10-22 クローヌのこれからを考える

「社長ぉ~、待ってましたよぉ~。」

「お、おぅ。ただいま。」

「はい~。お帰りのチューはないんですか?」

「そんなものある訳ないだろ、この酔っ払いが。」

「そんなぁ~、ご無体ですよぉ~。」


 完全に酔っぱらってるよ。

テーブルの上にはテキーラの空き瓶が転がっている…。

テーブルの向こう側を見ると、数人のドワさんズが座って?あ、寝てるよ。


「で、アイナ。この人たちがドワさんズで良いのか?」

「ひゃい。そーです。」

「みんな、寝てるが…。」

「あ、ホントですねぇ~。」


 アイナがケラケラと笑っている。


「で、どうすればいいんだ?」

「こうなっては起きるまで待つしかありませんが、社長からいただいたお酒をいっきに飲んでましたから、こりゃ朝まで起きませんね。」

「それじゃ、仕方がないからこの人たちの部屋も取ってあげて。」

「ひゃい。でも、どうやって運ぶんですか?」

「そりゃ、みんな…、あ、みんな女性だったな…、仕方がない。俺が運ぶよ。」

 

 ドワさんズ4人を2部屋に押し込める…、もとい、2部屋に寝かしつける。


 まだ夕方だと言うのに、仕方がない…。

取り敢えず部屋に戻り、着替えをした後に皆で街に繰り出した。

勿論、アイナは酔っぱらっているので部屋でお留守番兼睡眠担当。


「イチ様、あまり活気がありませんね。」

「そうだな…。鉱石がなくなりかけているからかな?

 そう言えば鉱山で働くヒトってのは、ドワさんなのか?」

「いいえ、ヒトもいますし、それに奴隷も多いですね。」

「あ、思い出した。確か重罪人が鉱山に送られて人夫をするって話だったか?」

「そうですね。しかし、それは鉱石がたくさん有る場合でしょうね。

 ここは、何が出るのかは分かりませんが、閉山間近というところなのでしょうね。」

「それならそれで問題はないけどね。」

「え、主殿、それはどういった理由から問題は無いとお考えになるのですか?」

「先ず、人口が爆発的に増えることがないから、新しく入ってくるヒトのことを考えなくても済む。

 今住んでいるヒトの生活を守るため、公共浴場と宿泊施設などの建設と運営を任せる。

 そうすれば、何か新しいモノが出てくる可能性もある。

 それに、ダンジョン。

 強いのか弱いのかは分からないが、もし、熱耐性の装備などを展開できれば、冒険者も増える。」

「カズ様、そんなに上手くいくのでしょうか。」

「まぁ、宿屋に帰ってから、地図とにらめっこしよう。何か面白いモノが見えてくるよ。な、ナズナ。」

「へ、お館様、何故、私に振るんですか?何かあったでしょうか?」

「宿屋に戻ってからのお楽しみだよ。」


 一軒の食事処に入り、夕食を頼む。

野菜は少ない。しかし魔物の肉、レッド〇ルなのだろうか、赤みの肉が妙に美味い。

もしかすると、火鍋やシチューなどもいけるかもしれない。あ、火鍋は野菜がないと難しいか…。


「食事についても、何かこれ!というものがあると良いな。」

「それでしたら、是非トンカツを!」


 ナズナさん、トンカツラブだもんな。


「確かにオーク肉を使ったトンカツはいけそうだけど、ダンジョンにオークだけを狩り尽くすことになると事だよな。」

「カズ様、私はあのパスタとかいう長い食べ物が良いと思います。」

「パスタか…。そう言えばここはドワさんズが多かったよな。であれば、ミンチの機械もパスタマシーンも作れるか…。それにパスタなら、この街で、パスタコンクールみたいなものを開催して、街あげてパスタを作りまくるってのもあるな。

 あとは具材か…。ここの特産品って何がある?」

「あまり無いですね。強いて言えばダンジョン産の肉など…。」

「そう言えば、ここのあたりは魔物は外に居ないのか?」

「いるにはいますが、少ない、というより皆無ですね。」

「それは何故?」

「火山帯に龍が住んでいるとの話です。」


 キター!テンプレ!

龍だよ。ドラゴンだよ!

