか言う奴だ。
燕のような名前だな、と思うも、ボス部屋に入り、ミリー以外の5人で飛んでいる5匹を“グラビティ”で地上に落としていく。その後はミリー初の氷魔法。うん。連携も完璧。
「しかし、皆氷魔法と重力魔法が上達してるね。」
「魔法は実践あるのみですから。」
皆がふんすかしている。
「それじゃ、40階層行きますか!」
「はい((((はい))))。」
栄えある40階層。そして敵はレッサードラゴン…。
ボス部屋に入る。
「あ…。」
「はい?」
「同じ…、ですか…。」
シェルフールで見かけたトカゲさんがそこに鎮座しておりました…。
皆の怒りが爆発し瞬殺…。
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「シェルフールのダンジョンと同じだって事は、ここの40階層ってシェルフールの30階層?」
「お館様、ここまで来るまでが強い魔物だったという事でしょう。
よく言うではありませんか。
期待して来てみたら、がっかりしたという建物とか彫像とか…。」
「そうですよ。前評判だけ凄くて残念なヒトもいますね。」
皆、フォローになっているかならないのか…。
まぁ、40階層まで来たので、転移石でダンジョン入り口に行く。
所要時間約6時間半…。まぁこんなもんですかね。って、俺何もしていないんですが…。
ギルドに行き、帰投の報告とドロップアイテムの買い取りをお願いしたが、アイテムがアイテムなだけに査定に3日はかかるとの事だ…。
なので、簡単な査定ができるものだけ売ることにした。
それでも金貨3枚にもなった。ダンジョンマラソンも効率よく回れば金になるって事だ。
ギルドを出て宿屋に向かう。
後はアイナの報告だな。
宿屋に入った途端、酒の臭いが蔓延している。
凄い匂いだ…。でも、この匂いを知っている。
テキーラだ。
完全に出来上がっているドワさんズが居た…。
それを横目に静かに部屋に上がろうとすると、アイナに見つかった…。
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