12-12 心の中の闇

「生憎、屋敷も女も間に合っていてね。」

「なら、領地はどうじゃ?」

「既に持ってるよ。」

「なら…、」


「おっさん、もう良いよ…。

 あんたが提案してくるものはすべて持っているし、モノで釣るのはやめにしようや。

あ、俺の持っていないモノか、じゃ、情報をくれ。その情報如何によっては助けてやらない事はない。」

「わ、分かった。何の情報じゃ。」

「あんた、2年前くらいに公国と戦争した時に男と女の捕虜をもらったそうだな。

 その捕虜をどうした。」

「そいつらなら、昨年いなくなった。」

「居なくなったとは、どういう事だ。」

「儂の奴隷だったから売りさばいた。それだけじゃ。」

「じゃ、その二人の奴隷に何をした?」

「何もしとらん。」

「そうか…。」


太っちょおっさんの腹を蹴る。


「分かった…、しゃべる。しゃべるから蹴らんでくれ。

 奴隷となった二人を飼って、仲間に見せた。」

「素っ裸にさせ、両肘両膝から下の部分を切り、四足歩行をさせ、家畜のように扱ったんだよな。」

「何でそれを知っとる?おまえもその中に居たのか?」

「生憎居なかったな…。」

「戦争で負けた捕虜じゃ、何をしても問題はなかろう。

 それに、負けるとどうなるのかを身内にも分からせる良い機会となった。」

「ほー。身内にその捕虜がまぐわっている姿を見せるのも、戦争に負けるとどうなるかを分からせるものなんだな。」

「お前、何を言っておる!所有者が奴隷に何をしても許されるじゃろ。」

「両肘両膝から下を切り、舌も切断し、四つ足で歩かせることも許されるって事か?」

「あぁ、そうじゃ。」

「なら、何で売りさばいた?」

「不要となったからじゃ。」


ダメだ。こいつ、あかん奴だ…。

何言っても反省しないし、自分が正当であると信じ切っている。


「はぁ…、もう話すのも疲れたわ…。」

「なら、儂らを助けてくれ。」

「だから、何で?

 じゃ、こうしよう。あんたたちの縄を解いてやる。

 そこから俺が10数えるから、俺の視界から消えれば助けてやるってのはどうだ?」

「10じゃダメだ。せめて50にしろ!」


やっぱ、こいつダメなやつだわ…。

10も50も変わらないよ。


「まぁ、いいや。

 んじゃ、先ずそこでちびってるおばはんから行くぞ。

 じゃ、開始!」


縄を切って数え始める。

おばはん、10くらいまで放心状態だったが、我に返って行動を起こし始めた。


25あたりまで数え、ふと、おばはんの方を見る…。

え、うそ…、まだ10mも離れていないのかよ。

あ、腰抜かしてるわ。這いつくばりながら四つ足で動いてる。


「なぁ、そこの太っちょのおっさん、ああやって奴隷も四つ足で動いていたんだよな…。」

「…」


声も出ないんだろうね…。

太っちょのおっさんが奴隷にしていた事と同じ四つ足だもんな。

しかし、太っちょだから、行動がのろいんだよ。

どうせ逃げることはできないだろうから、早めに石化をかけて固まらせてあげようか。


「な、何だ…?」

「あぁ、あの辺りだが、さっきまでバジリスクが居たからな。

 まだ、石化の何かが残ってるのかな?

 おばはんは残念でした…。んじゃ、次はあんたな。」


縄を切り、数を数え始める。


「ちょ、ちょっと待て、まだ準備ができとらん。」


そんな事知るか。数を数えていく。

20まで数え、10m程離れた太っちょのおっさんにエアカッターを浴びせる。


「ぎゃ!」


太っちょおっさんのところまで数を数えながら近寄っていく。


「く、く、来るなぁー!」

「来るなって言ったって、数は数えてるんだし、それにあんた膝から下なくなっちゃったじゃないか。

 どうするんだ?」

「た、たすけて…。」

「だから、何で?」


数を途中から数え始める。


「47…48…49…ごぉうじゅー。も~い~かい?!」


太っちょおっさんを見ると、蒼白な顔をして漏らしている…。

近づくと、後ずさりしながら、『怖い…、怖い…』などと言ってる。


「なぁ、あんた…。最後に言っておくぞ。

 あんたが奴隷…じゃなくて、家畜以下の扱いをしていた捕虜な…、今は俺の女房なんだ。

 もう、女房の苦しい姿を見るのも嫌だから、俺があんたを葬るよ。

 ただな、楽に逝けるとは思うな…。

 彼女が経験した1年間の生活…。あれを想像してみろよ。あの生活を体験してみろよ。

 何度も言うぞ。

 俺の女房は、あんたが素っ裸で四つ足にさせ、公衆の面前でまぐわっている姿をさせられたんだ。

 その代償がどれくらいのものかは分かるよな。」


「あ…、あ…」


思考能力が無くなって来たか?

