12-13 心の傷…

 どれくらいの時間が経過したのだろう…。


 どれくらい歩いたのだろう…。


 俺は何処へ行くのだろう…。


そして、何処に行きつくんだろう…。


 何も見えなくなった。


「メリアさん、レルネさん…すまない。」


「ディートリヒ、ナズナ、ベリル、スピネル、アイナ、ミリー、ニコル…すまん。」


化け物か…。

言い得て妙だな。


一人笑みを浮かべる。


 どれだけ格好つけたっておっさんはおっさんだよ。

一人では何もできない。

それでも一人で何かをしようとすると、最悪な結末となる。

自分の実力を知れ、という事だな。


 あ、これ、完全にSuicideモードだ…。

何とかしないといけないな…。

ただ、何もしたくないというのが事実。


 さっきから、何度も何度も念話が入って来るって事は、まだ街からそんなに離れていないんだろう。

あぁ…騒々しいなぁ…。

はは…、俺も廃人の仲間入りだな。


 当てもなく歩く…。

服を引っ張られる。

引っ張られた方を見ると、汚い恰好をした女の子が俺の服を引っ張っていた。


「おじちゃん、どうしたの?」

「どうしたんだろうね。」

「どこへ行くの?」

「何処へ行くんだろうね。」

「おじちゃん…大丈夫?」

「大丈夫かどうかは分からないね…。」


少女は首をかしげながら、俺と一緒に歩く。


「なぁ、お嬢ちゃん、お母さんとかは?」

「ううん。居ない。みんな死んじゃった。」

「どうやって生活してるの?」

「みんなと暮らしてる。」

「みんなって?」

「あそこに居るみんな。」


 指さす方向を見る。

そこには4,5人の子供が集まっている。


「何をして暮らしてる?」

「ここを通るヒトからいろいろともらってる。」

「そうか、たくましいな。」

「おじちゃん、何か食べ物とか持っていない?」

「食べ物か…、何が欲しい?」

「食べるものだったら何でもいいよ。」

「それじゃ、パンなんかはどうだい?」

「パンくれるの?やったー、ありがとう!」


 バッグの中に入ってたフライパンで焼いたパンを3つ渡す。


「おじちゃん、ありがとう。」

「いいよ。でも、パン3つで良いのかい?」

「これだけあれば、一週間は大丈夫だからね。」

「なら、もっとあげようか?」

「え、いいよ。そんなにあっても食べられないから。」

「お嬢ちゃん、こんなところで生活するより、街とかで生活した方が良いんじゃないのかい?」

「だって、私達は街に入れないんだもん。」

「それは何で?」

「親が居ない子は入れないんだよ。そうやって領主さんが言ってた。だから私達はここで生活してる。」

「そうか…、なんだかいばってそうな領主さんだね。」

「見たことないから分かんない。」

「はは、そりゃそうだね。」


子供たちが集まっているところに行く。

他の子どもたちが怪訝そうに見るが、少女がパンを3つもらったと伝えると、笑顔になった。


「おっちゃん、ありがとな。」

「おう!いいぞ。」


 見た所、10歳くらいだろうか。

男の子がお礼を言ってくれた。


「ちゃんと挨拶できるんだな。」

「もらったらお礼を言うのが礼儀なんだろ?おっちゃんはそんな事も知らないのかよ。」

「はは、そうだったね。教えてくれてありがとう。」

「で、何でおっちゃんはこんなところを歩いているんだ?」

「あぁ、何でだろうな。なんか疲れちゃったんだよな。」

「そういう時もあるさ。そういう時は何もしないんだよ。

 そうすりゃ、腹も減らないしな。」


男の子がニカっと笑う。

前歯が抜けて、可愛いな。


「なぁ、おっちゃん。」

「どうした?」

「おっちゃん…、背中から変なモノが出てるぞ。」

「ん?何か出てるか?」

「あぁ。黒いモヤモヤが出てるけど、それは何だ?」

「多分、今のおっさんの思いなんだろうな…。」


 ボーとする。子供たちも動くと腹が減るのか、じっとしている。


「なんか、平和だな…。」

「“へいわ”ってなんだ?」

「何も無いってことかな。」

「はは、食物もないから“へいわ”か。」


 時間がゆっくりと過ぎる。

街道で馬車が行き交う。旅人が速足で街に向かう。

ヒトそれぞれ目的があって動いてる。

