12-11 ここで会ったが100年目…
皆が馬車のところまで集まって来る。
石化した傭兵たちを見て、呆けている。
「カズさんこれは…。」
「石化…かな。」
「バジリスクのお肉を沢山食べれば、カズさんのような魔法を習得できるのですか?」
いえ、バジリスクの肉は関係ありません。
俺の軍師さんズは、バジリスクの肉にご執心のようだ…。
「ナズナ、大丈夫だったか?」
「お館様、大丈夫です。」
「ベリルは?」
「はい。今、バジリスクが通ったと思わせるような跡を付けております。」
「ありがとね。」
「ディートリヒは?」
ん?返事が無い。どうした?
ディートリヒの方を見ると、彼女は震えていた。
「どうした?」
「え…、あ、カズ様…。だ、大丈夫です。」
「大丈夫というようには見えないが、一体どうしたんだ。」
「はい…。言うべきか言わざるべきか悩んでおります。」
ん?もしかして…。
イヤな感覚を思い出した。
「ちょっと、ディートリヒと二人だけで話すから、みんなはベリルの手伝いをしてほしい。
できれば、バジリスクに襲われた感じを出してもらいたいんだけど、お願いできるか。」
「はい(((はい)))。」
少し離れた切り株に、ディートリヒと二人で腰かける。
「どっこいせ…。」
あ、いかん…、またパブロフのワンコ君だ。
ディートリヒを抱き寄せる。
「ディートリヒ…、言葉に出さなくていいから、首を縦か横で返事してほしい。」
コクコクと縦に首が動く。
「もしかして、ディートリヒを奴隷にしていた奴らはあいつらなのか…。」
そんなうまい話なんて無い。世界は広いんだ。
それに、彼女に約束していたんだ。いつか、懲らしめてやろうねって…。
でも、ヒトを恨んで、その恨みを晴らしたとしても、相手にまた恨みが残ってしまう。
恨みが恨みを呼ぶ…、これは負の連鎖だと思う。
しかし、不幸な事にディートリヒの首が縦に動いた…。
ラウェン様、セネカ様…。
運命にしては早すぎます…。それに彼女にとっては酷です。
俺はまだディートリヒを守り切れていないと感じている…。
本当に彼女を助けるためには何をすべきなのか、考えが浮かばない。
ディートリヒを強く抱きしめ、心の内を吐露した…。
「俺は今、ディートリヒが何をしたいのか分からない…。
顔を見た瞬間、過去の事が浮かんだんだと思うが、今、君があいつらに同じことをしたとして、何が生まれるのかが分からない…。
きっと、君の心のどこかには殺したいという願望もあることは否めないが、恨みが恨みを呼ぶことだって多々ある…。
俺が今話している内容は都合の良い考えかもしれないし、理想論だけなのかもしれない…。
だが、これだけは覚えていて欲しい。
今、君を助けることができるのは、俺たちだけだ。
だから、自分で何かをしようとするな。
すべて俺に預けることはできるか?」
ディートリヒは返事をしない…。
そりゃそうだろ、自分を蔑み、家畜以下の扱いで、さらに行為を公衆の面前で見せてる訳だから…。
自分の手で殺したいというのが事実だと思う。
でも、それをしたところで何も変わりはしないんだ。
彼女にそんな修羅の道を歩んでほしくない…。
であれば、出来る事をするだけ…。
俺が皆の業を背負いこむ…。それだけだ…。
皆は、この世界にまっとうに生きて行けば良い。
この世界には深く関与していない“渡り人”であれば出来る事だ。
向こうの世界でも子供の頃には鶏を食べるために殺したし、十年ほど前、生命を尊びながらも家畜の殺処分に駆り出されたこともあったなぁ…。
家畜とヒトは違うんだと思いながらも、命に優劣なんてない…。
「ディートリヒ、もう一度確認するよ。
あいつらは君の手を汚すだけの価値がある奴ではない。
だから、俺が君の業を背負う。」
ディートリヒが首を横に振る…。
もう一度、ディートリヒを強く抱きしめる。
「いいかディートリヒ。
君は生きろ。
長く生きろ。
あんな奴らのために君の命を削るな。」
彼女を強く抱きしめる。
「何故…そこまでしてくださるのですか…?」
ようやく声を出してくれた。
「愛しているからだよ。」
「身代わりも愛なのですか?」
「身代わりなんかじゃない。君の憂いを断ちたい、それだけだ。
それに、君の憂いは伴侶である俺の憂いでもある。だから、俺に全部委ねろ。
こういう時だからこそ、俺を頼れ!