ダメな奴ほど、思考回路が単純ですぐいかれるんだよ。


「で、そろそろじわじわと逝ってもらおうかね。」

「あ…、あ…く…ま…。」

「はは。俺を悪魔だと? 良いねぇ。その言葉と面構え。

 そうだよ。俺は悪魔だ。

 ま、悪魔を実際に見た事が無いから、どんなモノかは知らないがな。

ただし、覚えとけ!

 ヒトは誰しも心の中に悪魔が居るんだ。

それが、ヒトをヒトとして扱わなくなった時に生まれた悪魔なのか、殺すことに快感を得た時に生まれた悪魔なのか、はたまた、魔界を治める悪魔なのかの違いだ。

 それとな…、死んだ先に何があるのかは知らんが、先ずは一足先に死んじまった男の奴隷に土下座して謝りな。あと、女の方の奴隷を恨むな!これから苦しむお前が恨む相手は、この俺だ。」


 そいつの切れた膝に石化をかける。


「ほら、徐々に石化されていくんだ。今は膝だろ、次は腿、次は尻か…、

 あ、面倒くさいから手にもかけとくか。」


 ドス黒い闇の笑みを浮かべていたんだろう…。

俺、やっぱ悪魔かもしれないな…。


 そいつが、徐々に石化していく姿を見つめながら、既に石化した奴の上にグラビティをかけ、あたかもバジリスクに踏みつぶされたようにしておく。

馬車も壊しておくか。


 粗方片付けて、太っちょおっさんのところまで戻って来ると、ようやく胸の辺りまで石化している。

俺の仲間に手を出すとどうなるのか、これで分かっただろう。

って、分かったところで誰にも言えないんだけど…。


「さて、おっさん。

 そろそろ終わりにするか?それとももう一度助けて欲しいか、どっちだ?」

「は…、早く…、コロセ…。」

「んじゃ、殺さないっと。スーパーヒール!」


ブワッとマナが持って行かれる。

太っちょおっさんの石化が無くなり、膝から下も徐々に再生し始める。


「うぉ…、な…、な…」

「なんじゃこりゃ?って言いたいのか?ま、これがヒーレスだな。

 んじゃ、もう一度、『ペトリ!』」


 石化を行う。

先ほどの光明から一気に闇に引きずられたのだろう…。もう感情も無くなっている。


「そうだよ。お前が今味わっている気持ちを彼女は1年間経験したんだ。

 その代償は払ってもらうぞ。」

「す…、すびばせんでした…。」

「今謝ってもどうしようもないぞ。それに謝る相手を間違えている…。

 …。

 あ~、なんかもういいや…。奴隷たちの恨みはまだまだあるとは思うが、後は死んだ後の世界であんたが責任を取りな。

 じゃぁな。『ペトリ』」


 完全に石化した。

ディートリヒの仇は討った。もうあんな思いをすることもない。

あとは、笑顔で生きてくれればそれで良い…。


 完全に全滅していることを確認し、フロートで街の外れまで戻る途中、いろいろと考える。

自分の手でヒトを殺めたことに抵抗もあったが、”ディートリヒへの恨み”が勝り、勢いで殺してしまった。

 一生、この闇からは抜けられないんだろう…。

だが、俺の愛する者のためだ。それを守るためなら鬼にでも悪魔にでもなってやる…。


 空虚…、虚無…


 心にぽっかりと穴が空いた…。


 鬼にでも悪魔にもなれる存在…、規格外…、化け物…。

それが“渡り人”か…。


 守るべきヒトだけを守ることが真の目的なのか…。

ヒトを笑顔にする一方で泣いているヒトもいる…。

さっきの奴らのように、笑っている奴らの下には泣いているヒトがいっぱいいる。


 俺がやっている事も、違う方向から見れば、奴らと同じ事をしているんだ…。

誰かが泣いているんだ…。


 弱い…脆い…。

ヒトなんてそんなものかもしれないな…。


 いつしか、オーネの街を過ぎ、当てもなく歩いていた。



 この道はどこに続くのだろう…。



 誰か…、助けてくれ…。

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