家に帰る者、商談に行く者、商売をする者…。


「こうやってヒトを見てると面白いな。」

「あぁ、面白いぞ。おっちゃんも分かるのか?」

「いや、分からないが、お前…あ、名前は何だ?」

「名前なんてないよ。おとうもおかあも、おいらの事を“お前”とか“おい”しか呼ばなかったから。」

「そうか…。

 なぁ、今、お前は生きてて楽しいか?」

「生きてるってことか?生活は大変だけど、毎日面白いことがあるからな。」

「面白い事?」

「うん。昨日は街道を歩くおっさんがあの石ころに躓いて、持ってた荷物がバラバラになっちゃたとか、昨日の前は、あそこの鳥の巣の卵が雛になったとか。」

「そうか。面白いか。みんなもそうなのか?」

「うん。おいちゃん。楽しいよ。」


良い返事だし、笑顔が良い。


「もっと良い生活とかしたくないのか?」

「良い生活って何だか分からないけど、毎日食べ物があると嬉しいね。」

「そうか…。なぁ、おっちゃんと少し旅するか?」

「旅?ここから出るってことか?」

「あぁ、おっさんな…、ここから西にずーと行ったところの街に住んでるんだ。」

「おっちゃんは家があるからいいじゃないか。

 でも、俺たちは家はないぞ。おっちゃんの街に行っても何もできないじゃないか。」

「いや、あるぞ。

 仕事というか、お手伝いをすれば食事ももらえる街だぞ。」

「お手伝いして食べ物をもらえるのか?」

「あぁ。そうだ。」

「おっちゃん、奴隷商じゃないよな…。」

「はは、おっさん、こう見えて冒険者なんだぞ。」


冒険者証を見せる。


「うわ、ホントだ。かっこいいよな。

 なぁ、おっちゃん、おっちゃんは強いのか?」

「おっさんか?おっさんは…、弱いぞ。」

「なんだ、弱いのか。ダメじゃんかよ。」

「でも、まだ生きてて冒険者をしてるんだ。」

「弱い冒険者が生きてるって事がよく分かんね~。」

「だな。で、どうする?おっさん、お前たちと少し旅をしたいか?」

「ま、いっか。どうせ、ここに居ても何もすること無いし、おっちゃんに付いていって、何か面白いものを探すか。」

「よし!それじゃ、一旦街に戻ってお前たちの服を買おう!

 そして馬車に乗って、おっさんの街まで旅をしよう。」

「おー!」


 現実逃避だな…。

メリアさんは許してくれるかな…。


『すまない。立て込んでた。』

『カズさん、みんな心配してたんですよ。』

『すまない。少し旅に出ようと思う。』

『な、何を言っておられるのですか?』

『まぁ、いろいろとあってね…。』

『そうですか…。では、今回の件は私共で処理をしておきます。

 で、旅とは?』

『街の外で子供たちと出会ってね。その子たちとシェルフールまで一緒に行こうと思ってる。』

『子供たちですか…。カズさんはまだ街ですよね。』

『うん。これから馬車で行こうかな…と。』


メリアさんも俺の雰囲気が違うのを何か察したんだろうか。

敢えて何も言わない。


『では、こちらはみんなに伝えておきます。

 お供はどうしますか。』

『お供は要らない。みんなやる事があるでしょ。その事をやって欲しい。

 みんなに無理させちゃってごめんな。』

『御者はどうしますか?』

『ここにいる子供たちと一緒に勉強してくよ。

 我がまま言って、すまんね。』

『いえ…。でも約束してください。

 必ずシェルフール経由でクローヌに来てください。カズさんの家はクローヌですからね。

私達はシェルフールとクローヌでお待ちしておりますよ。』

『あぁ、ありがとう。

 もうひとつ、ディートリヒを責めないでほしい。これは俺が我がままを言っただけだからね。』

『分かりました。

 街でお会いできますか?』

『今は止めておきたい。

 ごめん…。今メリアさん達に会うと、俺は弱いままで終わってしまうようだから…。』

『はい…。

 でも、私の我がままも聞いてください。

 できれば日々の連絡係にサーシャをカズさんに付けたいです。』

『影か…。別に良いけど、何もしないよ。』

『構いません。彼女はあくまでも影ですので、放っておいてください。』

『…すまない。』


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