でも、トカゲだとまたがっかりするよな…。


「またトカゲじゃないだろうね?」

「それは分かりません。何せ誰も見た事はありませんから…。」

「噂か?」

「分かりませんね。ただ、火山帯はどの国の領土でもありませんので、はるか大昔に何かあったのではないかとは思いますが…。」


 信ぴょう性の無い話ではあるが、一度神様にでも聞いてみよう。

そう言えば、何かそんな事を言っていたような気がするが、おっさんの記憶力というスキルはほぼ無いから…。


 夕食を終え、皆で宿屋に戻り俺の部屋で話すことにした。


 部屋にあるテーブルにギルドで買った、この大陸の地図を広げる。


「さて、今俺たちが居るクローヌはここで間違っていないか?」

「はい。」

「で、ここがシェルフール、ノーオ、ビーイとなる。

 そして、ノーオから東に行くと湖があり、その北にレルネさんの郷がある。

 ここまでで質問は?」

「ありません。」


 こうやって、ひとつひとつ確認していくと皆が理解できる。


「では、ナズナ、レルネさんの郷でコカちゃんだっけ?テイミングしたよな。」

「はい。いっぱい居ます。最近会っていないので寂しいです。」

「では、その郷からこのクローヌまで、山づたいにこう動けばどうなる?」


 俺は、レルネさんの郷の北側にある山からクローヌまで指さす。

そうなんだ。今まではシェルフールを起点としてたので、“く”の字にカーブしなければならなかったが、直線で行けば最短ルートとなる。


「あ、お館様、もしかしてエルフの郷とここクローヌを繋げようとしているのでしょうか。

 そして、その手段としてコカちゃんを、と。」

「さすがナズナ。ご名答です。」


 ナズナの頭を撫でる。

皆が羨望の眼差しでナズナを見、次は私だと思わんばかりに頭脳をフル回転させている。

うん。皆が良い方向に進み始めてきたね。


「レルネさんの郷には、湖産の水属性のアイテムがごまんとあるよね。

 そのアイテムをクローヌで売り、郷に無い肉類なんかを売る。

 勿論、シェルフールからも物資を輸送し、交易を始めるとどうなるかな?」

「クローヌが活気づきます。

 それに、温泉と公共浴場です。シェルフールの観光名所と合わせると相乗効果となりますね。

お館様、温泉と公共浴場だけではお風呂に入るという目的だけになってしまい、滞在してお金を落とすということは無くなります。」

「だな。そこでもう一手打つ必要があるという事だ。」

「イチ様、もう一手と言いますと…。」

「誰もが楽しめる施設を作る事かな。」

「楽しめる施設…ですか…。」

 

 皆が真剣に考え始める。

さぁ、何か良い案が出てくるかな?


「色街ですか?」

「それはノーオにあるし、ザックさんに迷惑がかかるね。もし、ザックさんが支店をここに開きたいって言うのなら、それは考えておくけど、それだけではヒトは呼べないね。」

「ダンジョン巡りでしょうか?」

「ダンジョンはレベルが上のヒトしか無理だよな。それにダンジョンって一個しかないんでしょ?」

「温泉めぐりはどうでしょう?」

「惜しい!でもその考えはあるね。いろんな鉱物や薬草を入れて温泉を楽しむことも有だ。

 んじゃ、ヒントを出そうか?」

「“ひーんと”とは何でしょうか?」


 またやってしまった…。俺のカタカナは通訳が爆睡している時は不可能だ。


「答えを導くための手掛かりってことね。」

「では、そお“ひーんと”というのをお願いします。」


 まぁ、“ひーんと”でも“ひんとぉ!”でも良いんだけど…。


「公共浴場は男女別々だよな。」

「主殿、私たちは違いますよ。」


 そこは否定しないで欲しいです。俺としては皆と入るのは楽しいから良いんだけど。


「うん、ありがとね。俺も皆と一緒に入りたいよ。

 でも、普通のヒトは?例えばトーレスさんやカルムさんはどうなんだろうね?」

「男女別々に入浴することとなりますね。でも、お風呂に入るというのは貴族だけですから…。」

「だよね。だから、皆にお風呂に入る壁を取りつつ、お風呂って気持ち良い事なんだって知ってもらいたいんだよ。

 それに、身体を清潔にすれば、病気を防ぐこともできるって知ってもらいたい。」

「それは、カズ様が良く言われる“お風呂は正義だ”という事につながるのでしょうか。」

「そうだ。風呂は正義なんだ!」


 俺はのけぞりながらふんすかしたが、皆が引いている…。

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