4-29 採集と昼食は効率的に

 目が覚める。

懐中時計を見ると午前4時を指していた。

まだ寝てから2時間くらいしか経っていない…。


 昨日はいろいろとあった。

変なプライドが邪魔して失敗したナズナを叱咤激励し、何とか保ったものの、まだ本調子ではないと思う。そうするともう少し様子を見ながらの動きになる。


精神的なショックは立ち直るのに時間がかかる。

だからゆっくりと無理せずやっていくことが一番だ。


 俺はナズナを見る。

右腕にしがみ付き泣きながら寝たのであろうか、目の周りが赤い。

そこまで彼女を追い詰めていたものは何だったんだろう。

任務か、プライドか…。

まぁ、今後のナズナの動きを注視しておく必要があるな。


 俺はもう少し寝ようとするが、左に居るディートリヒが目を開ける。


「カズ様、おはようございます。」

「ディートリヒ、おはよう。でも、まだ少し早いからもう少し寝た方が良い。」

「そうですね。ではもう少しだけ…。」


 彼女は少し上に移動し、俺にキスをしてからいつもの定位置に戻るとすぐに寝入る。


 ディートリヒもこの一か月で大きく変化したな…。

彼女も最初は『守る』ということに固執していたが、今はお互いの動きが理解できるくらいまで到達した。俺の左側を任せる事ができる伴侶だ。


 そんなこと思いながら、俺も眠りについていった…。


「・・マエ様、ニノマエ様、起きてください。朝ですよ。」


 ん?誰だ?

 あ、ナズナか…。


「ん。おはよう。すまん。寝過ごしたか?」

「いえ、朝ごはんができました。」

「お、ナズナが作ってくれたのか?」

「はい。一応あり合わせですが…。」


 俺は身体を起こす。

ダンジョン内は暗くて、時間の感覚がなくなる。

懐中時計を見ると午前6時半を指している。

あれから2時間ちょっと寝たか。


 テントを出ると、簡易魔導コンロにスープが温められている。

スープとパンで朝食を摂るようだ。

もう一品と思い、俺はアイテムボックスからフライパンと卵を3つ取り出し、油をしき目玉焼きを焼く。

持ってきた塩胡椒で味付けし、パンの上に乗せた。

スープは温かくお腹にやさしい味付けだ。


 今日の予定を話しながら朝食を摂る。


「さて、行きますか!」


俺はいつもの掛け声をかける。3人の周りに淡い黄色の光がまとわり消える。


「ご主人様、これは一体何のまじないなのでしょうか。」

「あ、これはバフと言って、少しだけ体力とかが上がるもんだよ。余り気にしなくていいよ。」


 軽く答えて10階層のボス部屋へと向かった。


ボスはアラクネなので魔銃一発で駆逐させた。

早く13階層に行きたいがためだ。


11階層はオーク肉の素材を集める必要があったので、ディートリヒとナズナで鍛錬の意味を込めて討伐を進めてもらう。結果、2人で60匹を倒してオーク肉の素材集めを完了させた。

 2人はぜいぜい言っている。

そりゃ、2人で60匹だから、スパルタも良いところだ。

でも、自らやりたいという申し出を断ることもできない。

 12階層の入り口まで来て、少し休むことにした。


「ナズナ、次の12階層は最短ルートで頼む。」

「え、はい。それで良いのですか。」

「あぁ、出てきた魔物は俺がすべて倒すから、ナズナはルート上に何匹居るのかだけを教えてくれれば問題ない。ディートリヒは後ろからドロップ素材の回収を頼む。」

「分かりました。」

「んじゃ、もう少し休憩してから行こうか。」


 俺たちは30分ほど休憩した後、最短ルートで13階層まで到達した。


「結構いたね。」

「はい。全部で80匹くらいですね。昆虫ですから群れで来ますからね。」

「まぁ、それでも素材はいいのがあったのかな?」

「はい。はちみつやローヤルゼリーもあります。」


 ん?はちみつがあったのか?

確かに蜂に似た魔物はいたように感じたけど、デカかったぞ。

それよりも、今回のメインイベントである鉄の採集ポイントだ!