今までは我慢してきたこと、一人で踏ん張ってやって来たことも俺を頼れ!
弱くて脆い俺を頼れ!」
「はい…。私はカズ様を愛しています…。でもいつも助けてもらってばかりで、申し訳ないのです。」
「そんな事はない。傍に居てくれる…それだけで助けてもらっているんだ。」
しばらくして、ディートリヒが絞るような声で話す。
「カズ様…、私を助けてください…。」
「おう、任せとけ!」
・・・
皆のところに戻って来た。
太っちょの2人が後ろ手に縛られ気を失っている。
「カズさん、バジリスクが襲ってきたように装いましたよ。それとバッグとミシンは馬車の中にありましたので取り返しておきました。」
「みんな、ありがとね。んじゃ、後は俺がやるから、皆はオーネの街に戻って。
あ、それと生き残った馬さんは、逃がしてあげよう。」
「主殿、あの二人は?」
「俺が対処する。」
「しかし、主殿は…。」
「ベリル、それ以上言うな。俺がやると言ったんだ。今は従え。
すまないが、漢にはやらなければならない時ってのがあるんだ。
それが今だ。」
珍しくベリルを睨むと、彼女は口をつむぐ。
「すみませんでした。分かりました。」
「じゃ、みんな宿屋に戻ってて。」
皆がフロートで戻っていくのを見届けてから、太っちょの二人を起こす。
「よう、起きたか?」
「は、お前は誰だ!
何故縛られているのじゃ!誰かおらぬのか!誰か!」
太っちょのおっさん、パニック状態になっている。
少し煩いので、おっさんの腹にケリを入れておく。
「少し、黙っちゃくれないか。」
「もしかすると、私たちを助けてくださったのでしょうか。」
今度は太っちょのおばはんだ。
「あんたも少し黙っててくれ。」
俺が睨むと、おばはん、下から垂れ流した…。
まぁ、スキンヘッドのおっさんににらまれれば、そうなるわな…。
それに、俺、顔怖いからな…、これまでの世界でも、その道のヒトか警察さんに間違われた事も多々ある。
「でな、アンタ達が取ってきたモノは回収させてもらったからな。」
「な、なんじゃと!」
「どこで話を聞いたかは知らんが、ヒト様のモノを盗んで帝国で儲けようなんてゲスな考えを持っているから、こんな事になるんだ。」
「儂はミシンなんてモノは知らんぞ。」
はい、墓穴掘りましたぁ~。自分で埋めた地雷踏んだな。
「ん!? 俺はモノと言っただけでミシンなんて一言も言ってないぞ。」
「あ…。」
完全にクロだ。騙されていたという事であれば少し考えてやろうとも思ったが…。
「やっちまった事は仕方がないな。」
「ま、待て。金なら帝国に戻ればいくらでも渡す。だから許してくれ。」
「何で?」
「じゃから儂らを助けろ。
そうすればお前の思い通りの金をやろうと言っているんだ。」
「だから何で助けなきゃいけないんだ?
俺はお前が誰なのかも知らん。何で見ず知らずの奴を助けなきゃいかんのだ?」
「儂はリルバレル帝国のファウル伯爵であるぞ。」
「で?」
「だから、リルバレル帝国の…」
「うるさい!ここは“なんとか帝国”じゃないんだ。“なんとか王国”なんだよ。
なんとか帝国の伯爵様が何でここに居るのか。
それはミシンを盗みに来たから。
それを帝国に持っていこうとした。それだけのことだろ。
名前とか言われてもこっちは関係ないんだよ。」
捕縛されながら、上から目線ってどんな性格なんだ…。
これが貴族か…? 反吐がでそうだ。
「さっきあんたいくらでも払うって言ったな。」
「あ、あぁ。助けてくれるならいくらでも出すぞ。」
「じゃぁ、一年分の帝国の国家予算。いくらか知らんが白金貨数万枚か?」
「そんな大金、出せる訳ないじゃろ!」
「なら、いくらでも出すって言うのは嘘じゃないか。」
「んぐ…。」
こいつ、やっぱりダメな貴族だ…。
「なら、帝国に行けばお前を厚遇してやる。貴族にでもさせてやる。」
「で?」
「屋敷も与えるし、女も与えるぞ。」
あ、こいつ、また地雷踏みやがった…。
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