13階層の山岳を歩き、山肌を調べながら進む。

途中途中にゴーレムを感知するが彼らの行動エリアに入らなければ大丈夫のようだ。


13階層の半ばに来た頃だろうか、ようやく採集ポイントを想われる鉄の塊が多い地域に着いた。


「よし!ここで採集をするから、2人は周囲の索敵と警戒をお願い。」

「分かりました。」


 俺は魔法を駆使し掘削していく。

大きなもので約1mくらいの塊もあれば30㎝くらいの土が混ざったものもある。

うーん…。もっと効率的に採取できる方法は無いだろうか…。


鉄とその他の鉱物などを分けることができれば…、ん、待てよ。鉄だけを分離できれば?

鉄とあと必要なもの、クロムとニッケルか…、これがあればステンレスができるな。

これをこの山肌の土塊から分離してみようと魔法を試す。


「分離」


何とかイメージが通ったみたいだ。

山肌のなかから鉄、クロム、ニッケルの塊だけを選りすぐって掘り出すことが可能となった。


 そこからの作業は早かった。

誰も採取しないのか、出るわ出るわ。ざくざくと。

素材用のバッグは3時間ほどで一杯になった。


「ディートリヒ、ナズナ、ありがとう。終わったよ。」

「へ?カズ様、もう採取できたんですか?」

「あぁ。それも鉄だけじゃなく、クロムもニッケルも取れた。」

「ご主人様、“くろむ”とか“にける”って何ですか?」


まぁ、聞きたいことは多々あると思うけど、追々説明するとして、今は戻るか進むかを決めなくてはいけない。


「そろそろ昼食だと思うけど、どこで摂ろうか。」

「ここでしたら、周囲に魔物もいないので安全かと思います。」

「んじゃ、ここで食べよう。」


 昨日の残りの“お好み焼き”3枚と、パンにハムと野菜を挟んだものを渡す。


「カズ様、このパンに挟んだ料理は…。」


 ディートリヒが聞いてくる。


「多分この世界にもあるのかなと思って作ってみたけどね。これは“サンドウィッチ”という軽食だ。

 お好み焼きと二分する食べ物だよ。

 このサンドウィッチはソースをかけるのではなく、マヨネーゼで食べるものだ。

 モノは試しだ。先ずは食べて。」


 俺は二人に食べてもらう。

二人は一口、二口を食べ、そして三口でぺろりと平らげた。


「カズ様(ご主人様)、これは美味しいです。」


 片手で食べる事ができるから、チェスの合間でも食することができたんだ。


「さて、今後の事を相談しよう。

ここは第13階層だ。ここから先に行って第15階層のボスを倒して帰ることもできるし、第10階層まで戻って帰ることもできるが、どちらが良い?」

「少し待ってください。

 えぇと、この先のモンスターハウスは、虫かゴーレムのようですね。」


 ディートリヒがマップを見ながら説明する。


「ゴーレムについては、まだ戦闘経験がありませんので、何とも言えませんが、コア部分に一撃必殺を当てることができれば容易に倒せることはできます。

 しかし、問題は容易に近づくことができません。」

「それは何故?」

「ゴーレムの攻撃範囲が広いためです。腕も長いためリーチがあって、それを掻い潜っていくというのは至難の業であると思います。」

「そうか…。んじゃ、その動きや攻撃を止めることができれば良いのか?」

「タンカーでも居なければできませんよ。」

「んじゃ、その動きを遅くすればできると思うか?」

「それは遅くなれば中に入ることはできますが…。そんな事は可能ですか?」

「イヤ、分からん。」


 何せ、どうやったら動きを緩慢にするのかがイメージがわかないんだ。

確かゴーレムって呪印とかで動いているモノだ。

その呪印が書かれている部分を見つけ、その単語の最初の一文字を消すのが本来の討伐の方法だとか何とか書いてあったのを記憶している。

が、それはこれまでの世界の話であり、そもそも呪印の文言なども知らないし、一文字削ればそれで終わりということも立証されていない。

それよりも、コアを壊せば倒せるという方法で通っている。そりゃ、一文字消すよりはコアを一撃の方が効率的だよな…。


 何のアイディアも出んわ…。

電話には誰も出んわ…、なんかしょうもない…ダジャレだけが思い浮かぶ。


 うーんと思いながら、俺は膝をさする。

結構歩いてきたから、膝が痛いんだよ。今晩ディートリヒにお願いして膝のマッサージをしてもらおうかな…。あ、お風呂でマッサージも良いよな。温かくすれば関節も楽になる…。


 ん?関節?

温めれば動くよな。寒い時は痛い。関節がうまく稼働しない…。

それって関節を冷やせば動きが遅くなる?

いっそ凍らせるのも手か?でも瞬間的に凍らせるものは…、液体窒素か?

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